第51話 気づけば軍属ってマジ、
それは蟄居から解放された翌日のこと──。
解放されたはいいが複雑な理由により屋敷の人形工房で汗水を流す俺。
「金型製造もあと少し、リボルバーは護身用で売るつもりかね? 所有登録者だけに見える自動照準補助魔法を求められたって事は」
俺の退学話は一瞬で消えてなくなり、復学ではなく翌年より設立されるはずだった特士校に編入される事になった。
現在は各分校の入試結果から上限六〇人を選抜中との事だ。
その内、三人は俺とミヤとサーシャだが。
理由は知力が他者よりも高い事、功績を鑑みて一般生徒に紛れ込ませるのは国益を損なうなど多種多様な思惑が入り乱れた結果らしい。これも単身で帝国軍一万を遠方から潰して撤退させた事が要因の一つだろう。
校内に居ながら敵将を討った事も含まれる。
王立特士学校と王立学校との違いは戦地で生き延びる将兵を養成する事にあった。
既存の王立学校では王宮内で働く者、騎士団に所属する者、宮廷魔導師団に所属する者など法衣貴族となる者がほとんどで、領地貴族は嫡男と予備の次男のみが通う学校に位置づけるという。
(エリート意識が助長しそうだな)
悪く見れば、次男以下・長女などの子女という平民に下る者が通う、王立学校の生徒達に見下される事が確定している場所だ。
それでも少数精鋭を謳う以上は結果を残さねばならない試験学校でもある。十二年間の結果次第で廃校だってあり得るし税金の無駄と揶揄される事だって起こりえる。
今の王立初等学校・本校は帝国の犬だから。
学長が正常でも国家の弱体化を狙った間諜が働いても不思議ではない。
実質、三学年が洗脳汚染されているからな。
それが九年の時を経て国の中枢に入り込む。
大変末恐ろしいが、これも入国税に胡座を掻いた罰だと思うとやりきれない話だった。
今後、無関係になる王立学校は置いといて。
(これで気の合う友達が出来れば幸いだな)
どちらかといえば分校に進学した友は居る。
大半は辺境伯家の子息子女だったりするが。
一人は騎士職のルイス・ヴィ・セリィヌ。
青髪碧瞳の爽やかなイケメン男子だった。
気前が良い裏表の無い性格の持ち主だな。
一人は叔母上の長女で重戦士のマリア・リィ・トゥリオだ。女子で重戦士だから筋骨隆々かと思えば幼子故、サーシャと大差無い容姿だった。顔立ちは金髪碧瞳の小動物な部類だ。
貴族の子女とは思えない引っ込み思案だな。
ただ妙に見覚えのある称号が見えたけどな。
親のを見てみたいって思うと別物だった。
他にも各家の寄子等、数名ほど理解を得てくれた者も居たりする。何も無知蒙昧な者ばかりが貴族家の子供ではないのだろう。
(平穏無事な安全圏に住まう貴族家ほど危機管理意識が皆無なのかもしれないな)
それはどの世界でも似たようなものだけど。
何はともあれ、思案しつつも金型製造は終わった。次に行うのはライフリングを削りだす治具だったり、試し撃ちの的だったりする。
基本的な製造は鍛冶師達でも可能で錬成師達にも新たな仕事を与える事が出来た。馬車部品を造るのもいいが馬車の絶対数が決まっている以上、部品がある内は仕事が無くなるからな。
但し、弾製造だけは人形師が行うしかない。
俺には魔石生成の恩恵技能があるからそれで賄えるが魔石加工は人形師の得意分野なのだ。
「たちまちは排莢部の改良が最優先事項だな」
それは再利用可能な弾に問題があるからだ。
戦場で回収せずまま放置すると帝国に鹵獲されて該当兵装を与え兼ねない。
一応、薬莢には専用の解析鑑定魔法を使わず解析や分解を行うと魔力消滅する機能を有しているが、どのような手段で把握するか不明なため、回収方法を検討しないといけなくなった。
機械文明だけあってエックス線照射で内部を調べるくらいは行うだろうしな。
完全回収が無理なら地面に落ちて数秒後に土に還るくらいは必要、あ!
(その手があったか!)
最後に土還元魔法を発動させればいい。
弾は絶対に鹵獲出来ないって事になるし。
不発弾も同様に土還元で対応すればいい。
(後は弾頭にも転移杖同様に国の人形と兵以外は使えない敵味方識別魔法も付与しておこう)
鹵獲されて量産されでもしたら面倒だし。
今は試作段階。製品化したらそれらの機密漏洩防止機能や安全機能がどうしても必要になるだろうから。
「あ、ジャム対策もしておかないと!」
§
各製品の金型を作り終えた俺は母様に相談し使用済み弾の土還元許可を無事に得られた。
どうやら母様も再利用出来る仕組みで雇用創出が無くなると危惧していたようで、消耗品とする提案に賛同を示してくれた。基本的に道具はどれも消耗品だ。再利用可能となると供給元の仕事が無くなってしまうのも当然だった。
(先ずは排莢後、地に落ちる条件で土還元魔法を発動させる。未発のまま落ちると弾の無駄になるから撃鉄が触れた物を条件式に加えるか、不発弾も撃鉄が触れるからな。雷管の魔法陣を改良して地面に落ちたら弾の全てが土玉に変化すると。内側に設けた解析分解消滅陣を改良して中央に敵味方識別陣を追記する、ギリギリかな。円滑移動魔法を外側に与えて魔石を収めて完成っと。魔法付与は充填前に行えばいいな)
これも専用付与魔導具を用意しないとな。
どれも禁書に類する機密魔法になったから。
薬莢製造と魔石製造は別物になるかもしれないが仕方ない話だった。魔力圧縮充填は専用魔導具で行うから最終鑑定後に使う事になる。
俺と母様が寄越した人形達の手によって。
(鑑定員も早急に用意しないとな、兄様達の護衛侍女もだけど。変換核を魔石に与えるか?)
弾の試作品を造り終えた俺は魔法付与と魔力圧縮充填を済ませると各種魔法陣の試験を無事に終えた。今回加えた敵味方識別陣は製造先で判別しており陣に王家の紋章が加わっている。
どうも武具に王家の紋章を加えると他国の者では使えない仕組みが加わるらしい。
最後は土還元が出来るか確認する必要があるため、俺はリボルバーを腰にぶら下げたまま屋敷内を彷徨った。
「シャル、何処で試そうか。人の居ない場所が良いんだが」
「脱衣所はどうですか」
「そこにするか」
一応、寮にも戻ってもいいのだけど優先順位はこちらが先だから。銃と弾の製造管理はオルト大公家に一任されており、母様の指示のもと領都の鍛冶師達は鋳造で大忙しらしい。
それと共に各領門に設置された判定具のアップデートも行った。銃弾関連の情報を領外に持ち出そうとすると重罪扱いになるように。
あとは大公領の城壁に通信妨害等を行う結界魔導具を設置した。これは帝国の無線通信そのものを完封する結界だ。無線起動及び領内に持ち込むと基板を焼き潰す仕組みを施している。
単純に電池の物質に反応する結界だけど。
(建国王もそうだけど帝国の技術者も同類な気がしてならない。先日の無線機から察するに)
機械に特化し過ぎて魔法が乏しい。
唯一使えるのは身体強化魔法のみ。
それ以外は元の世界と大差が無い文明を持っている事が判明した。それと捕虜達の武装、
(小銃ときたか、火薬を使っているから魔法と比べて飛距離が短いみたいだな。どの程度の知識を持って転生しているかが、鍵か?)
それもあって銃自体は隠す必要がないと判断した。漏れて困るのは銃弾だけだから。
(狙撃兵も居たしな。真っ先に潰したけど)
だから薬莢部分の対処が優先されたのだ。
特に魔力圧縮充填魔導具は極秘になった。
外に持ち出そうとすれば即座に死罪扱いだ。
色々と忙殺される主人公。




