第35話 親族との謁見、
叔母上の威圧に首を縦に振った俺──。
正直そういう話は勘弁して欲しいのだが、貴族の子息である以上は、どうあっても逃れる事は出来ないと腹を括った。そう、叔母上はサーシャをチラ見して条件に含んできたのだ。
(ミヤとサーシャの方が似合うと思ったけど)
あくまでそれは理想でしかなかった。
俺もそれ自体を望んでなかったが思うがままに造ったというやり過ぎた弊害が原因だった。
一人の幼子が帝国やら教会を相手に渡り合えるかといえば確実に無理であり、国を挙げて護ってくれるとあっては、逃げられないだろう。
叔母上の持つ鑑定術。どれだけ偽装を施していても看破されてしまうらしい。これらは年の功もあるのだろうが、成績や実績から裏打ちした結果であると認識するしかなかった。
そうして俺は王宮に向かう馬車に揺られていた。酔止魔法は事前に掛けた、酔わないが憂鬱なのは変わらない。サーシャはきょとんと俺を見るが、これは気づいてないっぽいな。
(確か、貴族服があったような、着替えないと失礼にあたるよな。一応、謁見との話だし)
収納術の一覧を視界内に映した俺は黒の貴族服こと礼服を指定し、瞬間換装を選択した。
すると一瞬のうちに俺の着ていた作業着が礼服に差し替わる。下着はそのまま上に着ていた物全てが替わったのだ。この瞬間換装とは収納術に付いていた特殊技能だった。
母様はそれを知って以降、作業服を脱ぐ時も風呂からドレスに着替える時も、父様と以下略の時も使っているらしい。以下略は以下略な?
俺が叔母上の瞬き目がけて着替えると、
「い、いつの間に?」
という驚きをいただいた。
サーシャは知っているからかまたも溜息を吐いた。サーシャにもいつか生えるといいな。
「収納術が生えると普通に使えるようになる着替え技能です。母様も頻繁に使っていますし」
「そ、それって、あの?」
「それですね。元々は──」
王宮までの道中は暇だったので収納魔法に至った経緯を事細かく報告した。最後は詠唱呪文を含めて、教えると叔母上は楽しげな表情で行使し、脇に抱えていたショルダーバッグを片付けていた。上限についても伝えたのでそれ以上は入れないと思う。
それとこの収納魔法は変換核同様に禁書扱いに変化していた。最初は普通に載っていたが、母様から危険性を示された途端、禁書になったのだ。数秒間の間だけ載った魔法、索引から探そうと思わねば出てこない事が幸いだった。
亜空間魔法を使って禁書庫を造った時とは大違いだ。
なお、呪文は植物紙に記して陰詠唱してもらった。御者が安全とはいえ何処に目と耳があるか分からないから。
「兵站と強奪に使われないようこの手記は」
「この場でボッと燃やせば消えます」
「え? 瞬間的に消した?」
「本当に魔法を全部覚えているのね」
「もう一人も覚えてますよ」
「頭の出来が違うって事か、とりあえずこの件は私の元で留めておくから教師達から何を言われても、本気を出すのは止めてね」
「承知致しました」
ミヤと俺だけが普通と違うって意味だな。
それと学長として教師の言動までは止められないって事ね。
そうこうしている内に王宮に到着した。
馬車を降りると、そこには屋敷を優に超えた大きな建物がそびえ建っていた。学校のある敷地からも見える王宮、ここまで大きいとは。
(東京ドーム何個分だこれ?)
そんな事を考えても答えなど出ない。
それだけ大きい王宮だ、魔窟と呼ばれても仕方ないだろう。サーシャも嫌々感が出てるし。
§
叔母上の案内で王宮内に入ると──。
「叔母上、謁見室を通り過ぎましたけど?」
「彼は賓客扱いではないからこっちよ」
「ああ、身内でしたね。忘れてました」
俺の前を叔母上とサーシャが歩き、どんどん奥へと進んでいった。どれほど歩いたかは分からないが、奥へ奥へと進む内に叔母上へと会釈する貴族の数が減っていった。
そして建物の最奥に到着すると叔母上が、
「気を楽にしていいわ。謁見室ではないから身振りも不要よ。サーシャも落ち着きなさい」
「「は、はい」」
微笑みながら俺達の緊張を解きほぐした。
扉が開かれると奥に好々爺とした御老人達が座っておられた。老人とすると若い気もする。
(この方々が御爺様と御婆様なのか。何処となく母様にも似てるな、御爺様が)
叔母上は簡単な前口上だけ行い、俺とサーシャを前に歩ませる。脇には母様と叔父上まで居るじゃん、サーシャの父様って事だよな。
全員が笑顔のまま俺とサーシャを見てる。
「良く来てくれた。うむ、ミシェルに良く似ておる」
「ど、どうも、シュウ・ヴィ・ディライトと申します」
「ふふっ、気を楽にしていいわよ」
「そうじゃぞ。今は身内しかおらぬしな」
「普段とは大違いね、シュウ」
「母様」
国の重鎮の前で楽にするのは無理だと思います! サーシャもオドオドしたままだし。
「此度の件、実に素晴らしい魔法を造ってくれたと思う、ただ、物が物だけに管理を国に一任しても良いかの?」
「か、構いません。あ、あとこちらをどうぞ」
俺は首肯を示しつつ、寮に設置した集中管理具二台と接続具を台車毎、叔母上に手渡した。献上とは意味が異なるが、必要な事だから。
「品まで用意するなんて流石は姉様の息子ね」
「本当、誇らしいわね」
「お父様、こちらが魔光球の集中管理具になります」
「そこそこ大きいのだな」
「表面に記されている目盛りの数が割り当て出来る部屋数となってます。もう一つ、空間接続魔法を用いた、こちらの魔導具を使うと──」
以降の説明は俺が事前に行った通り叔母上が代行してくれた。学長の立場もあるからな。
母様は驚きつつも楽し気だった。叔父上は困り顔で固まるサーシャを見つめたままだけど。
「ほぅ、それは何処まで可能なのだ?」
「空間接続魔法はどれだけ距離が離れていようとも近くにあるように振る舞う魔法ですので、それをそのまま使っているとあれば」
「距離に関係なく供給が可能ということか」
というところで叔父上から質問が俺に飛んできたので、簡単な例と共に答えた。
「そうなりますね。例えるなら王都に管理棟なる建物を用意して王都中の街灯、街中を照らす灯りの管理も可能にございます。時間指定を行えば昼間は停止し、夜だけ灯りを点す事も」
「そうなれば夜中の犯罪も減るのではないか? 灯りがあれば、隠れてどうこう出来ぬはずだ」
「可能性は高いでしょう、良く出来た孫だわ」
「そこに目を付けるとは流石は私の息子だわ」
「夜中に溜まる埃などの汚れも消えますしね」
「確か浄化の性質もあったな」
これは一つの例に過ぎない。
電気の代用となるのが魔力ならそれを管理するのは国家である方がいいのだ。民間で管理していても帝国が相手では奪われるからな。
「では、シエル。教会に登録すべきは?」
「魔光球の付属品は登録済みですので、接続具だけとなりましょう。中身が何であるかなど気にもとめない者が多いでしょうから。この品を見ると魔石の裏側は厚板です。術陣は裏側にあてがわれているので見える物ではありません」
実際には厚板の内側に隠れているけどな。
スリットからは見えない位置でヘコみ、フラット型の換気扇式で魔力の流れが出来ている。
スリットから覗き込んでも術陣は見えない仕組みだ。封入している容れ物を壊すと術陣が崩壊するようにも出来ているので術陣が盗まれる心配はない。これだけ取られても光を照らすだけの魔導具だからな、用途は完全に限られる。
おや、サーシャの様子がおかしいですよ?




