第28話 生活改善と門前払い。
合格発表後、入寮した一室を改造した──。
それは待ちに待った安心感を得たという感じかな。シュウ様も僕と同じ考えを持っていたようで、驚くような仕組みを与えた魔導具を用意していた。洗浄は生成水、浄化で浄め、温風で乾燥させるという物だ。冬場でもお尻が冷たくならない柔らかく暖かい座面と、鳥のさえずりが室内に鳴り響く特徴を持つ。
(女の子への気配りが凄いよね、惚れちゃいそう、惚れ直してしまいそうだよぉ!)
設置後のシュウ様は排水管を伸ばしていたので、僕は窓のカーテンを閉めてお試ししようとした。だが、サーシャ様とシャル達が室内に入ってきたので下げていたパンツだけ戻した。
「なんですか、この白い器は?」
「お手洗いだよ、壁際の銀バケツはそのまま清掃用で残すけど」
「え? あれを使わないのですか?」
「うん、こちらの方が断然いいからね」
その際に王家が先という話を思い出しサーシャ様に使わせてみた。一応、水生成したのち排水が上手くいくか試していたけどね。
ただ、サーシャ様の長いスカートが邪魔になったので一度脱いでもらい、ドロワーズだけの姿になってもらった。これも追々上下分割ドレスを用意しないとね、そうしないと後々が大変だよ。
「では、失礼して。あ、柔らかい」
他者の様子を見るのは気が引けたけど使い方を教えないとダメなので我慢した。
幸い僕が同性だからかシャル達も真剣に聞いていた。一人で過ごす場所だからね。
その動きは全自動だった。余計な場所に触れずとも勝手に判断して勝手に流す。
洗浄は手動なので僕がレバーを倒したけど。
サーシャ様は終始ボーッしていたが、
「はっ、い、今のは、一体?」
「気持ちよかったでしょ?」
「え、ええ」
「流した水は全て埋設した容器で浄められて、この容器に収まる水になるそうだよ」
「こ、こんな道具は初めて知りました!」
地頭が良いのかすぐに復帰しドロワーズを穿いて、室内の水場で手を洗い終えるとドレスを着直して窓を開けた。
「これいい! これは王宮にも欲しいです!」
どうも水洗トイレのファンになったらしい。
(ファンというのは少々違うかな?)
何はともあれ、お手洗いの利用はシャルとリーシャが続き、僕も続けて体験した。
(これを待っていたのぉ〜)
全員の反応は過去最高だったね。
人形の二人までとろんとしていた。
人形なのにこの反応、ホント凄いよね。
そんな新生活の下話は置いといて、魔力回復薬を飲み終えた僕はシュウ様が戻ってくると同時に厨房へと移動してシャル達と食器類の錬成を始めた。
「シャル、茶器は何個?」
「普段使いであれば十個でよろしいかと。茶会は招待状を送る数が関係しますので」
「その時に錬成すればいいね」
「はい、この質であれば問題ありません」
「シャル、皿はあと何枚?」
「そ、それで十分ですよ、リーシャ様?」
「あらら、リーシャってぽんこつなんだね」
「リーシャ様はぽんこつですね。五千枚も要りませんよ、あとで銀の延べ棒に戻さないと」
「二人してぽんこつって言わないで!」
僕が錬成したのは陶磁器だ。
それも内側と飲み口の一部に銀を施した物。
リーシャが錬成したのは銀食器だ。
毒を盛られる事は早々無いと思うけど、サーシャ様を狙う者が現れないとも限らないから。
ぽんこつ人形と微笑み人形を眺める僕はサーシャ様の周囲にある不穏な空気を感じとった。
(この国の王宮も魔窟だもんね、子爵家に生まれて良かったともとれるよ)
何でもサーシャ様は側室の娘で正室の子供と仲が悪いらしい。正室の王子と王女は魔導師に選ばれた事で王位継承権が無いに等しいから。
そして表沙汰にはなっていないが、サーシャ様の弟君も人形師に選ばれていて、王位継承権で言えば降嫁する予定のサーシャ様よりも上に位置するらしい。次期王太子候補で。
第二王子が王太子候補というのは第一王子にとって面白くない、法律を変えてでも王位継承権を得ようと動いても不思議ではないよね。
一方、各個室に移動したシュウ様は各種家具をサーシャ様はシーツと枕を準備していた。
「シュウ、この机はどういう物ですか?」
「ん、左の突起に触れると板が傾いて製図がしやすくなるんだ。引き出しに入れた定規をこうやって飛び出た金具にはめると」
「書きやすくなりました!」
「それとこの専用紙は事前に骨格を描いているから神経の通り道が描きやすいだろ」
「なるほど、それで絵柄があったのですね」
「ここの金庫に見本紙を収めているから使いたい時に複製したらいいよ」
「ありがとうございます、シュウ」
準備の途中でサーシャ様が気になったのか色々質問攻めしていたけれど。
共通点の多い二人だからこそ、分かり合えるっていうか、僕も一緒にお話したい!
「「ミ、ミヤ様、め、目が怖いです」」
「怖いってどういう事?」
「兄様の言葉でいうヤンデレでしょうか?」
「ちょ、ヤンデレって呼ばないで!?」
失礼しちゃうよね?
こんなに可愛い女の子を相手に。
今は止む無く男の子を演じているけど。
ちなみに、この王立学校は初中高専と各学校が同じ敷地内に立ち、寮がある場所も各校の周囲に集まっている。一見すると学園都市だね。
各領地にある分校は遠方に住まう子供が入寮するけど王都は全ての子供が入寮するそうだ。
それは当然サーシャ様の腹違い兄妹も居る。
この兄妹は双子でどちらも初等学校の二年に在籍している。第一王子と第一王女がね。
正室の王妃様は温和な性格との話だけど王子達は少々濃い性格をしているらしい。
どういう意味で濃いかといえば、
「ここにサーシャがいるのか?」
「報告ではそう上がっておりますが」
「一丁前に大きな屋敷をあてがわれて」
「その立場にあるので致し方ないのでは」
「へん! そんなもの俺がぶっ壊してやるよ」
「それが出来る立場になれば、ですがね。今は実績無きまま泣きわめいている子供でしかないですよ。それこそ、従弟殿並みに実績を作って下さいませんと」
「う、うるせぇ!」
血の気の多い王子と腹黒王女に見える。
見えるっていうか寮の外に来てる、何故に?
見た目は金髪碧瞳か、人形師に選ばれるのは銀髪碧瞳の確率が高いのだろうか?
いや、辺境伯様の長女は魔導師だからそうとも限らないか。生まれながらの性質と努力が非戦闘職に傾くかどうかの鍵かもしれない。
奥様とシュウ様が例外なだけで。
そんな騒ぎを聞きつけたシャルが唐突に向きを変え素早い動きで玄関に向かう。
「失礼、お約束はお有りですか?」
玄関先で扉を開けもせず応じる。
シャルは何らかの挙動を示しつつ待機する。
王子達は残り数メルというところで声がかかったため、つんのめるように立ち止まった。
「開けてもいないのに」
シャルの問いに応じたのは腹黒王女だ。
「私達はサーシャの兄妹です、試験に合格したとの報告を受け、お祝いに訪れたのですが」
「そうでご座いましたか、誠に申し訳ご座いません、サーシャ様は現在、不在にご座います」
するとシャルは言葉の句切りを狙い撃ったように間髪いれずお詫びの言葉を返した。
「あん?」
「不在?」
報告と違うとでも思っている王子達。
シャルは無視して問いかけだけ行う。
「ご用件がお有りなら言付け致しますが?」
この時、シャルがウンともスンとも反応を返さなかったためか、王子達は顔を見合わせて、
「そ、そうか、また来るとだけ伝えてくれ」
「承知致しました」
言付けだけして戻っていった。
居るのに居ないと返した理由が不可解だね。
シャルの挙動は謎が残る。




