第25話 入学試験の暇潰し、
入試のため王都を訪れた俺達──。
入学試験は各家が正しく教育を行ってきたかを調べるための内容がほとんどだった。
(読み書き、算術、簡単な歴史、マナー試験)
剣術や各種技能に通じる試験は無かった。
試験を粛々と受ける俺はその試験内容からある一点に気がついた。それは稀に現れる勘違い貴族を炙り出すための試験が主だったのだ。
勘違い貴族、例えるならデビュタントの折、立場の違いを理解していなかった騎士爵子息が分かり易いかもしれない。
『たかが辺境伯の子息』
試験には己が身分をはき違えた者を除外する引っかけが含まれていた。問題には「国王陛下の御息女、元第一王女殿下と元第二王女殿下の王位継承権について」という物だ。
現状、王位継承権は王太子殿下に移譲される事が決まっているが、試験では次の順位は誰なのかという選択問題になっていた。
(この場合、母様が二位で叔母上が三位、第四位は子供に移って──)
この国では人形師の子息子女を優先する。
叔母上の子供は騎士や重戦士が多く人形師はまだ居なかった。そうなると第四位は俺かサーシャとなり、次は恩恵の数で決まるとあった。
(──って、俺が第四位やんけ。サーシャが第五位か。ここで躓く者が溢れそうだな、左隣のサーシャは鼻で笑いながら書いているし)
王女殿下が上と認識する者はここで振り分けられる。俺の恩恵は三つ、サーシャは二つだ。
実は母様も恩恵を三つ持っていて、叔母上は二つという。仮に人形師があと一人生まれても順位に変化は起きないらしい。そこから先は年齢イコールとの話で同年代のサーシャと俺の位をどう捉えるかが鍵のようだ。右隣のミヤにも一応、教えているから間違う事はないだろう。
その代わり、
『昔と立場が逆になったね?』
意味深な一言をいただいたけど。
女友達からの変化でも。
(そう考えると逆にはなったな?)
試験時間は〈四つ目の鐘〉から〈五つ目の鐘〉までだった。時間表記は二四時間制であり各鐘は三時間毎に鳴り分ける。四つ目なら朝九時、五つ目なら昼一二時という扱いだ。
一年も三六五日で四季が存在している。
但し、暦は無く日にちを単純に数えて誕生日を把握しているとの事だ。
そして驚くのはそれだけではなかった。
(大きな大陸の周囲に太陽と月と星々が回る世界、天動説の世界とは想定外だったな)
とはいえそれだけだと分かり辛いので暦と時計を作って個人的に部屋へ飾っていたりする。
かなり前から星の動きを調べていたが、俺の誕生日は一月一日、ミヤが一月五日だった。
それをサーシャに見つかり『これは何ですか?』と問われた時は説明が難しかったのでミヤに丸投げした。上手く説明してくれたお陰で王宮へと献上する羽目になったけど。
(母様の工房と父様の執務室、厨房と侍女部屋、騎士部屋と武官部屋、王宮用の煌びやかな時計と暦、この三ヶ月は本当に大変だったな。サーシャの姉達の誕生日が七月一日と分かって社交界の開始日がそれで確定したもんな──)
試験問題を全て書き終えた俺は羊皮紙を裏返し、万年筆をテーブルに置く。他の子息子女は顔料瓶片手にカリカリと集中していた。
万年筆を持つのは俺とミヤとサーシャのみ。
(瓶をひっくり返すと酷い目に遭いそうだな)
試験中のシャルとリーシャは人形ということもあって試験に出ず背後に黙って佇んでいた。
(──人形には見えないから試験官の教師が座りなさいって言って、マフラーを外して示したら驚いていたな。銀髪碧瞳の人形って時点で気づけると思うが王都は人形が少ないのかね?)
すると試験官が何故か俺をジッと見つめていたので視線を移すとサッと視線をそらした。
(終わっているから驚いただけか、ミヤも終わっているから突っ伏しているな。ミヤの場合は別の意味で終わったと思われていそうだけど)
偽装で年相応に変えていても俺とミヤの知力は最大値だ。あまりに簡単過ぎて、あくびが出るのはそれがあるかもしれない。
俺とミヤの解答時間は一時間も掛からない。
残り二時間弱をどう過ごすかが鍵だった。
(とりあえず久しぶりの鑑定で、は?)
暇潰し程度に自分自身を人物鑑定した。
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名前:シュウ・ヴィ・ディライト
家格:ディライト辺境伯家・三男
年齢:五歳
性別:男
職業:人形師/なし
恩恵:成物錬成
害意鑑定
魔導蒐集
技能:読書術、算術、錬金術、剣術
統率術、統治術、複製術、収納術
魔力:無制限(自動偽装:三〇〇〇〇)
体力:三〇〇〇/三〇〇〇
知力:一〇〇/一〇〇(偽装:五)
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するとそこに現れていたのは収納術という技能だった。これってインベントリだよな?
それが技能として生えたのか。
インベントリ内の物品はそのままに別の形で収納庫が出来上がっていた。こちらは純粋に収納と意識したら意識下に空の一覧が出てきた。
今が鑑定中だから視界には出ないようだ。
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婚姻:なし
爵位:なし
装備:貴族衣装
髪色:銀髪/短髪
瞳色:碧瞳/魔眼(蒐集眼)
善悪:善人
成物錬成:有機物、無機物を造り出す
魔導具も造り出せる
害意鑑定:悪意、善意の判別、偽善も可
但し、詳細と思考までは見えない
魔導蒐集:瞬間記憶術(イメージ記憶)
魔力無制限、魔力回復無制限
無詠唱、陰詠唱、詠唱短縮
魔力感知、魔石生成、魔力譲渡
魔力吸収、魔力隠蔽、魔力鑑定
魔法解析、魔陣創作、呪文創作
魔導書庫、魔導鑑定、魔具鑑定
人物鑑定、有機鑑定、無機鑑定
読書術:速読・一度読んだ書物は忘れない
算術:四則演算を暗算で行える
錬金術:無機物の分離合成、製造が行える
剣術:ディライト流剣術/上級
統率術:機械兵や人兵の指揮が可能
統治術:領地運営の必須技能
複製術:魔力の続く限り同じ物を造る
収納術:魔力/一〇に対して百キル収まる
生物は不可、植物・魔物死骸は可
耐性:痛覚耐性(一〇〇/一〇〇)
状態:正常(驚愕)
称号:転生者・月読蒐、人形の産み手
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実質、容量は無制限って事か。
収められる物もインベントリと同じだった。
インベントリ内の物品は基本的に食べ物ばかりだ。試験のあとでいただく昼食とかな。
たちまちは直接移す事が出来るか試すわけにもいかないのでテーブルに置いた万年筆を収納術に片付けた。鑑定内容も偽装状態に戻した。
(インベントリと違ってインクの残量が出てるわ、あとで補充しよ)
というか俺がこれなら母様も同じように生えていそうだよな。ただこれは魔力量が一番に影響するから上限を設けてそうだけど。
直後、隣に座るミヤの口だけが動いた。
(あ、ミヤに見られたか? チートじゃん?)
どうも俺が人物鑑定を行うと同時に見てしまったようだ。ミヤ自身の恩恵と同じだもんな。
こればかりは仕方ないか、チート言うな!
(あとで詠唱呪文を教えるか、サーシャも知りたがっていたし。ただこれも、どの程度で技能として生えるか分からないけどな)
何はともあれ、それからの数時間はミヤのふくれっ面を突きながら暇を潰した。男の子なのにプニプニしてて気持ちいいな、まるで女の子の肌みたいだ。
(撫でるのは無しだ! 場所をわきまえろよ。って、サーシャも頬を突けというのか?)
同じ事をサーシャからも願われた件。
子爵子息と殿下だと扱いが微妙になるな。
例の騎士爵子息が背後から睨んでるし。
試験に落ちたくないなら手を動かせ、手を!
暇潰しでじゃれ合う天才児達。




