第37話 母親には敵わない、
これにて俺の安寧は終わる──。
という呟きを聞いたサーシャから怒られた。
いや、実在女に興味ないのに婚約話がとんとん拍子に決まって混乱しているのは俺だからな? 貴族の婚約が好き嫌いではなく政略である事も知ってはいるが、いざ自分の身に降りかかると心に落ち着きが無くなるというか例えようのない不安が芽吹いてくるんだ。
だから俺は不安を拭うように、
(ご歓談のところすみません、またやっちゃいました)
反省無きまま形状の異なる魔光球を造ってしまった。薄型の半透明水晶に三種の光源を埋め込む円形魔光球だ。周囲を白色ミスリルで覆い、接合部はミスリル板の端子が付いた代物となっている。それも三種あって三カ所同時に使うわけではなく中心部は常夜灯、内側と外側に同光量の光源を配した。
異世界だと円形蛍光灯と同じ仕組みだ。
(パッと見はLED電球だな。接合部のヘコみに入れる方式を見る限り)
これも空間接続があったことで可能になった。なにせ小型魔石を手元のスイッチで行えるというリモコン式になってしまったから。
こちらも吸引部は封入式となっているがそれ以外の魔石式とスイッチは同じだ。三種のボタンが付いた以外は他の物と同等である。
供給先も二カ所同時に行える優れもの。
緊急時はリモコンで通常は集中管理具から。
集中管理具とスイッチの変更は必要だが。
(流石に時期が来るまで非公開だな。人目の付かない工房で使えばいいか)
俺が魔導具を造る時は心の奥底の不安を忘れたいがために行う事が多い。悪く言えば現実逃避だが、そうしないと身が保たない。
サーシャ自身は俺にはもったいないほど可愛い従姉だ。母様を彷彿させるような性格だったりするし、その癖何処か陰のある不思議な印象を持ってしまう女の子だ。これも結局、毒を盛られた経緯が裏にありそうな気もするが。
ともあれ、ご歓談が終わると同時に俺とサーシャは母様と共に領地に戻った。
その際に母様から耳打ちで、
「あとで造った物を見せてね」
わぉ! 気づかれていたっぽい。
(やっぱり母様は侮れない)
笑顔の奥の好奇心が凄い事になってる。
流石に登録までは行わないと思う、連続登録は逆に疑われてしまうから。盗作とか何とか教会の神父から要らぬ嫌疑を掛けられるから。
嫌疑と言いつつ合法的な視察で入り込んで帝国に技術情報を流す汚い輩でもある。
その行動は間諜と思われても仕方ないが間諜ではない正しい行いと反発するから質が悪い。
これは叔母上の経験で語られた事実である。
気をつける事と念入りに注意を入れられた。
俺とサーシャが自室前に戻ってくるとミヤが部屋の入口からジト目でこちらを睨んでいた。
「そこの男の子、怖い目で見るな」
「うっ。だ、だってぇ、二人の距離感が妙に近いから、気になって」
「従姉弟関係だよ、いつも通りのな」
「い、いつも通り?」
婚約云々は表沙汰には出来ない。
王宮から戻ってくる間に偽装を施したしな。
ミヤには人のステータスを覗き見る恩恵があるからサーシャのステータスには俺が偽装を施している。ステータス偽装魔法を用いて。
案の定、覗き見てるし。この様子を見ると嫉妬に狂った時のミヤを思い出してならない。
(実在女と同性愛に興味はないぞ。やっぱり中身が女のままだからそんな反応になるのかね)
貴族服から楽な部屋着に着替えた俺はタオルと下着を持って風呂に向かう事にした。
ただ、サーシャはそのまま残るような素振りだったので注意だけは伝えておいた。
「サーシャ、分かってると思うけど」
「う、うん。大丈夫、安心して」
妙にモジモジしてるけどな。
ミヤの中の女が反応してるのはこれかもな。
婚約が決まった途端に女の子しだしたから。
それまでは呆れたり溜息を吐いたり遠い目をされたりと興味無しを貫き通されていたのに。
(何処で変化したのやら? さっぱりだ)
女の子は早熟とかつてのミヤは言ってた。
逆に男の子は鈍感だとも、うっせぇわ!
前世でも今世でも興味あるのは人形だけ。
当時のミヤとは女友達から変化しなかったのに何を言ってるんだって思う俺だった。
風呂から上がると母様が脱衣所の外で待機していた、仁王立ちで。
「こ、工房でいい?」
「もちろん!」
母様の後ろを歩く俺は同じ物を複製した。おそらく工房に欲している思ったから。母様の工房は未だにロウソクだからな、それは俺の工房も同じだった。
(集中管理具は工房内の壁面に設置するか。今回は二部屋用だから小型でいいな)
この集中管理具は王国の管理下に置かれるため造り出した物には総じて十四桁の管理番号を与える事になった。各番号の刻印を与えると自動記録され窃盗や破壊があると管理台帳魔導具に位置情報の文字列と赤字が入る。
これは台帳刻印魔法と連動しているのだ。
割当と管理委託されたのは俺と叔母上だ。
そして管理番号の指定は以下だ、
〈所属・設置日・設置場所・設置台数〉
所属は三桁で王都から順に各領地向けの番号を割り振った。王都の一番、北部の二番、西部の三番、東部の四番って感じで爵位に応じて三桁の番号が割り当てられた。
俺が母様から引き継ぐ領地は五番となり、叔母上の領地は六番だった。ちなみに、母様の領地は王都北部から東部一帯の草原、叔母上は王都北部から西部一帯の森林だそうな。広っ!?
設置日は八桁、王国の建国年数とカレンダーの日付となっている。
設置場所は外の〇と中の一で一桁だけな。
設置台数は今後増えるであろう番号を残りの二桁で記す。日付毎に変化するから台数上限も決まっている。今回の設置は〈〇〇二・三二八七〇四〇五・一・〇一〉だ。
これが王都にある寮ならシャンデリアを含めて計七台、王宮に提供した二台で計九台が存在する。
〈〇〇一・三二八七〇四〇五・一・〇一〉
〈〇〇一・三二八七〇四〇五・一・〇九〉
一台目は更新したシャンデリア、九台目は未設置品で台帳に記される。
あとは目盛りの件も登録に修正を入れて再提出する事になった。スイッチ部に魔力残量の記載機能が追加されたとしてな。
そうして俺は浮かせた懐中魔灯を頼りに、
「設置を終えたよ」
母様の工房を優先して設置を終えた。
俺の工房は後で行うが小型の懐中魔灯に興味津々な表情を向けられた件。こちらは単なる魔石式だから魔光球と大差ないけど。
すると母様は入口付近のスイッチを押す。
「それなら点けるわ、え? 夕暮れ時みたい」
「今回は真ん中ではなく一番上と一番下を押して、そしたら全体が明るくなるから」
「え、ええ。三つに増えている理由は何?」
縦に並ぶスイッチだから暗がりで真ん中を押したのね。あとでスイッチに札と未稼働照明を付けておくか。それで何処にスイッチがあるかひと目で分かるし、動かしたら消えるように。
「元々は寝室向けなんだよ。暗がりよりも安心感を得られるから」
「安心感、暗殺回避とか?」
母様の表情は真剣そのものだ。
(やっぱりそういう目に遭いやすいのかな?)
普段はおちゃらけているけど。
「ま、まぁ、夕暮れ時の明るさだから、ね」
「なるほどね。でも、明るさは一番下だけでも申し分ないわね」
「昼間はそれでいいと思う」
「りょうかいよ。夜は全開で昼間は一番下ね」
何はともあれ、母様の安堵を得られた俺は隣に向かおうとした。
「それじゃあ、あっちも付けてくるね」
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「待って、その手に持つ物の説明がまだよ?」
「は、はい、ご説明させていただきます」
その後は両親の寝室や自室にも付けたとさ。




