第43話 不穏な気配を漂わせるな、
入学式、それは辱めを受ける儀式なり──。
なーんて思っていた前世もありました!
実際には首席であっても呼び出される事はなく同学年の王女殿下が壇上に立ち、ご挨拶をしただけだった。各教室に案内された後も俺達に自己紹介の機会は無く入学した平民のお友達がアワアワと事故紹介を行っていた。
俺の世代はデビュタントで顔見知りになっている相手がほとんどだ。
今更、相手の素性を知る必要はない。
知ったとしても媚びへつらう関係が出来上がるだけで大して有用な事もない。
(性格を覚えて集約するだけだな、母様も馴れ合う必要は無いと言っていたし)
そう、この時の俺は最後尾の窓際で静かに外を眺めるだけだった。サーシャは貴族令息に囲まれ、ミヤは貴族令嬢に囲まれていた。俺の背後に佇むシャルとリーシャの元にも一風変わった貴族令息が集まっており、それぞれに人気が出ていた。俺の元にはやらかしている関係で誰も来なかった。
聞こえるのはお高く止まっている令息とか無視だと宣う嫉妬のコソコソ声だけ。
(これが母様の一言の真実か。出る杭は打たれるというが初っぱなから洗礼を受けているって事だな)
この反応は幸か不幸か前世から慣れている。
俺はどうあっても孤高が似合うのだろう。格好良く言えばそうなるが悪く言えば一人ボッチである。このボッチを見て反応するのは例のポロ珍君共だったりする。
「ボッチの田舎貴族が居るわ〜」
「どの面下げて本校に来ているんだか」
「田舎に帰れ、このド田舎貴族!」
騎士爵家のガキ共だけが平然と馬鹿にする始末だ。不敬罪で伸したろうか?
なんて言えば悪評が立つため、無視の一択だと学長からもお願いされている。
教師でも同じような偏見を持つ者が当たり前に居る。偏見、辺境伯を田舎貴族と呼ぶ、王都産まれが尊いと宣う頭のイカれた教師が当たり前に居るのだ。
(スタートラインは産地で決まるってか。国境を護る貴族家の意味を理解させて欲しいものだな、成り上がり貴族に対しては。そうでなければ贅沢な生活も揶揄する時間も全てが無に帰するというのに)
うるさすぎて遮音魔法を行使した俺はボッチで眺める。校外は緑溢れる森林か。
各クラスは三〇人毎、六クラスが存在しており各学年で一八〇人の生徒が居る。
割り当ては試験からを選ぶ事なくランダム。
例外は俺とサーシャとミヤが同一クラスになるということだけ。ようは王位継承権を持つ者と、とんでもない頭脳を持つ者をひと纏めで護っている事を示しているに過ぎない。
(初日から授業があるのも全寮制だからだろうか? ミヤにも適度に流せと言ったがどうするつもりなんだろうね)
それは、その日の内に登録された馬車の噂があっという間に広がり、本当の考案者がミヤである真実も一気に広まった事にある。
魔法を使わず誰であれ作り出せる新技術だ。
付与を必要とする魔導具とは違う最新技術を作り出した。それは半人前錬成師達にとって憧れの象徴となり、ひと目見たいと他の教室から訪れるほどである。
一方、登録しても名前を伏せられる俺は無能人形師、親の七光りと言われている。
(隠す理由がある以上は仕方ないのかもね)
母様もかつて同じ道を歩んだ。
王家の姫だったから俺よりは少なからずマシだが陰口は当たり前にあったという。
腕を技術を持つ人形師は狙われる。
国内で揶揄する馬鹿ではなく帝国貴族に。
だから隠す事は必須であり、知らずに文句を垂れる者は、あとで見返せば良いと言っていた。
(貴族制というカーストの中でクラスカーストが出来上がりつつあるな。これを見ると、この異世界も大差無いように思える。皮肉な事に)
当然、俺と同じ辺境出身貴族もそれなりに居る。辺境伯の子息子女も他の教室に居る。
田舎貴族と揶揄する者は総じて法衣貴族か近隣に住まう領地貴族の子息子女だけ。
(有象無象の行いなんて気にするだけ無駄か。どうせ卒業と同時に手のひらを返すに決まっているし)
しばらく待つと担任教師が入ってきた。俺は遮音魔法を解除して前を向く。
「全員、席に着きなさい」
教室の椅子は階段式で壇上を上から見下ろす座席だった。席順は自由、誰が何処に座ろうが都度変更が可能な物だった。
俺の元に来ようとしたミヤとサーシャは取り巻き共から強引に引き離された。関わったら無能が感染しますとか、近寄ったらダメですとか何とか言われる始末だ。ミヤもサーシャもカチンときているのか頬が引きつっていたけどな。
壇上に立つのは茶髪の中の白髪が目立つ老齢教師。名前は皮肉なことに例の報告者だった。
俺は訝しげな視線を向けつつ、
(教師の人事は誰がやった? ああ、人事部の人間を買収したのか? 腹黒王女、恐るべし)
人物鑑定を行う、結果は極悪人。
どういう意味で極悪人かと言えば極悪人の項目に犯罪歴の一覧が溢れたからだ。何も載らない善人はともかく、偽善者でも履歴が並ぶと知ったのは王都に来てからだ。
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名前:アリク・ヴィ・クリア
年齢:六〇歳
職業:商人/C
恩恵:商機判定
魔力感知
技能:魅了術、洗脳術
魔力:三〇〇〇/三〇〇〇
体力:五〇〇〇/五〇〇〇
知力:八〇/一〇〇
爵位:準騎士爵
善悪:極悪人
罪歴:詐欺、窃盗、恐喝、暴行、殺害
洗脳、間諜、漏洩、買収、転覆
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ここまでの悪人は見たことがない。
準騎士爵は亡命者の爵位だから省く。
右目に情報を集めて不必要な情報を省いたがそれでも多すぎた。最後の転覆って貴族家を取り潰しにまで持っていったってか。
(この国、結構不味くね? 性善説を基本とし過ぎているから、気づかない場所で犯罪者が沢山なんて事が当たり前にあるのかもな)
ミヤなんて顔面蒼白でこちらを見てる。
(洗脳術や魅了術が技能にあるな。消すか)
だから俺は、この後に行使されるであろう技能を全面的に封じる事にした。それは昔造った〈技能剥奪〉だ。技能を持った罪人をインベントリに入れる際に造った魔法で見事に技能が消えさり再取得も不可能になった。
それを陰詠唱で行使する。魔力感知があろうとも魔力隠蔽された俺の行使には気づけない。
剥奪された事にも気づけないけどな。
それと同時に魔法行使すら出来ないよう、同じく罪人向けの〈魔力完全剥奪〉を行使した。
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名前:アリク・ヴィ・クリア
年齢:六〇歳
職業:商人/C
恩恵:商機判定
魔力感知
技能:なし(再取得不可)
魔力:〇/〇(完全回復まで一〇〇年)
体力:五〇〇〇/五〇〇〇
知力:八〇/一〇〇
爵位:準騎士爵
善悪:極悪人
罪歴:詐欺、窃盗、恐喝、暴行、殺害
洗脳、間諜、漏洩、買収、転覆
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直後、ミヤの顔が驚愕に変わった。
この魔法は魔力隠蔽が与えられた放出系魔法で魔力譲渡機能を有する。譲渡先は収納術中にある空魔石だ。およそ三〇〇〇の魔力が魔石に注がれ最後の最後までスッカラカンとなる。
本来なら酩酊感に見舞われるが、これはそういう感覚すら封じる魔法だ。
相手に気づかせない危険な禁書指定魔法。
唯一使えるのは俺だけ。これで魅了魔法すらも行使出来ないし、この後の魔法授業で大恥をかく事にもなるだろう。
(サーシャの命を狙おうとした罰だ、甘んじて受けるといい)
帝国から亡命してきたのも全て嘘だな。
間諜として送り込まれただけで。
商人とあるのは本当だから嘘と真実を織り交ぜただけか。
問題が起きる前に片付けるスタイル。




