第46話 無知は罪だと思う日。
シュウの言っている意味が分からない──。
(入国審査? 審査って誰を審査するの?)
私は質問と回答の意味が分からないまま二人のやりとりを眺めていた。シュウはミヤと共に悪人を出入国させないと言った。悪人、その定義は悪い事をする人間の事だが、それが他国から流れてくるなんて思いも寄らなかった。
(入国税では足りないの? 説明してよ!)
我が国は基本、入国税を払えば誰でも入国が可能になる国家だ。その分、入国税は高く大金を払ってまで悪事を行う者など居ないと思っていた。その大金が審査と同等のはずなのに、それ以上に何かを求める二人が分からない。
二人は私の目前で判定魔導具を造っていた。
黒台座の上に手のひらと同じ大きさの水晶球を載せた魔導具。台座はミヤが、水晶球と魔法をシュウが錬成した。
それを左右で一対になるよう複製していた。
「これを街道の領門に設ければ王都に入る前に大概の犯罪者は入って来られないな」
「うん、悪徳商人の密輸も止められるから水銀事変の二の舞は起きないと思うよ」
水銀事変、それは伯母上が仰有っていた帝国に持ち出されていた話だ。
回収に手間取り、危うく国の責任になりかけた大問題。錬成した者と売り出した者が子爵と辺境伯という頭の痛い問題だ。
すると今度は二人の子供である子女と子息が別の形で何かを押っ始めようとしている。
だから私は錬成が終わった頃合いに問うた。
「審査について答えになっていないのだけど」
問いに応じたシュウは以前見たような真剣な顔付きになる。それは隣に居るミヤもだった。
「それは答える。魔導具の説明もする」
「え?」
「安心して、求めている答えは出すから」
「う、うん」
「先ず、我が国の入国税に関しての問題から言うぞ。入国税は各国の貨幣、帝国と王国で扱う貨幣がそれぞれ異なるが、その国の扱う貨幣の内、金貨三枚・三千万ルトに相当する税を納めなければ入国が出来ない」
分かってるのに何で問題があるって言うの?
私は疑問気なまま話を促す。
「続けて」
「この入国税では金品を搾取しようとする盗賊などは先ずもって入国出来ない」
それがあるから法外な税金を課すもの。盗賊という無法者を入れないために。
「だがな、そこに抜け穴があるんだ」
「抜け、穴?」
え、どういうこと?
「確かに大金が必要なら金を持たない者は入国出来ない。それは商人のように荷馬車で出入りする者も同じだ。ただな、金を払えばいいって事は、誰かが払えば入国出来るから──荷馬車は検疫しているのか?」
「け、検疫? 何それ?」
「これは付けてて正解だったね?」
「ああ、だから食中毒系の毒が多いのか」
え? な、何か不穏なんだけどぉ!
私、それ、口にしているんだけど!
いつもお腹が痛くなって。
「つ、続けて」
「検疫ってのはな、我が国あるいは他国にある病原菌、病気となりうる原因・汚染物等を事前に調べて取り除く事だ。取り除けないならいくら税金を払おうとも出入国は許されない。むしろ悪意ありで、処罰されても言い逃れは出来ない。何せ荷物一つで簡単に他国を滅ぼす事が出来てしまうからな」
「水銀事変ではそれが無かったから簡単に帝国へと流出したんだと思うよ。あとは僕の母様と奥様が毒に塗れながら回収するはめになった」
じゃ、じゃあ、我が国の失態って。
私、多分、顔面蒼白になってるよね。
シャル達はきょとんだけど。
「話を戻すが、その荷馬車の中身がそういった物以外なら、どうなるかって話に繋がるんだ」
「え?」
「抜け穴だね。金持ちという支援者、あるいはそれらの荷馬車に不正で乗り込んで行けば大金を払わずとも入国が出来るって事だから」
「あっ」
気づいたかも、大問題に。
「あとは金持ちほど悪事に手を染める者が多いんだ。金を持ってて当たり前の詐欺師に大金を払えば入国可能とするってダメだろ。おあつらえ向きに騙し易く誘導し易い国民しか居ないから。煽動も行い易く操り易い、教室のバカ共から察するに操られない者の方が少ないな」
「うっ」
「そうそう、うわべだけ取り繕った大悪党が国内を平然と跋扈する。先の教師もそれと同じで世間知らずの国だからって下に見てね。捜査能力が無いのも大金を払えば悪人は入らないっていう自信に胡座を掻いた末路って事だよね」
ミ、ミヤに先に言われたぁ!?
「それで説明に移るが、この魔導具は一対で一つの魔導具なんだ。入国/出国それぞれの出入り口に設置して、荷馬車内部はこれで検める。密入国者が乗っているなら有無を言わせず祖国の何処かに強制送還される。危険物は無害化と無毒化が同時に行われる。危険物または密入国者を乗せていた御者は荷馬車ごと強制送還だ。これは単身で入国した旅人も含まれる。この国の者なら通り抜けた後に馬と御者、旅人が一時的に衰弱する。荷馬車と馬は門近くの草原へと転移、御者と旅人は牢へとご案内だ。判定結果の罪状を首にぶら下げる仕様でな」
「仕組みは左右の水晶球から発せられる検疫鑑定魔法と善悪鑑定魔法の二重魔力壁が働いて内容物と罪歴を総検査するんだよ。検査後はシュウ様が仰有った通りの結果を招くの」
「う、うん。凄い仕組みなんだね」
「入国税の徴収はこれを通り抜けたあとになるだろう。払ったのに入国出来ないとしないだけマシだ。使節として訪れたい者なら、大使館を通じて転移杖を使って迎えに行けばいいしな」
「仮に飛び越えても、門と同等の高さまで魔力壁が出来ているから逃げる事は出来ないしね。魔導具も窃盗対策で地中深くまで杭を伸ばすから奪う事も出来ないし」
え? その魔力って何処から?
水晶の奥にチラリと魔石が見えるけど。
それだけの魔力を魔石だけでは無理よね。
転移に用いるって事だから、あっ。
「ま、まさか?」
「限定的に使っている。隠しているけどな」
例の変換核をそれに使うなんてぇ!?
「やっぱりぃ!」
「偽装魔石を水晶の裏側に収めているから定期的に交換する素振りをすればいいと思うよ?」
「そ、そうなのね」
もうね、引きつるしか出来ないよ。
この二人が揃うと何が生まれるのか?
すると私達の真横から叔母上の声が響く。
「天才が揃うと何が生まれるか分からないな」
「!?」
私は驚きながら振り返りシュウはしてやったりの表情に変化した。あ、連絡魔導具!?
会話しながら聞かせていたのぉ!
「だが、有用な物品であるのは変わりない。私の主人も密入国と密輸をどうにかしたくて悩んでいたから助かった。辺境の苦労は王都に住む者には分からないからな。感謝する」
ああ、トゥリオ辺境伯はその件で心を痛めていたのね。報告しようにも国の方針である以上は覆せないし、代行する魔導具も存在しない。
ドゥリシア王国から多種多様の魔導具を集めていたのも、それに即した物があるか調べるためとも思えるよね。というかドゥリシア王国からも密入国ってあるんだ。結構不味い、よね?
シュウもミヤも辺境出身だから身をもって分かっていたということか。王都出身が如何に幸せなことか嫌でも理解出来るね。
「早速だが、私が王宮に届けてくるよ。それと予鈴は鳴ったぞ? 授業に遅れないように!」
「「「は、はい!」」」
「良い返事だ。まぁ初日の授業はお試し程度だからそこまで気を張らないでいいぞ。本番は明日からだからな」
私達は叔母上の言葉を聞き流しながら早歩きで教室に戻った。背後の叔母上は苦笑しつつもインベントリに魔導具を片付け、王宮へと向かう馬車に乗った。
休憩時間は何分なんだろう?




