第50話 災い転じて福となす。
シュウが良からぬ者達の餌食になった──。
「あんな無能、この学校にはふさわしくなかったんだ。居なくなってせいせいした」
「挑まれて逃げた甲斐があったな?」
「騎士としては負けても勝負には勝ったし」
「そ、それを言うなよぉ〜。お陰で父様に叱られたんだぞ? 敵に背を向けたって」
「あれは仕方ない、逃げなきゃ死ぬ」
「あれは俺でも逃げる」
それで騒いだのは騎士爵貴族一派だ。
底辺爵位を持つ者が一番上だと誤認しているからね。この爵位は名称変更した方がいいと思う、例えば兵爵とかね。
底辺を意識させない事には勘違いが増えて高位から第二第三の被害者産まれるから。
(体の良い人柱よね)
シュウが停学と蟄居を言い渡されてからミヤは元気が無くなり今日も休んでいる。
シュウが居るなら行く居ないなら行く必要はないと泣き叫んだのは記憶に新しい。
私も出来るならこの場の異様な空気だけは避けたいのよね。幸い、警戒感を滲ませたリーシャが側に居るから誰も近寄ってこないけど。
シュウが造った人形、寄り付こうものなら何が起きるか分からないって事だから。
(リーシャに手渡して正解だったね、シュウ)
それは別の殺傷道具だった。
魔法を使っていない道具だ。
弓矢形状なのに真横で矢を撃ち出す。
それをリーシャの右腕に折りたたんで持たせており、一人になった私に近寄ろうとした兄様達の取り巻きを寄せ付けなかった。
(一射目は兄様と取り巻きの間に)
撃ち終えると同時に弦が自動で引っ張られ、小さな箱から次の矢が収まった。
仕組みは理解出来ないが連射可能と知り、
(身体の周囲に矢を射ったのは驚いたわね)
示された兄様達は一目散に逃げていった。
見えない魔法弾よりも恐ろしいものに映った。それが私の護衛をしている事も。
矢を収めた弾倉なる箱もリーシャの侍女服袋に保管庫を設けて収めているという。
その総数は不明だが近寄ると風穴が開く噂は教師達まで広まっていた。護衛は不要とか取り外せとか叫んだ者も居たが私の立場的にそれが出来ない事を思い出し、苦渋の表情になっていた。すると今度は造った者を殺せと叫んだのでリーシャに命じて射殺した。
この時は叔母上も同時に魔法を放ったのでどちらの攻撃で死んだのか不明だった。
これもリーシャに聞けば先に矢が頭に刺さったとの事らしい。酸欠魔法より前に死亡していたとはね。我が国の捜査能力と判定能力の無さが露見した瞬間でもあった。
(各領の判定具設置は順調なのに功労者を殺せと願う教師には困ったものだわ。これも捕縛された教師が汚染した結果なら、亡命を進言したユルイ子爵の罪は相当よね)
海で溺れていた帝国からの亡命者を助けた。
ドゥリシア王国の元商人だと裏が取れた。
友好国出身だから助けて下さいと願い出た。
結果が兄様達の異常と校内の異様な雰囲気だった。まるで王宮で過ごしていた頃と変わらない、周囲の全てが敵かのような不穏な気配。
唯一の味方はリーシャのみ、遠巻きに見る生徒達は異様な気配を漂わせたままだ。
(嫌な気分ね、あ)
すると私の連絡魔導具が震えた。
「【通話】」
視界に映るのは父上だった。
シュウの沙汰が出たのかな。
私は意を決し問いかける。
「父上、何かご用でしょうか?」
「身構えるな、結果が出た」
「そう、ですか」
「此度の件、姉様が証人となった事で我が方の勝利が確定した」
「はい?」
父上は晴れやかな笑顔で伝えてきた。
それは鏡越しの父上の姿だ、父上からは教室内の雰囲気が見えていると思う。
「結果だけ言うと伝わりませんよ」
「そうだったな、すまん」
側に居るのは王妃様だろうか?
声音的に苦笑している事が分かる。
「先ほどディライト辺境伯領・北部にて、およそ一万の兵力を有する帝国軍が確認された」
え? そ、それって?
私はあまりの事に絶句した。
一万の軍勢が向かってきていた?
「ディライト辺境伯は警告音ののち兵を招集して迎撃に向かおうとしたそうだ」
ああ、例の魔導具が本格稼働したって事か。
毎日抜き打ち訓練を行っていたもんね。
それも設置した日から数時間毎に。
「それを報告された時は肝が冷えたが幸か不幸か彼を戻していた事に安堵したぞ」
「え?」
「騎士爵共はよく分からない魔法と騒いでいたが、姉様曰くあれは人形に与える兵装だった事が判明した。彼自身も扱える代物であるのは確かだが、あれも人形師故と思うしかない」
ま、待って? 話が読めない。
兵装ってリーシャの持つ道具と同じ扱い?
あれを与える事が出来るの、人形に?
「弓では届かない遙か遠方、北の国境上で駆けてくる敵兵に対し精密魔法を行使した。敵の大将首を落とし末端の小隊長を全て倒した。最後は動揺した指揮官めがけて石礫を大量に見舞ったそうだ。捕虜の捕縛に向かった兵達によれば鎧が全て穴だらけとなっていたらしい。魔法による石礫故、貫通後は消えたようだがな」
それを聞くと人の身で撃つ道具ではない事が分かった。人形のための殺傷道具。
兵装と捉えたら国力と示す価値があるよね。
「あとは、そう、遠くに居る者を簡単に視認出来る道具。双眼鏡と言ったか、これは彼の名前で登録して、斥候達に持たせる運びとなった」
それってミヤが使っていた黒い塊だっけ?
それを子供であるシュウの名前で登録する?
まさか、無能云々の話を打ち消すつもりで?
「今回の功績を鑑みて彼の罪は不問とする」
「は、はい! ありがとうございます!」
「ただ、校内に復帰させるのは難しいがな」
「え?」
「シエル曰く知力が最大とあった。となればもう一人と共に──」
そ、それって本格的な離れ離れになる?
ということは狙われ易くなるって事で。
「わ、私はどうすれば?」
「どうした? 急に狼狽して」
「こ、校内はクリア準騎士爵の手により汚染が進んでおります。こ、このままでは私自身の身が危うく、で、出来れば共に」
こればかりは無理を承知でお願いしてみる。
私に毒耐性が生えたから今度は力任せできたからね。
兄様達は取り返しが付かない状態のままとの話だから今度はどんな手でくるか分からない。
「話は最後まで聞け」
「あっ、申し訳ございません」
怒られた、恐怖が出てきてお腹も痛くなってきた。兄様達と同じ環境には居たくない、次は事故にみせかけて何かするに決まっている。
それくらいは平然と遣って退けるから。
父上は私の沈黙を察したのか、
「以前から進めていた特士校の件を前倒しする事になった。建物は既に出来ているが講師探しで苦労している話だったな。それも目処がついたので──」
以前聞いていた事案を提示してきた。
それは国軍学校だ。授業内容は通常の王立学校と同じ物で防衛に重きを置いている。
卒業後は通常と同じくギルド所属となるが、有事の際には戦地に赴く事が義務付けられる。
シュウ曰くその扱いは予備役という。
しかも生徒は本校から選ばず分校から選ぶ。
対象校は大公領と辺境伯領の分校のみ。
一つの建物に十二学年が収まる少数精鋭。
最初は一年生から始める事にしたそうだ。
「中央で温々している者には耐えられないだろう、サーシャも本来なら転学は叶わないのだが次期大公家に嫁ぐ事が決まっている以上、通わせないなんて事は出来ぬからな」
「!? で、では?」
「転学手続きは進んでおる。早くとも本日中には終わるだろう」
「あ、ありがとう御座います、父上」
私は嬉しくて涙が溢れた。
地獄から離れる事が可能になったのだ。
周囲の視線は痛々しい者を見る目だけれど。
一方、不貞寝嬢はどんな夢を見る?




