第47話 自重ってなんですかね、
あのひと騒動があった後の教室は──。
妙に静まりかえっていた。算数の授業は粛々と進み、当てられたミヤがわざと間違えて失笑を受けたり、俺が間違えると沈黙を誘ったり。
サーシャが答えると喝采が起きたりしてその空気は様々だった。どちらにせよ、この空気感が三年も保つとは到底思えないんだよな。
(正直、高校まで通った俺とミヤにとっては暇で堪らない残念感だよなぁ、違った三年間だよなぁ)
黒板では足し算が書かれていて、暇すぎた俺は植物紙に三角関数の問題を書いていた。それを俺の隣に座っていたミヤがごそごそと解く。
(流石、成績上位者。今世でも頭いいなぁ)
褒めて褒めてと頭を寄せてくるのは少し微妙だが撫でておく。
(ん? 今度はミヤからの出題か。現地から帝国までの射撃角度を求めよ。距離は地図魔法で出せと? んな、無茶というほどでもないか)
初等学校の授業で別次元の問題を解く。
隣にて板書するサーシャは目が点だな。
何してるのという白々しい視線が痛い。
(正解って、地図魔法に答えが出てるし)
俺が答える以前に様々な情報が地図魔法に現れていた。それが答えと理解出来る者は少ないが。
(一時間ってこんな感じだったか? いや、時間の感覚がアバウト過ぎるのか。確か予鈴と本鈴を鳴らすのは用務員の腹時計、ではなく気分次第だとか言ってたな)
流石に時間の感覚がないのは困りものだったため、チタン製の腕時計を成物錬成で造って左腕に巻いた俺だった。それを見たミヤが羨望の眼差しを向けたので前世で使っていたミヤの腕時計を造って手渡した。それは俺の腕時計よりもひと回り小さい女性用の腕時計だが、割と似合っていた。
(過去最高の笑顔かよ。そんなに嬉しいか)
この時計は内部機構に水晶と雷の粒魔石を用いており例の変換核を小さく纏め裏板に収めている。開封出来ないのはどの魔導具でも同じだが、ここまで小さい物は存在しないだろう。ミヤは笑顔で文字盤を見つめ、サーシャは文句を言いたそうなジト目だった。
(パッと見、宝飾品か何かに見えるもんな)
だから仕方なくサーシャに色違いを贈った。
ミヤが黒ならサーシャは白ってな。
(うわぁ、一気に華やいだ。欲しかったのね)
すると今度は背後から視線を感じた。
シャルとリーシャが欲しそうに見ていた。
(はいはい。シャルは銀でリーシャは銅だな)
ここで金とすると余計な誤解を得そうなので別物の見た目で手渡した。腕時計ではなく懐中時計だ。侍女服のポケットに収まる仕様で簡単には壊れない金属強化魔法を与えている。
当然、防水防塵で防刃でもあったりする。
鎖とクリップで留め落下防止の工夫もした。
教師の目を盗みシャル達に手渡した。
(喜んでる喜んでる。これから時間管理がしやすくなるから給仕で困る事もないな)
ここが最後尾かつ真上だから手元が見えないのもあるだろう。
大半の生徒は下に座り、中程に高位貴族の子息子女が座っていた。本来であればミヤも下に居なければならないが馬車の件があったお陰か誰もが認めていたようだ。俺の場合は魔導具が先立ってしまい表沙汰には出来ない品目が並んでいる。
それがあるため名実ともに無能の烙印を押されており現在進行形で白い目で見られている。
(錬成師でも造り出せる代物か、何かあったかな?)
一つは授業そっちのけで造っていたりするからだろうが、こればかりはどうしようもない。折りたたみナイフとか小型ボーガンとか。ミヤが何してるのとチラ見するような代物を机に置いている。
一つは存在して良いのか分からない拳銃だった。弾の入っていないリボルバー。
ライフリングまで刻まれているし。
(九ミリ、各属性魔法を収めて撃ち出すか)
弾には属性魔石が収まった薬莢を用意した。
撃鉄を落とすと魔力を魔法に注ぐ仕様だな。
火:火弾、水:水弾、土:土弾。
風:風弾、雷:雷撃、光:回復。
計六発の弾を十セットと装填具も造った。
そのうえで魔力圧縮充填魔導具も造った。
小型だから置き場所にも困らない優れもの。
魔力を練り込む事が出来る者だけが使える。
そこらの子供では先ずもって無理だろうが。
(弾頭と種類を変えたら狙撃銃も出来るか?)
流石に使おうとは思わないが、収納術の方に用意した。あまり大きな物を置くとミヤが嫌そうにこちらを睨むと思う。睨むというか呆れるか、現時点でもかなり呆れているし。
しばらくすると授業が終わった。
授業が終わった途端、
「なんでそんな物を造ってるの!?」
教師が居ても気にせず俺を怒鳴るミヤ。
「気がついたら造ってた。公開はしない」
「当たり前でしょ! こんな殺傷道具なんて」
「一応、回復も使えるけどな?」
「そういう事じゃないの!!」
怒られながら一発ずつ装填する俺。
「試し撃ちしたいけど、都合の良いバカは居ないかね? この際、ポロ珍君でいいか」
「殺すのは無しだからね!?」
「いや、不敬罪されまくってるし、よくね?」
「だとしても、って、撃ってるし。はぁ〜」
照尺と照星を合わせて発射した雷撃魔法。
カチッという撃鉄が落ちた音が響く。
俺を睨むポロ珍君に一瞬でヒットした。
「お? 痺れたみたいだな」
「回復させてよね?」
「次弾は回復だから、よっと!」
今度は痺れて動けないポロ珍君の後頭部めがけて発射した。こちらも一瞬で本人に到達し、スクッと起き上がる。魔力感知を持つ者以外には見えない弾丸、現れるのは効果だけだ。
例外は現象として生じる魔法だけだな。
火と水と土と風だ。それらは発射と同時に高速で飛ぶ各種弾頭が見えると思う。
だから今度は窓を開けて遙か上空を飛ぶ、
「え? 今の何?」
「鳥が落ちた? ここから魔法を?」
「見えなかった。何したの?」
小鳥に向かって水弾を撃ったら驚くようなスピードで直撃した。やべぇ、やらかしたかも。
「射撃距離すら関係ないのかよ」
「また、とんでもない物を造ったね?」
「狙撃銃もあるんだが? こんな感じで」
「だから出したらダメェ!」
ダメと言われると使いたくなる不思議。
「超長距離まで見えるわ。ほれ、双眼鏡」
「もう! 一発だけだよ?」
文句を言いつつも観測手を行うミヤ。
「こんなもん一発が限度だよ」
スコープ越しに見えるのは王都から遙か遠く、辺境伯領を超えた帝国の街道だった。
「この双眼鏡、魔法的な補助は?」
「使ってない。補助無しで倍率だけ限度知らずにあげている事かな。このスコープは補助ありだけど」
「何枚レンズをはめてるの?」
「覚えてないな。丁度良い感じで東部に攻め入っている帝国兵が居るから火弾で撃ち抜いてやるわ」
「どれだけの距離を撃つつもりなの?」
「ピンともこないな。っと、吐くなよ?」
俺はミヤを注意しつつ照準を合わせる。
照準は馬に乗って駆けてくる偉そうな豚だ。
そして呼吸を整えたのち、引き金を引く。
直後、親指大の火弾が音も無く発射された。
帝国との国境に存在するウィリック渓谷。
南は海まで北は父様の領地手前にある谷だ。
谷の反対側で辺境伯軍が魔法を撃っていた。
小競り合いは頻発しているということか。
「吐くって? あ、ヘッドショットしてるし」
「脳漿どばぁだな。殺しの忌避感が無いわ」
「価値観がこちら側だからじゃない?」
「そうかもしれん。ミヤは?」
「現実味がないね」
狙撃銃を収納術に片付けた俺はミヤから双眼鏡を受け取り窓を閉める。実にあっけないな。
「なんです? 今の黒い杖は?」
片付けた直後、沈黙していたサーシャが質問してきた。どうやって説明しようか?
またも自重無しで造ったか。




