第40話 対価の獲得に近道無し。
抱かれた抱かれた抱かれた──。
お尻を触られた僕は心で歓喜の声をあげた。
口に出す声では周囲の目があるから注意したけど、本音ではもっと触って欲しかった。
(うぅ、胸があったなら埋めたいのにぃ!)
口に出すと男色家と思われてしまうから言わないけ、僕は女の子だよ!
抱擁が途中止めとなったのはシュウ様と僕が父方の従兄妹関係であったと知ったからだ。
(領主様が愚父の同類だったなんて。サーシャ様も初耳って感じでぽかーんだし、シュウ様がここまで壊されるって。ホント、あの人達は利になると分かると子供とは思わないね)
一先ずの僕は名残惜しそうにシュウ様の両手を解きケーキを等分で切った。
今回、シフォンケーキを持ち帰ったのはハンドミキサーが送られてきた事に気づいたからだ。
(電圧を下げる方法が見つかったとなると、あれとかこれとか造り出せそうだよね)
届いた時は何事と思ったけど、馬車の中で取り出してみると背面蓋の中に電池状の魔石が入っていた事に気がついた。金属羽根を取り付けずに動かしてみると唸るような音が響いたためモーターを造った事を知った。
この時のサーシャ様は御者に対して移動先を命じていたため僕の行動は見えていなかった。
シャルとリーシャだけが興味深げに見ていただけだしね。そうして僕はハンドミキサーをインベントリに片付け、サーシャ様に願い出て市場へと向かってもらった。
『それよりも美味しいお菓子を焼きたいから材料を買って寮に向かわない?』
そう言ってサーシャ様の気を引き材料集めに奔走した。オーブンも寮の厨房にあったので、焼き型を造ったのち、何個か試作品を作った。
オーブン魔導具の癖を調べるのは苦労したけどね。焼き上げる温度が重要だから。
そこだけは念入りに時間をかけた。
そして何度目か試作ののち今に至る。
試作のほとんどはシャル達の魔力に変わった。バカ食いしても全部入るって凄い。
あとでお手洗いに駆け込みそうだけど。
結果、全員の大満足を得られた。
ハンドミキサーに関してサーシャ様のツッコミをいただいたけど、これは追々登録する事になるだろう。僕に与えられた物は個人向け。
これから僕が造ろうと思うのは業務用だ。
シュウ様の協力で出来る事でもあるから。
それがあって初めて店頭にも並ぶと思う。
だから僕は食後のシュウ様に対し、
「こんなの造ったけど、活かせないかな?」
大きな形のモーターを手渡してみた。
業務用で使う高回転高出力のモーターだ。
シュウ様は一瞬ぽかーんとしたが、
「ぶっつけ本番でデカいの用意すんなよ」
「ダメだった?」
「い、いや、俺も思っていたから助かった」
「ならいいよね?」
「スイッチのギア比を考えてからな」
僕の話に乗ってきてあれこれ話し合った。
一方、サーシャと奥様は次に何が出来るのかと冷や冷やしている表情で僕達を眺めていた。
「何か、大きな金属塊が出てきたのですが?」
「ミヤさんもシュウと同類だって分かったわね。シュウが驚いて固まるってよほどの事よ」
酷い言われようだ。
まぁ仕方ない部類でもあるけどさ。
何せ僕達は同じ異世界転生者ですから。
異世界知識を持ち込んであれこれするのは今に始まった事ではないしね。それにシュウ様から聞いたけど『建国王はもしかすると同類だったのでは?』との話だ。連絡魔導具がその証拠で古い割にしっかりとした作りだったらしい。
時代が時代なら穴があっても不思議ではないってね。最新版はそういった穴を塞いだとも言っていた。現に穴から抜かれていたそうな。
シュウ様も頭に糖分がまわったのか、
「軸にクランクを設けて、攪拌効率をあげて」
「低速、中速、高速と分けておくといいよね」
「それでこいつの電圧は?」
「一応、二〇〇で造ってる」
「だったらやりようはあるか」
僕と共に図面を描いていく。
談話室で行うような事でもないけどね。
しばらく真剣に話し合っていると空気が変わったのを感じた。それは、
「また利になるような物を考えているのか?」
ご機嫌な表情の領主様が顔を出したからだ。
一度でも嫌って思うと本当に嫌になるね?
奥様は微笑み、ご機嫌顔の領主様に物申す。
「何でもかんでも利益と追うものではないですよ。大体、造った物がすぐに利益に結びつかないのは、理解しているはずでしょう」
「うっ、だ、だが」
「何事も試作あっての量産です。失敗作のまま量産しても損しか生みません。四年前、液体銀を造ったと言って毒だった事に気づかずに、触媒で売りに出したのは誰と誰でしたかね」
「う、うむ」
おいおい、水銀を造ったの?
それを量産して売り払ったの?
四年前ってつい最近だよね?
何に使ったんだろう、シュウ様も唖然だよ。
思い出した領主様は顔面蒼白だ。
どうも奥様は腹に据えかねていたらしい。
「火消しに回った事、忘れてませんよね」
「あ、ああ、忘れていないぞ」
「私とレーラが必死になって回収して、その内の大半を帝国に持ち出されて、直後に起きた戦争に使われたのは記憶に新しいでしょ」
「そ、それはだな」
「それの回収と引き換えに人形が全てダメになりましたけどね。お陰で廃棄せざるを得なくなり、今では領地の肥やしですよ」
えーっ!? 土壌汚染になってるじゃん!
何処の領地だろう? シュウ様も気になる?
するとシュウ様は小声で僕に話しかける。
「廃棄場所を調べてみるか」
「で、できるの?」
だから僕も小声で応じる。
その結果、嫌な事実を知ってしまった。
「ああ、ミヤの実家の領地だ。頻繁に視察しているのはそれの処理だな」
「えっ」
「とりあえず、水銀分解魔法を構築したから、そのまま魔力に戻るだろう。物質はすべて魔力が元だから。戻す技能もないまま処理したら毒が体に回るだけなのにな、消せもしない物質は造ったらダメだっていう反面教師になったが」
「じゃ、じゃあ?」
「地中に流れ出た物も、世界中に残った物も、体内に取り込まれた物も、全て魔力として消え去った。今後、水銀が産まれ出たら即、この魔法で消さないとな」
「もう実行したのぉ!?」
「危険物の放置なんて出来ないだろう?」
という僕とシュウの驚きの会話を奥様と領主様は聞き逃してくれなかった。
「貴方、息子に尻拭いさせてますけど?」
「う、うむ、す、好きにするといい!」
「あらら、逃げたわね。まぁ私としても身体の違和感が消えてよかったわ」
「か、母様? まさか」
「処理中に吸っていたみたいでね、処理中も回復魔法を使っていたけど長生き出来ないだろうって言われていたの。私もレーラも。でも、シュウのお陰で、もう少し頑張れそうだわ。ありがとう、シュウ、愛しているわ」
奥様はそう言って、シュウ様を優しく抱擁した。それも大粒の涙を流して。よほど嬉しかったんだね。僕も帰ったら母様には優しくしないとね。というか功労者よりも犯罪者が領主のままっておかしいよね、やっぱり男性だから?
すると奥様は涙を拭いシュウ様から離れる。
そしてお茶を注ぐため移動しようとすると、サーシャ様がきょとんとしたまま一言発した。
「わ、私も何か楽になりました」
「サーシャ様もぉ!?」
その一言で奥様とシュウ様は呆れていた。
「サーシャも盛られていたみたいね」
「誰が盛っていたんだか」
我が父様は本当の意味で裁かれるべきだよ。
言い訳して逃げ出した共犯の領主様もね。
金儲けに動くのはいいけど、人の命を度外視するような貴族は蛮族でしかないよ。
捜査出来ないこの国もどうかしてるけど。
この話が今後どう繋がるのか?




