第34話 善処しますって一体なに。
それは叔母上が去り際に言った事──。
コソッと耳打ちされた一言を聞いた時、私の顔は真っ赤に染まってしまった。
(もう、私達はそういう関係ではないのに!)
私達は従姉弟同士。
それ以上でもそれ以下でもない。
それなのに叔母上は、
『彼は超優良物件だよ、早々に婚約してしまいなさいな。姉様の言うこじらせがあるとしても何処ぞの馬の骨に奪われるよりはマシだろう? 配慮する気概もあれば腕が立つとの話だしね』
男女間の付き合いをしろと提案して去っていった。流石にこじらせ云々は理解が出来なかったけど、シュウとそういう関係に至ろうとは私自身は思った事などない。同じ人形師としてのパートナーならまだ分かる、けれど色恋云々は早いと思う。そもそも婚約とは恋だなんだの話より、家同士の利益を重んじるものだしね。
(愛だ恋だという低次元の話には興味ないし)
仮に父上と伯母上の間で婚約話が取り交わされたのなら反対する事なく受け入れると思う。
国益で見るとシュウは超優良物件だから。
それも自重が無い部分を見なかった事にすれば、という条件が付くけど。今もボケッと壁の箱を眺めては何かを考えているし。
(これはまた何か生まれるのかな)
そう思った直後、シュウの足下にバラバラと板状の物やら尖った金属が現れた。
(今度は何を生み出したの?)
私は背後から怪訝な視線をシュウに向ける。シュウは私の視線を無視したまま床に座り何かを組み立てていた。
するとその内の一つが私の足下に置かれた。
(箱? 蓋の無い穴の開いた?)
私は箱を立ったまま覗き込む。
見た感じ鉄で出来た容れ物だった。
穴の周囲に×印の丸い鉄も埋まっていた。
するとシュウがミスリル線の一つを出来上がった板の穴に押し当てた。
(は? 板の中にミスリル線が入っていく、反対側に出ていない? 一体何を造ったの)
それを見た私は困惑した。
ミスリル線が突き抜けると思ったのに。
シュウは周囲を見回し私の足下に視線を向ける。そこには転がった箱から出てくるミスリル線があった。なんなのこれぇ!?
シュウが押せば伸びて引けば沈んでいく。
そこからここまで繋がっているの?
(こ、こんなの見た事ない!!)
私は一体何を見せられているのだろう?
あまりの事に興奮し過ぎて怒鳴ってしまう。
「な、な、何なんですかぁ!? これは!」
「場所を問わず配線出来る魔導具?」
「じ、自重って言葉分かります?」
「それは分かるけど、配線の手間を考えたらこれが楽だと思って」
「はぁ〜」
私の言い知れぬ怒りがあっけらかんと躱されてしまった。この怒りは自分の不甲斐なさを示されているように思えてならない。私も人形師としての誇りがある、でも私の誇りが薄っぺらい物だと強引に理解させられた。
今行っているのは人形師とは別物の行いだけど、全ては人形製造に深く関わる技術でもあるから自信を失いかけたよ、ホントにもう!
(若手人形師の立場で見ずに伯母上と同じ人種と思えば、ギリギリで保てる自信ではあるかな? そう思ってないとやってられないわよぉ!? ベッドの上で今すぐ泣きたい)
人形師の根底がシュウと私とでは違うようだ。叔母上の気持ち理解出来たかも。
叔母上も姉という化物を相手に色々と見せられてきたと言われた。だから姉と違う路線で努力したとも言われた。
伯母上は精巧な見た目を極め、叔母上は魔法陣による制御を極めたらしい。
シュウは内面的な精巧さで人形を造っているが制御系はそこまで得意ではないのか、伯母上が提供した思考魔核を取り入れていた。
逆に私は制御系を徹底的に学んでいるからシュウよりも上手く出来ると思う。
その後も大広間脇に一人で佇んでいると最初に造ったとされる十個の穴あき板から、個々のミスリル線がにょきにょきと伸びてきた。
鬱屈を振り払うように私は思案する。
(これが各部屋と繋がると。既存の建物に穴一つ開けずに設置出来るって、もの凄く有用なのでは? 王宮内は簡単に改修が出来ないから同じ技術を扱えば色々出来そうな気がする!)
シュウの自重無しを見なかった事にして国益で考えたら改修費が安く済み、別の意味で利になると思えてならなかった。それこそお手洗いの管、あれに用いれば上階でも同じ物が設置出来ると思うし。まぁ王宮に戻る気はないけど。
その間のシュウは行ったり来たりして各部屋やら廊下を巡り、夕方になる頃には一部屋毎に灯りが点き、廊下も全体が明るくなった。
私は頃合いを見て叔母上に連絡を入れる。
「完了したようです」
私でも驚いた、叔母上も驚くに違いない。
今回はいたずら心というほどでもないが詳細を告げずに報告だけ行った。
叔母上はシュウから借りた変換核を陛下に示したらしく、謁見の約束を取り付けたそうだ。
(空間魔力の再利用、誰もが思い浮かばなかった手法を造り出した。その一つがこの寮にある光輝く室内に使われているとはね)
目前には目盛りが真横に振り切ったまま微かに動く様が見て取れた。供給しつつも増える魔力、魔石が劣化を始めたら目盛りの大きさが徐々に縮んでいくとシュウは語っていた。
基準となる線も枠に設けられていて、そこに達したら魔石を交換するとの事だ。
(一割に達したら完全放出で供給停止、ねぇ。条件付けだけは得意なのかな?)
制御系が苦手と思ったけど何処か違うと思えた私はそれすらも見なかった事にして叔母上を待った。シュウはそういう人と思うしかない。
しばらくすると叔母上が戻ってきて、
「こ、これは!?」
「自重無しで頑張った結果です、叔母上」
予想通りの反応をいただけた。
どうも叔母上もシュウを伯母上と同じと認識したみたいだね。親の子というか何というか。
シュウはきょとんとした顔のまま一階・集中管理具の目盛りを眺めていたけれど。
§
「はぁ〜ドゥリシア王国の宮廷魔導師長が造った空間接続魔法を応用していたって事かい?」
その後、寮内の魔光球を消灯したシュウと私は叔母上と共に王宮へと向かった。あまり王宮には帰りたくなかったけど、今回は仕方ない。
「誰が造ったかは知りませんでした」
「そういう恩恵持ちだって聞かされている以上は受け入れるしかないね。いや、しかし、次から次へと、そろそろ自重してくれると助かるのだが?」
うん、叔母上の気持ち私も分かります。
連続であれこれ造られると今度はシュウが狙われるからね。教会か帝国かって意味で。
兄様達ももしかしたら狙ってくると思う。
王位継承権・第四位が本日確定するから。
「善処します」
難しい言葉を知っているんだね。
「まぁ自重する気があるって事にしておこう」
叔母上は苦笑しつつ受け流しているが。
「しかし、入学式までの間にあれこれ出てくると、ほどよく流して貰わない事には他の子との差が出てしまうねぇ、首席君」
「あはははは。そ、そうですね」
「同率の子にも注意しておいてくれるかい?」
「言い聞かせておきます」
え? シュウって首席なの?
同率って誰の事? 私じゃないよね。
「その年で最大って事も要因だろうけど」
「ギクッ」
「まぁいい、それだけの頭脳が我が国に二人も生まれたんだ。国を挙げて護ろうじゃないか」
「ありがとうございます」
「先ずは、貰ってやってくれないかい?」
「お、畏れ多い」
「それが護る事の条件なら?」
「うっ、お、お引き受け致します」
「結構、姉様と兄様に話を通しておくわね」
叔母上とシュウの間で交わされる不可思議な会話。私の知らないところで何が起きてるの?
意味深な会話の真相は?




