第41話 切れ味抜群のご褒美、
あとになって母様に聞けば──。
父様達の件は陛下もご存じだった。
ご存じで放置、そう思ったけれど国を慮っている気持ちを考慮し、国防面での働きに期待しているという。その監視役が母様であり少しでもおかしな挙動を示したら最後、兄様に全権を譲る誓約書を書かせているらしい。
だから父様は母様の一言には逆らえず渋々と聞いているのだろう、その内心はともかく。
(腹に一物抱えてそうな気がする、鬱憤の捌け口が俺で。このままだといつ爆発してもおかしくないな。ミヤの父様も同じく鬱憤を溜めてそうだし、何か対処が出来ればいいが)
件の水銀事変も俺の意識が無かった一歳の頃に起きていた。戦争もその頃であり、ミヤに聞いてみると知らなかったってな。ここにも書庫の虫が居たわ。
何処から何処までが真実で嘘なのか分からないが父様の機嫌だけはとっておいても損はないだろう。母様も監視に時間が取れないし、俺が居ない間に暴発しては堪らない。
ということで俺は自身の工房に移動し、
「父様の得物は大剣だったな、クレイモアかってほどの大きな両手剣。魔法特性の無いただの大剣。その強度を求める段階で水銀が出来たとあるから、間違った方向で錬成しただけだろうけど」
植物紙片手に家が受け継ぐ剣術から適切な得物を検討していた。もちろん一人でな。
今は真夜中、誰もが寝静まり衛兵達が巡回するような時間帯。子供は寝なさいって時間帯にごそごそと起きて、工房の鍵を閉めて明るい室内で考え中だった。
「サヤの動きを思い出すと居合い術が含まれていたよな、となると西洋剣よりも日本刀が良さげな気がする。小烏造りとしたらそれっぽく出来るか?」
見た目は完全な日本刀、大きさは大太刀と同等だから持てるかどうか分からない。大きい得物を振り回したがる父様だからそれが無難に思える。それを考えると「子供か!」って思う。
そうしていつものように成物錬成で造る。
(刀身はオリハルコンとミスリルの合金、硬さは人形の骨格と同等、ダマスカス鋼のような処理を施した小烏造りの大太刀、収納術に収めた母様とミヤ、シャルとリーシャの髪を触媒として、魔力順応性をあげておく。所有者は辺境伯、管理者は王家、鞘はオリハルコンに漆を塗ったような見た目。刀の重心は所有者に自動で合わせる、柄はそれこそ日本刀で錬成開始!)
すると俺の無制限魔力が徹底的に吸引され、妙なふらつきを覚えた。うわっ、こんな事も起こりえるんだな。特殊処理を加えるとマジで油断ならねぇ。そしていつもより長い待ち時間の後、魔力が固まるようにテーブル上へと大太刀が現れた。ゴトッて大きな音と共にな。
「デカッ!? 俺の身長をあっさり超えたし。大太刀だから仕方ないとしても、総重量はギリギリ同じくらいになったかな。この国の者に対して抜刀しても刃引きされ、他国の者が相手なら、凍り付くような切れ味を発揮する、か」
出来上がった刀を鑑定すると恐るべき結果が出た。いやはや、これは完全に国防刀って名付けた方がいいな。一応、銘を打っておくかって事で身体強化魔法を施しながら抜刀して刻印を打とうとすると、背後から声がかかる。
「まさに国を護る剣ね。綺麗な模様だわ」
「うわぁ!? か、母様!」
「ふふっ、気になって飛んできちゃった」
「あ、転移杖かぁ!?」
してやったりの表情で現れたのはネグリジェ姿の母様だった。
集中してると気づけない、これで何度目だ?
「大きさから察するに父様の?」
「うん、機嫌だけでもとっておこうかなって」
「機嫌ねぇ、確かに必要なことではあるわね」
「どうしたの、含みがあるような言い方して」
刻印を打つ俺は横目で母様に問いかけた。
すると母様は苦笑しつつ遠い目で語り出す。
「いえ、あの人はね、不器用なのよ。ディンと同様に子供の接し方が分からない人。だから自分の子供が造った物を多くの人に見てもらいたい気持ちが表に出てくるの。それは子供だけでなく兄弟が造った物も同じ、それと利益云々の言葉は照れ隠しと認識した方がいいわ、あまり利益と言い過ぎるのも、体面的に良くないけどね。成金商人みたいになっちゃうから」
なるほど、他己顕示欲が油断すると出てしまうって事か。自身よりも家族の名声を高めたい的な、だから魔法を拒絶するように反対していたのか、自分自身の制御が出来なくなるから。
それを知ると暴走すると思えてきた、
「そうなるとこれって、不味い?」
怯えながら納刀した俺は思案気な母様を見つめる。
「いえ、これはこれで使えるわ」
「つ、使える?」
「辺境伯領主は全員大剣使いなのよ。それぞれの流派はオルトン流の派生でね。この金色に輝く綺麗な剣身は、他国に対して脅威になるわ」
「ああ、複製して手渡すと?」
「ええ、褒美とすれば従順にもなるでしょう?」
俺自身もそこまで計算したわけではないが、母様は何処までいっても国益が優先らしい。
(やっぱり王家の人間なんだね?)
普段は利益云々を口には出さないけど。
納刀確認を終えた俺は収納術に入れて計三本の複製を実行した。またもギューンと魔力が吸われていく感覚に見舞われるが無事に刻印入りの三本が出来上がった。
そして計四本の大太刀をゴトッと取り出した。
「王宮向けに一本と辺境伯向けの三本でいい」
「ありがとう、シュウ」
「銘は国防刀、剣より刀扱いだけどね」
「刀?」
「うん、脇差しで同じ物を造ってみたけど」
脇差しはすんなり出来た。
やっぱり魔力消費の原因は大きさかな?
いや、所有者指定があるかもな。
今回は管理者以外は不問としたから。
俺は母様に見えるように抜刀した。
「あら、剣身が反っているのね」
「ウチの流派は剣よりも刀向きだと思ってね」
「そうなの?」
「うん。とりあえずこれで型を示すよ」
ということで母様の横に立ち脇差しでもって上級の型を流す。こちらも国防刀と同じで王国民には刃引きされてしまう特殊刀だった。
こちらにも銘を打っておかないと。
「あら、結構様になっているわね」
「それと切れ味を、ミスリル塊がスーッと」
近くに置いてあった塊が切れた!?
スーッとバターを切る如く切断された。
オリハルコンは流石に切れないけど。
オリハルコンの鞘が何かの拍子に割れるし。
その様子を見ていた母様も戦慄していた。
「凄いわね、刃こぼれ一つ起きてないわ!」
「この脇差しも複製しておく?」
「それがいいわね。私にも一本いただける?」
「分かった、それなら継承者にも手渡す?」
「それもありね。サーシャはいつも狙われているし、叩く事も出来るものね?」
「刃引きされても叩けば昏倒くらいは出来るよ。峰で打つとミスリル塊がへこむし」
「そこは峰というのね」
「但し、国に対しての裏切り行為に及んだら即座に刃が形成されるらしいけど」
「ま、まさに国防そのものね」
そうして俺は連絡魔導具と同数の脇差しを複製し、二本だけは俺が預かり、残りを母様に預けた。流石に大太刀の三本は母様では持てそうにないので、一本を除いて俺が預かり翌朝王宮へと持ち込む事にした。
「そろそろ寝ましょうか。今日は一緒にね」
「はい、母様。お供します」
その日の夜は母様の胸の感触を味わって寝た。父様はベッドで反対を向いて寝ていた。
この機嫌は脇に置いた大太刀で直ると思う。
現に目覚めたら大興奮になっていたから。
『いつもありがとう、父様。銘は国防刀です』
というメッセージカードと共に置いたから。
久方ぶりの母子のひととき。
行っている事は少々物騒だけど。




