第42話 切れ味抜群の罰命令。
本日は王立初等学校の入学式だ──。
僕達は早朝より寮まで転移で移動し、寮に届けられている制服に袖を通した。
案の定、僕だけは男子生徒の制服だった。
(分かってた、分かってたよ! しくしく)
制服は黒で統一されたブレザー式、細いネクタイは白だった。女子制服はリボンだけが白で裾の長いスカートを履くことになっていた。夏場は白いシャツになるそうだが、暑そうだね。
するとシュウ様が制服を着たまま、
「少しの間、王宮に行ってくるわ。サーシャにはこれを手渡しておくな、普段はインベントリにしまっておけばいいから」
「こ、これは?」
「護身刀だ。害意ある者、特に帝国民が相手だと切れ味のある刃が形成され、王国民に対しては刃引きされる特殊刀だ」
「そ、そのような物を私に?」
「これは継承権を持つ者に対して手渡す事になったんだ。連絡魔導具だけでは身を守る事が出来ないからな。鞘と柄頭に紋章を追加刻印しているから、それを示すだけでも王女だって分かるようになる」
「そうだったのですね。ありがとう、シュウ」
脇差し、否。日本刀を手渡してきた。
子供が持つと完全に日本刀だよね。
試しにサーシャ様の刀を持たせてもらうと軽かった。継承権の無い者でも持てるのね。あ、抜刀は出来ないか。
僕が慣れた手つきで抜刀しようとしたらシュウ様が注意を入れてきた。
「抜刀は王家に準ずる者しか抜けない制限をかけてあるから無理だぞ。刻印を打つまでは誰でも抜けたが紋章を打ったら認証が付いてしまったからな。こればかりはどうしようもないんだ。抜けばこんな感じで」
「「「黄金剣だ!?」」」
「ダマスカス鋼みたいな見た目?」
「これの方が切れ味が鋭いからな」
ここにきて特殊鋼が出てきたよ。
刀身の先を見る限り小烏造りだね。
サーシャ様は僕から脇差しを返してもらうと大事そうにインベントリへと片付けた。
僕も欲しいなぁって自分で造ればいいのか。
(前世で使っていた刀をイメージして、身体の成長に合わせて刀身が伸長する。純粋に玉鋼を用いた鉄製でいいね。鞘はガラス繊維を用いた繊維強化樹脂で。静物錬成開始!)
すると僕の両手のひらの上で魔力が形作るように綺麗な白い鞘が舞い降りた。刀身も含めると白い刀って感じがするね。柄も白だったし。
制服が黒いから白が映えるっていうか。
その代わりシュウ様からは呆れられたけど。
「言ってるそばから造ってら」
「刀身が伸長する特殊刀だよ。鞘に収めたら従来の長さに戻るけど」
僕はそう言いつつ抜刀し前世の剣術を披露する。技能として剣術が出ていなくても身体は自然と前世のように動いた。サーシャ様は呆然となっているけれど。
「そういや免許皆伝までいってたっけ?」
「一応ね、久方ぶりだけど上手くいったかも」
「ミ、ミヤも剣が使えたの?」
「得物が無かったから使う事自体なかったけどね」
「まぁ護衛としては申し分ないから、しばらく頼むわ」
「はーい、任されました」
多分、分かってて造らせたと思う。
僕に見せたら欲しがる的な。
実際に欲しくなったから造ったけど。
納刀を済ませた僕はインベントリに刀を片付け転移で王宮に向かったシュウ様を見送った。
その代わり、技能が一瞬の内に載ったけど。
(一度でも使うと反映されるって事か)
それから数時間後、シュウ様はドレス姿の奥様と戻ってきた。隣には学長こと奥様の妹君も居た。ドレスは奥様が赤、学長は黒だった。
(美女に挟まれて、ご出勤?)
学長は関係者という体裁があるから黒か。
奥様はお祝い関係かもしれない。
するとサーシャ様が外に出るなりインベントリから白銀馬車を取り出した。それはケーキ作りの間に用意した物だった。室内もきちんと作り込み僕が渡したクッションも敷いてあった。
御者も呼んでいたのか四頭の馬を結びつけていた。前の物は試作品として領地に置いてきたもんね。それと、同じ馬車も後日王宮に献上するとの事だ。姉達の居ない頃合いをめがけて。
馬車の準備が出来ると全員で乗り込む。
御者を含めて総勢八人が乗った馬車。
シュウ様は僕とサーシャ様に挟まれ、奥様と学長は対面に座る。入口側の補助席にシャルとリーシャが座り、扉の鍵をかけた。
ここまでは一般的な馬車と同じだった。
サーシャ様の合図を受けた御者は入学式が行われる大講堂を目指して馬車を走らせる。
これから一時間は走る事になるが、
「ん? この馬車は?」
妙な揺れの少なさに学長が反応した。
サーシャ様はニコニコと僕に微笑みかける。
そしてネタばらしとでもいうように答えた。
「叔母上、これはミヤが考案した最新鋭の馬車ですよ」
「え? ミヤさんが?」
「はい、伯母上。造ったのは私ですが、考えだしたのはミヤとなります」
「ど、どういう仕組みなんだい? 魔法は?」
「これは魔法を使っておりません。全て金属加工だけで賄っております」
「な、なんだってぇ!?」
一人驚く学長、奥様は楽しげな表情で僕を見つめる。実際に金属加工だけだし、僕に出来るのはそれくらいしかないし、簡単な付与も出来るけど、それを選択すると属人化してしまう。
するとサーシャ様は僕が以前造った模型を取り出して詳細を語り始めた。
「静音性を実現しているのはここの重ね板と軸受けにあるようです。振動を抑え車軸を円滑に回す仕組みを組み合わせた結果」
「これだけ静かな馬車になったと?」
「そうなります。元々はミヤが酔いやすいという理由もあったようですが、今ではほとんど酔ってませんので、効果としては十分かと」
「なるほどねぇ。帝国製の馬車でもここまで揺れのないものは無かった。姉様」
「ええ、今回はレーラの名で登録しておきましょう。今の領主だとありもしない虚言を発してしまいますから」
おぅ、母様の名で代行登録されるらしい。
板バネ、サスペンション、ベアリング。
金属加工が可能な者なら誰でも作り出せる。
多少は加工精度で差が出てしまうけど利益に換算したら相当な物になると思う。
(これで弟の養育費は安定するかな?)
その後も登録後の事とか、ギルドに所属する際の決まりとかを伺い、僕達が成人すると同時にランク昇格が確定するらしい。Fランクではなく初っぱなからAランク入りするって。
シュウ様はSランク入りが確定だけど。
(あれだけ大量に魔導具を造っていたらねぇ)
辺境伯城の特殊魔導具を思えば致し方ないのかもしれない。緊急時に室内が真っ赤に染まるとかね。サイレンが鳴るとかね。目と耳で危険性が示されるのだ。他にも黄色になると言っていたけど、どのような状況でそうなるのか説明は無かった。おそらく近づいてきてすぐ離れた的な状況だと思うけどね。
するとその直後、僕達の乗る馬車が急停止した。
「おっと! なんだい?」
学長は窓を開け、御者に問いかける。
「ま、前に殿下達が立ち止まっておりまして」
窓から外を眺めた学長は溜息を吐いた。
「殿下達? はぁ〜、入学式は休みだからってこういう事をやるとはね。またも停学とすると薬品店に入り浸る問題が出るから──」
そして窓から顔を出し、外でニヤける者達の名を怒りながら叫んだ。
「──カイナ! カミナ!」
通行妨害してまで入学式に行かせないってよっぽど頭のおかしい兄姉達なんだね?
薬品店に入り浸るって悪意マシマシじゃん。
「「!? が、学長!!」」
「お前達には罰として、九〇日間、学内全ての手洗い場の掃除を命じる! 危険な通行妨害を行ったんだ、これは覆らないから覚悟しな!」
「「そんなぁ!?」」
自業自得では?




