第27話 合格発表とひと悶着、
実技試験でのひと悶着もあったが──。
試験結果はその日の内に張り出され、俺達は無事に合格した事が判明した。
普通なら採点時間が掛かるはずなんだが。
それと共に、
「あ、補欠合格になっているね? ポロ珍君」
「横に学長からの一言が書かれていますね」
「えっと、筆記試験で最低限の結果を出した」
「最低限だから補欠合格か、実技試験の結果は反映されていないって事だな」
「あれが反映されていたら私が許せませんよ。危うく火傷をするところでしたから」
「そうなったら回復魔法を施すけどな」
「! でしたらその時はお願いしますね?」
「二人の距離感近くない? 僕も混ぜてよ」
「何言ってんだお前?」
試験の終わりまで浮遊魔法で放置したポロ珍君もギリギリで合格していた。この呼び名はミヤが名付けたものだ。確かにお粗末を晒していたもんな、サーシャの目の前で。
件のポロ珍君は結果に納得が出来ていないのか掴みかかりそうな雰囲気でこちらを睨んでいた。それは両親と共に噂話を行う他家の視線も含めて。
「元平民が睨んでる」
「これだから下賤な傭兵上がりは」
「恩赦で爵位を賜ったって聞いたけど?」
「寄親のオウリ伯爵の頭痛の種だな」
このオウリ伯爵とは王都近郊に住まう亡くなった曾祖父の御実家だ。曾祖父はオウリ伯爵家の次男で辺境伯まで成り上がり、その武力を内外に示した。それがあるから帝国に睨みを利かせる家として北の氷雪原の護りを任じられているのだ。
帝国と王国の国土が隣接する氷雪原。
夏場は草原となる緩衝地帯だが、そこで亡くなる人兵は後を絶たない。それから程なくして登場したのが母様率いる機械兵達だった。
帝国にも機械兵はいるが母様の統率力が上回った事で手も足も出ずに敗走し、現在の状態へと変化している。それでも虎視眈々と狙っているから困った国家だと思う。
俺達はそんな視線を無視するかのように、
「あとは入学金を支払って」
「入寮手続きですね、室内の家具などは個人で持ち込む事になっておりますので、入学式までの間に購入される事をおすすめされています」
「自費購入か、それなら」
「自分達で作った方がいいかもね、個室の大きさに合わないと最悪詰むし」
事務局まで歩いて移動した。周囲の護衛兵達も同時に移動し、睨むポロ珍家族を引き剥がしていた。仕事とはいえご苦労様です。
「ところで寮は男女別なの?」
「基本はそれですね」
「基本? それってどういう?」
「低位貴族が住まう寮が男女別ですね」
「それって僕も含まれるよね?」
「ミヤは例の特例があるので高位貴族の住まう個室寮に入る事が可能です。私達の場合は」
「ああ、護られる立場にあるからか?」
「はい、同室扱いですね。一つの御屋敷をあてがわれ、その中で暮らしていく事になります」
主な説明はサーシャが行ったが、本来なら護衛の誰かが行う事だった。これはサーシャが「私がやります」って命じたからだけど。
「だからシャルとリーシャが要ると」
「ですね、召使いは常に側へ居るよう決まっておりますので」
「僕は居ないけど?」
「あくまで高位貴族のみとなっています。低位貴族は資金面で侍女を寄こせる者が少ないですから、余計な諍いを避けるために」
「ああ、嫉妬する者が居たんだね?」
「かつてはそれがあったようですね」
困り者が低位貴族には多いらしい。
それを聞き、俺とミヤは辟易した。
だから俺はミヤに対して、
「頑張って叙爵してくれよ?」
「それってどういう意味?」
激励を行ったが理解不能を示された。
子爵令息から成り上がれとの意味だが。
サーシャとシャル達は何か知っているのか静かに微笑むだけだった。
§
入学金を支払った後の俺達は入寮手続きを済ませ、その日の内に数年間を過ごす寮へ移動した。そこは出来たばかりの新しい屋敷だった。
「大っきいね!」
「用意する家具の数が凄い事になりそうだな」
「食器も用意しないとなりませんね。茶会も時々行う必要があるようですし」
「茶会なら菓子類も作らないとね」
「私はパンケーキを所望します」
「りょーかい、シャル達もあとで手伝って〜」
「「承知致しました」」
「その前に寝具が先だろう? 数日後から寝泊まりするしな」
「そうでした!」
「てへぺろ!」
「男子がそれをするなよ」
「ぶー!」
ぶーって、ミヤの身体は男子なのに心は女子のままらしい。パッと見、女子にも見える風貌だから油断すると可愛いと思ってしまうが、実在女は危険と俺の中の何かが囁くので気持ちを切り替えた。なんでそうなるか知らんけど。
「鍵は俺達の魔力で開くのな、出歩く時は施錠と発したらいいのか」
「それで全ての鍵が施錠されます。この屋敷は最新技術を使っておりますので」
「室内に居るときはどうなるの?」
「玄関と裏口だけの施錠ですね、使わない時は自動施錠されます。窓などは嵌め殺しですが」
「ああ、空調魔法が働いているのね」
「はい、室内温度が一定に保たれています」
室内に入ると広い玄関と大広間が存在し、左右の階段から二階に上がれた。三階もあるがこれは侍女達の住まう場所との事で俺達には不要に思えた。だが、工房として申し分ないので作りすぎた人形達を管理する場とした俺だった。
厨房も何気に広く保冷庫まで存在していた。
風呂も全員で入れる大きな湯船があった。
それらの水は全て水生成魔導具で賄われていた。お湯も一定温度で出る温水生成魔導具だ。
但し、トイレだけは銀バケツが置かれた従来の方式だった。広い部屋に銀バケツが一つ。
「ミヤ、陶磁器を造り出せるか」
「うん、僕もそれが良いと前々から思ってた」
「俺は外に簡易浄化槽を埋めてくるわ。便座もあるからこれを載せてくれ。あと魔力回復薬」
「準備がいいね?」
「いんや、今作った」
「だ、だろうね、御屋敷には無かったから」
「勝手に改造が出来ないからな、この寮は限定的に改造が可能になっていたから、助かったともとれる」
「偶然か必然か、だねぇ」
改造が可能、入らない家具があった場合などで可能になる決まりだ。
その代わり、退寮時に元に戻すか、品物を置いていくかしないといけないらしい。
幸い、トイレ部屋と洗面脱衣所、厨房は隣同士だったため、外に垂れ流される排水溝の全てを塞ぎ、裏手の地面を数カ所掘ってトイレ部屋の床下までミスリルコーティングのステンレス管を複数本通した。
その間のミヤは俺が通した位置にある大理石に穴を開け隙間をコンクリートで塞いでいた。
それを確認した俺は大穴とステンレス管の隙間を土魔法で埋めながら裏手に戻った。
そして排水溝から繋がるステンレス管を簡易浄化槽に結合した。トイレ側のステンレス管には排水と洗浄水の管が通っていて、ミヤはそれを即座に理解し洗浄水のタンクに繋げていた。
この簡易浄化槽は中に光魔法の〈浄化〉と水魔法の〈水流〉が割り当てられていて、沈殿物が溜まらないよう水流で適宜攪拌し、浄化で真っ新な水に戻すという効果を与えている。
水が綺麗になると隣に設置した水タンクに移動し、トイレの洗浄水として貯えられるのだ。
「このままだと水が貯まり過ぎて溢れるか?」
それに気づいた俺は一定の分量が貯まると従来の排水溝に流れる改造を水タンクに施した。
汚水と思ったら綺麗な水だったって奴だな。
サーシャ達から見たら理解不能な行動だったらしいが、設置後のミヤが最初に使わせた事で理解を示した。
「これいい! これは王宮にも欲しいです!」
王女殿下が欲する代物となってしまった。
銀バケツの行方は?




