第39話 労働の対価は柔らかい、
ミヤとサーシャにはやられたな──。
早速、懸架装置付きの馬車を拵えるとは。
やっぱりあの二人の方が相性バッチリだな。
サーシャはそのままミヤと婚約した方がいいと俺は思う。だが、男から振ると王家の名に傷を入れてしまう。
こうなってくるとサーシャがミヤと駆け落ちしない事には話は変化しないだろう。
(現段階で考える事でもないな、人の心は移ろい変わるし)
例外は俺の人形愛だけ、それだけは言える。
リーシャを造って以降は制御系の学びに力を注いでいるから中々思った通りの人形が造れないでいるが、これも本校に通う事になった時点で先送りになると覚悟していた事だった。
(空間接続を使ってロケットパンチとか出来ないかね? 制御系がやたらと複雑になるけど、やりがいはあると思う)
という将来の展望を思い浮かべながら廊下の天井付近で浮いたまま作業する俺だった。
(八階は無事に点灯完了っと、次は九階か。一人の作業量ではないぞ父様?)
俺が現在施工中の魔光球は新規で造ったフラット型だ。縦長の半透明水晶板の内部に空間接続を用いた穴を六箇所設け魔力の流れを一直線に通す物にしている。それも三方向で。
一つは照明、二つは緊急、三つは緊急音響。
緊急は色が赤く灯されサイレンが鳴り響く。
(父様達の驚いた姿を思い出すと溜飲が下がるけど、全部は流石にキツいって)
それらは何処にいても異常を知らせる仕組みで尖塔上部に設置した早期警戒魔導具に異常が出ると自動的に赤色へと変化する。個室にも同様の機能を設けているので練度の落ちた時間帯であっても即座に異常に気づけるのだ。
夜中はサイレンが少し静かになるけどな。
(工房で試験して良かったな。これだけの物量を階層毎に確認したら身が保たんわ)
寮の廊下は配線を引っ張って物理的に繋げているが、こちらは集中管理具の内部に配線を敷きミスリル板の突起を穴に通してネジ止めした。各階の個室と廊下に五十個以上も設置するだけあって骨が折れるが、これが終われば昼休憩に入れるだろう。
(昨晩、用意してて正解だったな。自室と寝室の物も同じ仕様にしていたから)
なお、集中管理具は衛兵詰所に設置し起動と停止は時間指定で動かす物としている。魔石も階層毎に一個をあてがい個室用の集中管理具とは別口で管理する。個室のスイッチ設置が大変だけど。それと緊急停止と照明変更は領主の持つリモコンだけとした。
(衛兵の判断で止められては堪らない)
緊急だけは早期警戒魔導具から魔力を得ている。尖塔は誰も近づかない場所だから魔石で動かす事は出来ないのだ。
そもそも尖塔の屋根瓦に混ぜているので気づかれる事もない。魔力流を隠す隠蔽魔法も施しているし。実はこれも夜中の内に転移して寮の集中管理の魔法陣に施してきた。魔力感知持ちの神父共に見られると厄介だからな。
九階の作業を終えた俺は糖分を欲した。
(俺もミヤの手作りケーキが食べたい)
こうなったらハンドミキサーでも造るかな?
(メレンゲたっぷりシフォンケーキ!)
回転は雷属性魔石から電力を得てモーターを回せばいけるだろう。電圧を百ボルトに下げないといけないが電圧低下魔法があったし改良して付与してもいいな。
(魔石形状も電池のように加工して)
完成品をミヤのインベントリにドーン!
転送魔法で送りつけてやった。
作業中に造ったが後悔はない!
変換核はないが無事に動くだろう。
予備の電池もとい魔石も送ったし。
そもそも今は十階へと上っている最中だ。
あ、各階段にも、付けないと。
(フラグ立て自分で回収してれば世話ないな)
§
昼休憩も無しに働きづめの俺は──。
夕方には全ての設置を終えた。
時間が来て段階的に灯りが点く城。
個々の部屋はスイッチで点灯させるので暗いままだが廊下だけは煌々と光っていた。
「ひと仕事終えたあとの水が美味い!」
「早くお酒が飲める年齢になるといいわね」
「か、母さま〜! 慰めてぇ」
「はいはい、お疲れさまでした」
館の方は就業時間内しか稼働しないので点けたい人は手動でどうぞと伝えた。
朝点いて夕方には消灯するって意味だから。
なお、厨房での設置中、シェフが料理が鮮やかになりましたと感謝を述べていた。ロウソク灯りではハッキリとした色が見えないもんな。
その分、食器の洗い残しが目立ってコックが怒られていた。なので浄化が作用するから清潔な厨房になる事だけは伝えた。
そうこうしている内に、
「ただいま戻りました〜! シュウ様、ご用命のシフォンケーキを用意して来ましたよ〜」
ミヤが苦笑しつつ談話室を訪れた。
背後にはニコニコ笑顔のサーシャ達も居た。
ハンドミキサーに気づいて用意するってやっぱりミヤだわ。前世でもハンドミキサーをわざわざ買って、作って貰った事があったからな。
それを見た俺は感極まってしまい、ケーキをテーブルに置いたミヤに抱きついてしまった。
「ありがとう、ミヤ!」
「わぁ!? どうしたんですか、いきなり」
男子なのに不思議と良い匂いがするよな。
それに何処となく柔らかいし。これも中身があのミヤだからって事もあるのだろう。
ああ、ミヤの大きな胸が懐かしい。
今は何もない断崖絶壁だけど。
「ちょ、ちょっとシュウ様、こそばゆい」
「凄い落ち着くわ〜。この感触」
「ど、ど、何処を触ってるんですかぁ」
「もちもちの脇腹」
「そこはお尻ですって!」
「そうなの?」
ミヤは何故か真っ赤な顔でアタフタする。
今日は疲れすぎて思考がまわんねぇ。
すると母様が困り顔で理由を伝える。
「今日は一日中、誰の手伝いも無しでこれの設置をしていたからね。こればかりはルークの悪癖が出たようなものだけど、ルークはディンの兄だから同じ性質になるのは仕方ないのよね。ミヤさんはご存じだろうから労ってあげてね」
「「はい?」」
それを聞いた俺とミヤは抱き合ったままきょとんとしてしまう。えっと、つまり、ミヤって父方の従弟? そういう関係になるって事?
髪色が若干違うけど御婆様がそちらの系統だったのかもしれないな。父様は御爺様に似たって事になるから。友達から身内でしたってか。
サーシャもこれには、ぽかーんだよ。
と、ともあれ、その後はミヤ作のシフォンケーキを全員でいただいた。父様? やらん!
「この食感、この食感を待ってた!」
「美味しいわね、お茶会向きのお菓子だわ」
「そうですね、伯母上。焼きたてを試食させていただきましたけど、このような焼き菓子もあったのですね」
「「美味しいです!」」
全員の感想を聞いたミヤは嬉しかったのか、
「それもこれもシュウ様がハンドミキサーを送ってくれたから出来た事ですよ」
俺がやらかした件を暗に伝えた。
まぁいいか、それが無いと作れないし。
子供の体力だと限度があるし。
きょとんとするのは母様とサーシャだけだ。
「「ハンドミキサー?」」
シャル達は知っているのか黙ったままだ。
ミヤはインベントリから黒い金属塊を取り出して示した。ミヤの好きな色の調理道具だ。
金属羽根だけは銀色のステンレスだけど。
「これです。高速で回る金属羽根を使って卵白を泡立てる調理道具です」
サーシャはそれを見て俺をジト目で睨む。
「シュウ、また造ったの?」
「こ、個人的な物だし、別にいいと思う」
「サーシャ、シュウの言う通りよ。個人で楽しむなら神父は何も言わないわ」
最後は呆れ顔の母様が擁護してくれた。
だから俺はミヤのシフォンケーキに集中して全てを平らげた。生クリーム乗せも美味い!
抱かれたミヤの胸中はいかに?




