第30話 適材適所の製造者。
玄関から戻ってきたシャルに聞いた──。
なんでも定期検査で機能増設したという。
その機能を今回利用して撃退したと小さな胸を張って自慢ではなく、報告してきた。
そののち、二階のサーシャ様がおかしな挙動になっていると伝えてきたので様子見に向かった僕だった。これも眼球に付けられた透視と思惑鑑定という技能のお陰らしい。
ホントに凄い人形だと思うよ。リーシャも今度付与して貰うと、羨ましそうに言っていた。
(で、今はレース編みをやっているのだけど、まさか照明魔法の魔導具化とはね。僕でも思いつかなかったよ。同じように作ろうと思えば作れたのに、これも文化的な適材適所かな)
今は薄暗い部屋ではなく異世界と大差ない明るさの中で編み物が出来ているのだ。
薄暗い中だと間違い易い編み物を淡々と進める事が出来るのもシュウ様のお陰だよね。
しばらくすると玄関先からジャラジャラと大きな音が響いてきた。
(この音は鎖か? まさか、シャンデリア?)
どうも、シュウ様は大広間から先に着手したようだ。一番手間の掛かる部分から手を出すって前世と変化してないね。楽な部分は後回しってよく言っていたから。
サーシャ様もガチャガチャ音に気づき、
「こ、この音は?」
困り顔の僕は予測しつつ助言してみた。
「シャンデリアの総交換だと思うよ」
「シャンデリア!?」
「一番人目に触れる大広間だからじゃないかな?」
「そ、そこにこれと同じ物を?」
「用いる予定じゃない?」
サーシャ様は大興奮になってしまった。
新しい物を見た時の奥様みたい。
いや、どちらかといえば戦々恐々?
「も、もし、成功したら」
「次は廊下と厨房じゃない?」
「そうではなくて!!」
「ではなくて?」
「ち、父上に報告しなくっちゃ!」
「報告?」
「教会に技術情報を登録するの! そうしないと何も知らない神父経由で帝国に全てを奪われてしまうわ。一部屋ならまだ良いのだけど、人目に触れる場所だと神父達に気づかれるのよ」
この世界にも技術泥棒って居るんだ。
呆然とした僕はレース編みの手を止め、大興奮のサーシャ様に別件を問うてみた。
「それならお手洗いは?」
「あれはすぐにどうということはないわ」
「目に見える形の物が危険なんだね」
「ええ、伯母上もシャルの件で神父へと報告したもの。報告義務があるから仕方ないけどね」
技術泥棒に教会が加担しているの?
それって教会そのものが帝国の犬じゃん。
製造者や発見者の名を示さないといけないのは危険過ぎると思うけど、シュウ様の物は全て奥様が代行登録していたって事か。
帝国に狙われると面倒だから。
サーシャ様は胸元のペンダントに手を翳し、
「連絡を入れないと」
真剣な表情でブツブツと詠唱していた。
これって連絡的な手段かな?
携帯電話ってわけではないみたいだけど。
サーシャ様は居住まいを正し報告を始めた。
「父上ですか、サーシャです──」
時折、天井とかスイッチを見つめ、立ち上がって点けたり消したりしていた。そのまま廊下に出て、シャンデリアの様子を眺めていた。
僕も一緒についていきシュウ様が試験に入った事を悟った。暗がりから段階的に明るくなる大広間、最高輝度に達すると眩しすぎた。
暗がりからだから余計にそう見えただけね。
点灯試験は何度も点いたり消えたりを繰り返している。スイッチの摩耗度合いを調べているのかな? 交換可能にしていたみたいだし。
「はい、では、よろしくお願い致します」
サーシャ様の報告も無事に終わったようだ。
「示しながらだから理解が早かったわ。すぐに報告書を用意して登録させるそうよ、伯母上の名前で。今回は光魔石が必要だから帝国では製造不可だって。帝国は魔石を造り出せないし採掘も出来ないから、即登録が可能だろうって」
「そ、それが連絡魔導具?」
「王位継承権を持つ者しか持てないけどね。魔石に映った物が相手に伝わるの。シュウはまだ謁見していないから、陛下から賜ってないけどね」
「そういう代物なんだね」
シュウ様なら解析して改良しそうだけど。
今日は奥様への説明も入りそうだね。
その後の僕達は慌てて一階に降りてシュウ様の呟きに応じた。
「これだけでも明るさがハンパないな。普段は二つ使いで奇数日と偶数日で分けるか」
「それがいいと思うよ、魔石の節約になるし」
「ロウソクと違って明るさが異なりますしね」
「わぁ!? サーシャか、ビックリした」
「シュウ様、僕も居るよ!」
隣に居るサーシャ様に気づいて、僕に気づいてないって酷くない!?
ともあれ、この日は夕刻となったため僕達は帰り支度をする事にした。
「それよりも、今日は戻りませんか?」
「そうだな、流石に疲れたし後日にするか」
「戻ってもご説明ターイムになると思うけど」
「は?」
きょとんのシュウ様って可愛い!
女顔だからかな? シャルっぽいけど。
当のシャルとリーシャも帰り支度をしていて二人揃ってトイレから出てきた。ああ、戻ったら便座が使えないもんね、あれも設置必須か。
(一応、便器の複製はしてるけど、御屋敷だけでいいよね?)
寮から出た僕達は宮廷魔導師ではなくシュウ様の手を握って辺境伯の御屋敷に戻った。
(単身で転移とか聞いてないよぉ!?)
この日の僕は考えるのを止め、思考停止でお風呂に入った、考えても仕方ないもんね。
出来る事と出来ない事は誰でもあるし。
試験から始まり合格発表の後、色々あって帰ってきた。本当に濃密な一日でした。
一方のシュウ様は奥様に呼び出され、
「──という条件で光り続けます」
「凄いじゃない! お手洗いの事もそうだけど、この魔光球って代物は! 夜中でも図面がしっかり見えるし、何より火の不始末を心配しなくていいわ、アークからも申請が出ていたから私の方で登録しておくわね! 成人になったら書き換えてあげるから心配しなくていいわ」
大興奮な結果を与えられ呆然としていた。
僕がお風呂から戻ると、サーシャ様が呼び出し理由を説明しシュウ様が何度も頷いていた。
「き、教会は利権塗れじゃねーか」
「登録していない者が悪いって帝国の味方になったりするからね。だから登録するならありのままというよりも」
「少なからず偽装を含んでおく方がいいか」
「ええ、現物を示すわけではないからね」
「教会が間諜って王国は知っているのか?」
「知った上で利用しているわ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのよ」
従姉弟同士というか、恋人同士というか。
人形師同士というか、不思議な関係だね。
僕も妾でいいから可愛がってぇ!
「「ミ、ミヤ様の、目が怖い!」」
「またヤンデレって言った!?」
「「い、言ってませんよ?」」
「怯えてる時点で言ってるでしょ!?」
このぽんこつ人形共は!
ホントに人形なのか疑いたくなるよ。
§
翌日、シュウ様発案の魔光球と便座、便器と簡易浄化槽は無事に教会へと登録された。
それと同時に製法をギルドにて公開し関連事業者が製法を購入した。既得権益を持つ事業者に対しては新たな事業が成功するまでは減税を約束したという。銀バケツは便座と便器の製造を、葉っぱ業者は簡易浄化槽の製造を。これも肥料関連の罰が出来る直前だったから助けられたともいう。寄生虫的な病気の元って意味で。
但し、魔光球に使われる配線だけはディライト辺境伯家の独占製造となった。樹脂が特殊過ぎて製造出来る者が居ないとの話だ。
切り込みからミスリル繊維を収めて魔力をあてがえば、封じられるって特殊過ぎるもん。
幸か不幸か人助けになってる不思議。




