第33話 自重って言葉分かります、
金髪碧瞳の学長が血走った目で──。
俺の胸ぐらを掴んで脅してきた。
「説明していただこうか! 甥っ子君?」
もうね、母様に似て綺麗なのよ。
表情は何処となく恐ろしい顔をしてるけど。
これで二十七歳とかマジって思うわ。
(む、胸が、母様より大きい!)
末妹がどうと母様が嘆くのは胸と思っていたが性格も?
俺は怯えながらも、
「う、迂回路を設けただけですよ?」
ありのままに伝えた。
鑑定した限り勝手に理解すると思ったし。
「迂回路? まさか君は見えているの?」
「お、叔母上も魔力が見えるのですか?」
「見えなきゃ施工が出来ないだろう」
サーシャが驚きのまま発しているが叔母上も母様同様、魔力感知を持っていた。
魔力感知を持ってないと断線なんて調べられないからな。魔法でも調べる術はあるが恩恵に比べたら精度が全然違うから。
今は大広間、叔母上は俺を背中に担いだまま浮遊して術陣を探る。
「これは、暗号化まで使うとはね?」
「一応、そういう代物になったので」
「施術は正しいわ。これは国を揺るがす仕組みだもの」
おぅ、見ただけで何が動いているのか判断しているわ。現に目前の術陣が魔力を少しずつ吸収して空間属性魔力に書き換えて吐き出し、その魔力で施錠魔法陣が稼働しているのだ。
叔母上は楽しそうに微笑み、横目で俺を見つめた。狂乱的な視線ではなく優しい微笑みで。
「姉様の息子は破天荒なんだから、これは将来が楽しみね」
「どうも」
俺が応じると今度は真面目な雰囲気を宿して思案を始める。学長というか元王女というか。
「とはいえ狙われる事は確定だから、お父様に報告を入れて国をあげて秘匿した方がいいわ」
「ひ、秘匿ですか?」
「別に使わないって事ではないの。先ほども見せて貰ったミスリル板、それを二重三重で隠して偽装を施すといえばいいかしら? この寮は仕方ないけど他は隠さないとダメね」
叔母上の話し方が母様に似てるから、いつもの調子で問うてみた。
「ああ、動きを別物で?」
「そういうことよ」
「でしたら空魔石に補充するというのは?」
「はい?」
これはやっちまった感ある?
「い、一度降りていただけますか?」
「そ、そうね」
きょとんとした叔母上は俺を背負ったまま大広間の床に着地した。俺は背中から飛び降りると同時に廊下用のスイッチ箱をインベントリから取り出して示した。それは複数のスリットが入った多段式の金属箱、開けられない一段目には変換核のミスリル板、二段目は板状光魔石。
三段目にスイッチ金具と配線の接続金具だ。
二段目側面に魔力残量を示す目盛り付き。
開封可能なのは二段目と三段目だけ。
箱自体は魔力封じを施したチタン製。
厚みは三セルという薄型だ。
「何処からともなく、姉様が自慢していたのはこれの事なのね」
収納魔法というか収納術に驚いただけか。これも追々呪文を教えないと。
「これは廊下の照明を集中管理する箱ですが、中に光属性の空魔石を収めています。この裏側、壁面部分にある左右のスリット、そこから魔力吸引して表側の空魔石に魔力を送り込むのです。一定量貯まると魔石の魔力で魔光球が光り、途切れる事なく動き続けます。このスイッチを切ると供給が段階的に止まります」
空魔石に補充して従来通りに動かす。
普段は側面の魔力残量の確認を行うだけ。
魔石でも経年劣化が起きるから貯められなければ交換となるのは当然だった。
シャル達の中にある成長する魔石は除く。
説明中も叔母上の興味は尽きない有様だ。
「既に用意しているとはね。って、今気づいたけど、この大広間も?」
「昨日の内にシャンデリアだけ交換しました。一室だけは別物になっていますが、そちらも供給路を施して集中管理する予定です」
「なるほどねぇ。分かった、施工は任せるから出来上がったら呼び出してくれるかい、サーシャ」
「は、はい!」
叔母上はサーシャの耳元で何かを囁きながら颯爽と寮から出ていった。
「私は王宮にあがってくるよ」
これって好きにやっていいって事か?
出来る事なんて限られているけどな。
何はともあれ、許可をいただいた俺はシャンデリアのスイッチ脇に廊下用のスイッチ箱を二階と三階の壁面にも埋め込んでいった。
「廊下は配線を一直線でいいか」
個室用は少し大きめの箱を真横に埋め込んだけどな。異世界なら建物内にパイプを用いて経路を設けるが、既に出来上がっているこの建物だと専用経路を設けるのに手間が掛かりそうなんだよな。その間のサーシャは所在なさげな表情で俺をジッと見つめている。顔も少し赤い?
(それはともかく、空間魔法で何か無かったかな? 穴を開けず配線を通す的な?)
思案する俺は恩恵技能の魔導書庫から該当魔法が無いか調べる。あるのは空間接続という遠方陣との距離をゼロにする魔法だった。
(ショートカット的な魔法か?)
そうして俺は成物錬成を元に空間接続を施した正方形のミスリル板を計二十個。集中管理具用の十個穴の鉄板と区分けされた穴無し鉄板、鉄ネジを計四本。個別穴の鉄板を十個、鉄箱を十個。鉄ネジを四十本錬成した。穴と配線を護る黒い樹脂付きで。
スイッチ部の金具から接続金具も各十個。
(け、結構な数だな。最初から組み立ててあるのではなく、自分で組み立てるとは)
寮には計四十部屋存在していて全てこれで賄える。見本を造ったら複製するけどな。但し、大広間は除く。
個々のミスリル板を覆うように上下分割の穴あき鉄板をネジ止めしていく。
今回はプラスドライバーも一緒に錬成した。
(試しに配線を通して、どれに繋がったかな。あ、サーシャの足下だ)
俺が配線をスーッと通すと板の背面には出てこず、呆然となるサーシャの足下から伸びてきた。押せば成長するように生えてくる。
引けば地面に埋まるように沈んでいく。
するとサーシャは興奮しつつ俺を怒鳴る。
「な、な、何なんですかぁ!? これは!」
俺は悪びれもせずあっけらかんと答えた。
成功したなら次の作業にも入りたいし。
「場所を問わず配線出来る魔導具?」
「じ、自重って言葉分かります?」
「それは分かるけど、配線の手間を考えたらこれが楽だと思って」
「はぁ〜」
何故か呆れられながら溜息を吐かれた。
その間の俺は部屋割毎に札を付け、どれがどの部屋の配線か割り当てた。そして個々の部屋にあてがう鉄箱を持って埋め込みにいった。これで配線だけ済ませば残りは各部屋の施工だけになるだろう。ミヤの部屋だけはやり直しになるが致し方ない。
「箱を交換してスイッチに配線を圧着接着」
魔石が入った古い箱はそのまま回収した。
ミヤの部屋だけは配線を通し、いつでも使える状態に変えた。あとは集中管理具に接続すればいいからな。集中管理具には部屋毎に魔石を収めるので目盛りが表層に出るものとした。
裏にある変換核も部屋毎に動く仕様だな。
吸引スリットは左右の一カ所だけになるが。
「左側一番下がミヤの部屋、配線を圧着接着」
中心部の配線蓋を閉じてミヤの部屋に戻った俺は灯りが点いた事を把握した。そして集中管理具の元に戻って魔力残量も確認した。
「百パーセントで推移中っと」
その後は各部屋も同じように施工を進め夕方には全部屋と廊下が明るくなった。
するとサーシャに呼び出された叔母上が戻ってきて驚いた。目盛りだけでなく配線が壁を突き抜けているからだろうな、きっと。
「こ、これは!?」
「自重無しで頑張った結果です、叔母上」
諦観の面持ちのサーシャとの対比は相当なものだったが。
彼は電気工事士かな?




