第53話 イメージって大事だね、
簡易転移門開通試験完了を報告した──。
「そ、それってどういう物なの?」
母様のきょとんは実に珍しい反応だった。
それは王都の寮で痴女と遭遇する前に行った開通試験だった。目に焼き付いて離れない白い肌はともかく開通試験は成功した。
「今は試作段階だから場所指定は出来ないけど、転移と違って特定場所にのみ行き来出来る門を形成する空間属性魔法なんだよ」
「転移ではないの?」
「どちらかと言えば転移門と呼称した方がいいかな、単体で飛ぶ転移と違って大多数で行き来が可能になる通り道になるんだ。現状は通り抜けるのに必要な制限時間があるけど」
「それはどのような用途で造ったの?」
「これの用途は──」
以前から考えていた諜報員の魔法だった。帝国に侵入し情報を持ち帰る。
我が国の出入国はザルに等しいが帝国は検問所を数カ所も設置した国家だった。
それを地図魔法で知った時この国の将軍がバカであると思わざるを得なかった。
(軍属となってしまった今では言えないけど)
将軍の命令では〈帝国に人形の諜報員を侵入させる〉とあった。だが、帝国国内には検問所が街道の数カ所に跨がって存在している。
その中を人形と隠して進ませるのは体よく鹵獲させるために送り込むようなものだった。
「──人形と隠す必要がある中で検問を通り抜けるのは至難の業と認識したんだ」
「それでその魔法を造ったということね?」
「そうなるかな。でも魔法弾が出来なかったらどのみちお蔵入りする予定の魔法でもあったんだ」
「お蔵入り?」
それは俺の魔力であれば形成は簡単に済む。
持続的に転移門の維持するのも容易だ。
だが人形にそれだけの魔力は与えられない。
変換核を載せる手もあるが危険過ぎるのだ。
相手は敵国の技術の簒奪に尽力する帝国だ。
載せたら最後、何をしでかすか分からない。
俺は母様の疑問に答えるように説明した。
「この転移門を形成するには膨大な魔力が必要という事実が判明したんだ。人形の上限値を超える分量のね」
「膨大な魔力」
「大前提として帝国という危険地帯に機密情報の塊である人形を送り込むから、例の変換核を載せる事は当然出来ない」
「そうね、鹵獲されたら最後、先の戦争のように奪いにくるわね。あの戦争の発端は空間接続魔法を得るために行われた物だから」
酷い理由を知った。空間接続魔法を奪うって魔導師の恩恵を持っていれば使える魔法だろ?
ああ、魔導師が居ないのか、帝国には。
「一時期失伝されていた転移魔法に関しては人を空間膜で覆って移動させる物なんだ。だから魔力量で言うと、そんなに消費しないんだ」
「転移杖が無かったら簡単にはいかないわよ」
「うん、一回の転移で一万は消費するからね」
「転移ってそんなに使うの?」
「転移が失伝に至った原因はそれだと思う」
母様並の術者でない限り使える魔法では無い。俺は例外中の例外だが。
だからここで重要な注意を母様に伝える。
「ただね、転移魔法にも問題があって隠密行動を行うには使えない魔法だったんだ」
「つ、使えない?」
「転移魔法を帝国相手に使うなら転移先を事前に把握しておく必要があるんだ」
「流石に把握は無理ね。国交があって大使館が置いていても大使館の中まで監視対象になっているから。我が国の場合は外から帝国大使館を監視するだけだけどね」
それって監視社会じゃね?
帝国といいつつ何処の社会主義国家だよ?
これは危険思想の転生者が居るだろうな。
「それなら確実に使えないね。転移魔法は出現時に誰の目にも見える魔法陣を展開するから」
「隠せないの?」
「年月を要せば改良出来ると思うけど空間魔法の改良って簡単にはいかないからね」
「そうなのね」
「で、話を戻すけど、転移門は空間に穴を開き続ける必要があるから通常の転移魔法よりも消費する魔力量が多い問題があったんだ」
「だから制限時間が存在する、と?」
「圧縮密度と消費量を抑えるよう改良しても最大三分がトントンだね」
「維持にかかる魔力量っていくらなの?」
「一分間で最上級攻撃魔法の二発分相当」
「そんなにぃ!?」
母様が素っ頓狂な声を上げるって珍しいな。
ずっと真面目な顔かと思ったら賑やかし程度に苦笑したりしていたけど転移門の消費量を聞けば驚かざるを得ないのだろう。
俺は母様の顔を記憶に留めながら苦笑した。
「それだけ空間に穴を開け続けるのは容易ではないって事だね。しばらくの間は国内で何回か試験を行い続ける必要があると思う。もちろん隠密魔法を、いや、空間迷彩魔法を常時展開出来る人形を用意する必要も出てくるけど」
「待って? 今の迷彩って何?」
ああ、そうか。そういう言葉って無いのか。
俺は仕方なく母様の目前で姿を隠した。
背後に居るシャルからは見えているが。
「あら? シュウ、何処行ったの?」
「ちゃんと目の前に居るよ」
「え? 声は聞こえるのに姿が見えない」
「これが今言った魔法なんだよ。これで隠密魔法と気配隠蔽、魔力隠蔽まで含めたら監視魔法でも視認出来ないでしょ? 魔力消費は高いけどパン一個を食べれば回復する程度だよ」
そう言いつつ姿を現した。
「はぁ〜。何も言うことが無いわ」
母様は呆気に取られているが帝都を監視魔法で見てみると赤外線カメラまであったからな。街中の至る所にカメラだらけだ。
帝国臣民が可哀想に思えるレベルで。
それを知って転移魔法の空間膜で全身を覆い隠す魔法を造った。呼吸も問題ないし熱源すらも外から感知出来ない魔法になった。
これに限って言えば空間を飛び越えない分、消費もそこまでではない。身体に空間を纏うのでどのような防御結界よりも強靱になった。
「これも人の身では限界があるけどね」
「人形様々って事ね」
「搭載魔法の種類を厳選するのと鹵獲防止の機密保護を最優先で組み込む必要があるけどね」
例外はシャルに与えている空間把握魔法だけだ。そこに誰かが居ると気づかせる魔法だ。
どうしてもズレ的な線が現れるからな。
人の目や機械の目で誤魔化せても、この魔法の前では輪郭がハッキリと見えてしまうのだ。
禁書に類するので使える者は限られるけど。
「それが可能なら命令期限までに何とかなりそうね。事前に研究時間を多めに取って正解だったわ。普通にやっていたら詰んでいたけど」
「とりあえず、一回使ってみるよ?」
「そうね、見てみない事には判断出来ないわ」
話している間に少し改良して場所指定を組み込んだ。消費量は少し減ったかな。場所指定無しだと把握出来ないから消費量が増えたのか。
大きさを指定した事で従来の圧縮で済んだ。
(ふむ、与えるイメージが明確だといいのか)
それこそ鍵言を発しない魔法みたいだな。
全てが大味になるというかなんというか。
俺は監視魔法を視界内に投影したまま叔母上の学長室の壁面を意識した。
そして空間属性魔石をあてがった薬莢を用意したのち二発の弾丸をリボルバーに装填した。
「では行きます!」
そして母様の工房の壁面に扉と同等の大きさの転移門を形成した。視界内に映る開通時間は約五分だった。めっちゃ伸びてる!?
これは撃った者の視界に映る特殊仕様だ。
早く閉じたい時は【閉じる】と呟くだけだ。
「あら、シエルじゃない、きちゃった!」
「姉様!? 一体何処から!」
「領の工房から!」
「はい?」
なお、頭の出しっぱなしは流石に危険なので通り抜けない者が居た場合は、どちらかの空間に押し出されるようになっている。
空間切断で死亡とかあると堪らないからな。
やっぱり親子だぁ!?




