第31話 自重は腹に置いてきた、
翌日からは俺だけが王都に転移し──。
昨日より続いた寮の改装を続けた。
(今日は廊下だけ、明日は厨房やら風呂の水滴が多そうな場所を中心に)
既に魔光球の製品化は始まっており、今朝の内に数キルメルの配線ドラムを十巻きほど屋敷の一角に置いてきた。
購入したければ、そこから十メル単位で銀貨一枚・十万ルトを支払って切り取るよう母様から家令に指示を出してもらった。
専用工具も鎖付きで側に設けているので盗まれる事は無いだろう。仮に盗みを働いたら衛兵達が総出で追いかける事になるがな。
ただ、どの程度使うか分からないため、距離を伸ばすための結合金具を一袋十セットで銀貨一枚・十万ルトとした。平民が購入する前提だからその程度の金額だな。貴族が部品的な物を購入する事は稀なので、安すぎず高すぎずの金額を設定した。
一先ずの俺は一メル単位で接合部を天井に埋めていき、間に配線を引いていく。
(廊下は集中管理式がいいか、連続点灯させて? いや、それよりも)
と、ここで魔力感知を有効化させ周囲に漂う魔力に気づく。それは誰もが無意識に放出して拡散魔力の残り香だった。あるいは俺自身が放出している魔力も含まれる。
(仮に空間魔力と呼称して、これを再利用するのも手かね? 魔法を発動したあとの魔力も消えるわけではなくその場に留まるだけだから)
魔力とはある種の力場、消える事のない力そのものと考えたら、再利用可能と思えてならなかった。それもあって恩恵技能の魔導書庫から該当魔法が無いか探し出す。
(魔力吸収だと触れている物の放出分だけになるか。空間魔力を集めて魔石に貯めるとなると粉塵旋風になるかね。粉塵を集めて放出する攻撃魔法、これの粒子判定を超微細にして空間魔力だけに制限すればいけそうな気がする)
そして該当する魔法を見つけた俺は魔法解析したのち、呪文を創作して魔法陣を構築した。
不要項目を削り、必要項目を付け足す。
(試しにミスリル板に付与して、反対側に空の光魔石をあてがう。属性変換も含んでいるから徐々に貯まっていってるな。これが可能になると空魔石を再利用する事も可能じゃね?)
やべぇ今度は危険物を作ってしまったかも。
帝国にバレたら戦争の火種になるぞ?
(この術陣は禁書扱いとした方がいいな)
って思ったら載る段階で禁書指定が付いた。
そして作者以外は使えない魔法になった。
おそらく作者が危険と認識すると反映されるのだろう。
(たちまちは魔法陣に暗号化魔法を施して魔法解析不可と鑑定不可にするか。それで変換核となる板を介して魔力供給を行えば魔石要らずとなる。供給路のスイッチも薄型で済むし一石二鳥だな)
やってしまった物はどうしようもない。
あとでサーシャに相談してしっかり怒られよう。こういう時の同業者だからな。
そう、思っていたら宮廷魔導師に連れられてサーシャがやって来た件。宮廷魔導師は送り届けると王宮に戻っていった。
「お昼を持って来ました〜。って、あら?」
「お、おう!」
「そ、その板はなんなんです?」
板を右手に持ったまま魔光球を光らせていたら、きょとん顔のサーシャから質問が飛んだ。
「さ、最新技術の試作品?」
「つ、次から次へと! じ、自重して下さい」
「ごめんなさい!」
「もう、仕方ないですねぇ。詳しく説明していただきますからね?」
「御説明させていただきます!」
あれ? 俺ってば尻に敷かれてない?
従姉ってだけの関係なのにな、不思議だ。
サーシャと昼飯をいただきながら説明した。
「まさか感知が出来る方だったとは」
「そういう恩恵持ちということで」
「詳しくは詮索しませんが、軍事転用可能な代物ですね、これは」
テーブル上には接合部が乗ったミスリル板が置かれていた。今も煌々と光り続ける魔光球。
魔力は途切れる事なく超微量魔力の吸引増幅を行っていた。吸引増幅を付けたつもりはなかったが元々の攻撃魔法にその性質が残っていたようだ。流石は風属性の上級魔法だよな。
「たちまちの術陣は暗号化したうえで光属性変換した与えてないけどな。他の属性変換も可能だが禁書扱いで封じておいた」
「先んじて対応して下さったのですね」
「教会と帝国の危険性を考慮すればな」
「説明しておいて正解でしたね、しかしまぁ」
今度はスイッチを接続してオンオフを繰り返す。オフとすると魔力吸引は完全停止する。
オンにすると魔力吸引が稼働し始めた。
それがミスリルの板一つで賄える。
各寮の管理具も玄関脇の魔石庫から行っているが魔石が無くなれば鍵は全て解錠されてしまうため仕組みを知っている者が悪さすれば毒も盛り放題となるだろう。サーシャの身を案じるなら魔石式からの変更が無難に思える。
「魔力経路にこいつを当てはめておくか?」
「それって施錠魔法陣の事ですか?」
「それしか無いよな、あれは空間属性だから専用を別途用意する必要があるけどって、早速おいでなすった」
何というタイミングでお出ましだわ。
サーシャが居たら困る相手のお使いだな。
「誰が来たのです?」
「寮が留守と思って横の魔石庫を解錠しようとしているバカだよ。今のうちに経路に埋め込んでくるわ。このままだと不法侵入を許すから」
「不法侵入?」
空気を読んでか知らないが、そこまでするなら防犯もガチガチにしてやるよ。
サーシャをダイニングに待たせた俺は魔力感知を有効化したままこの建物の管理陣を探す。
(経路は玄関脇の魔石庫から直結か、集中管理の魔法陣は大広間の天井にあるな)
探したのち浮遊魔法で浮かびつつ、天井へと右手をあてがう。触れる者は今まで居なかったから、この場に管理陣が存在するのだろうな。
(とりあえず魔力経路に迂回路を通して空間属性の変換核をあてがう。経路遮断で魔力が途切れたら自動吸引開始、魔石からの供給が復活したら自動吸引停止だな。試験開始、止まっていた機能が稼働して寸断する事なく動いたな。試験停止、無事停止したな。丁度良いタイミングで供給停止からの再稼働開始っと)
間一髪。外でゴソゴソする不審者は鍵が開いたものと思い、玄関ではなく裏口にまわる。
「懐に腹痛を起こさせる毒を持つ、か」
この世界はやられたらやられっぱなしだ。
基本的に捜査能力が無いから現行犯しか捕まえる事が出来ない。例外はミヤのように証拠品を提出する事だ。相手が同等、それ以上の者だった場合は、もみ消されるので決定的な罪状を作らない限り追い詰める事は出来ないだろう。
確認を終えた俺はサーシャが不審顔で待つダイニングに戻る。昼飯は食べ終えているけど。
「何か厨房の裏口がうるさいのだけど?」
「鍵が開いているものと思って騒いでいるだけだな。無事に稼働したから、今まで通りと思うなかれだ」
「まさか? もう付けたの?」
「付けなきゃ腹を抱えたサーシャがお手洗いと三日以上もお付き合いする結果を招くからな」
「え?」
「食中毒を起こす毒を持ち込もうとしたんだ」
「!? またなの?」
またって、経験があるのか。
時期的に二日後が入学式だ。
重要な式典を腹痛で欠席させる。
それが相手の常套手段なのだろう。
腹痛だから口卑しいとか何とか言って貶す事も含まれる。両親から咎められないから、エスカレートしているのだろう。
「王宮ってホント魔窟だな」
「嫌になるくらいには魔窟ね」
過去を思い出したサーシャは腹を押さえて苛立ちが表に出ていた。俺が呆れるくらいの魔窟が王宮という場所なのだろう。
ホントやりきれないな、マジで。
子供のいたずら?




