第24話 新生活の期待感。
一緒の部屋で寝るようになって三ヶ月──。
最初の内は緊張して寝られなかったよ。
だって、隣に、愛している彼が寝ているんだよ? それも、可愛らしい寝顔で!
身体が出来ていたならすぐにでも跨がって!
ではなくて、三ヶ月は本当に濃密だった。
父様からの干渉は完全に消えたわけではないが、父様への依頼の数々が奥様を介して届けられるようになった。報酬も事前交渉で僕に六割、父様に四割の比率で与えられた。この比率も父様には四割が全額と提示されており、僕には一切入らないとの話になっていた。奥様は僕の魔力を用いて作っている事が重要だと仰有っていた。
作り手を護る王国法。この法律を知らぬ息女を最大限利用した父様への罰となったらしい。
それと六女なのに嫡男と演じさせる事への罰も用意しているとの話だ。
そして本日は入学試験の前日だ。
(この工房には何度となく足を運んだけど、日に日に魔導具の数が増えてない?)
僕達が足を運んだのは奥様の工房の隣、シュウ様に与えられた人形工房だった。実はサーシャ様が滞在する関係で勉強を含めて行うならそこが良いとの話になった。
奥様は奥様で機密情報を扱う仕事をしている関係で子供の出入りを極力避けたらしい。
それでも例外はご子息のシュウ様だけね。
時々、移動しては助言を貰っていたから。
勉強を教えてくれたのはサヤ姉だった。
侍女ではなくシュウ様の兄、次兄嫁の立場で教えてくれた。いつの間にか婚約しててデビュタント後に婚姻したそうだ。
その話を知った僕がコソッと、
『姉様っておっぱいが大きいもんね』
聞いたら胸は関係無いって怒られた。
元々先輩後輩の関係があってそこから付き合いだしたらしい。寄親と寄子以外の関係だね。
取り持ったのは父様ではなく母様らしい。
母様と奥様は主従関係にあったそうだから。
それこそ僕とシュウ様の関係のように。
何はともあれ、過去を思い出す僕の隣でシュウ様とサーシャ様が楽しげに話し合っていた。
目と鼻の先には大人一人が収まるガラス容器が横並びで存在していた。その容器の一つには裸のシャルが浮かんでいて目を閉じて眠っていた。容器の数は全部で七つ。
稼働中は六つ、一つは改良中と書かれた札で封印されていた。
するとサーシャ様が右端の魔導具に近寄り、
「これが例の赤子ですか?」
「表皮が生成されているからもう少しだな」
「この子は女の子なんですね」
「そちらには男の子もいるぞ」
中身を確認していた。
そして僕の顔を見るなり微笑んだ。
「ミヤに何処となく似てますね」
「ミヤには見本になって貰ったからな」
それを聞いた僕は聞いてないと思いつつ叫んだ。
「ぼ、僕が見本なのぉ!?」
するとシュウ様は苦笑しつつも、
「あとで報酬を与えるから我慢してくれ」
口走ったので素直にお願いしてみた。
「あ、頭を撫でてくれるなら、いいよ?」
「それだけでいいのか?」
きょとんをいただいたけど、それでいいんです! 僕にとってのそれは最大級のご褒美だから。シュウ様、ううん、シュウの撫では凄い気持ち良いんだよね、昔を思い出すくらいには。
あとでトイレにゴーだよ、何をするかは言わないけど。その後は順番に容器を見ていく。
黒い胴体の狼が二体、雄と雌の対で用意しているとの事だ。ハスキー犬かな?
そうしてシャルの容器に近づき、
「シャルの定期検査もあと少しで終わりだ」
「本当に育ちましたね、私より大きいです」
ホントに大きいよね、六歳児との扱いだけどAはあると思う。AAAからAAののちに育った感じがする。僕はAAAだけど。断崖絶壁とか言われている大きさだね、無いに等しいね!
サーシャ様もAAだから僕からしたら大きい方だよ? ホント、羨ましいなぁもう!
なので話題を胸から髪に変えた僕。
「髪が伸びて可愛くなったよね」
「今、嬉しそうに微笑みましたね?」
「本人には声は聞こえているからな」
寝ているわけではないんだ。
人形なのに感情表現が豊かだよね。
それこそ人形とは思えないよ。
その間のシュウ様は真剣な表情で魔導具のガラス板を見つめていた。そこには各種ステータスが記されていて、鑑定機能やら設定機能という文字列が見えた。僕でも触れそうだな。
聞けば僕なら可能だとか言われたけど。
これって完全に僕を魅夜として認識してくれているって事だよね?
(それを知ると凄い嬉しいかも!)
経緯はどうであれ前世の関係に戻れる可能性を見いだせた僕は、楽しい気分のまま椅子に座って待っていた。クッションとブランケットをサーシャ様にも手渡しながら。
「凄い柔らかいですね」
「お気に入りなんですよ」
「この布も暖かいですね」
「寒さ避けには丁度良いでしょ」
その間のシュウ様は僕達の会話を聞き流しつつも設定画面を開いて何かしていた。遠目からはよく分からないけど、ボコボコと水音が響いたので排水している事だけは理解出来た。
しばらく待つとガラス蓋が開き、
「見た目は銀髪碧瞳のミヤだな」
「ミヤを女の子寄りにした感じ?」
シュウ様とサーシャ様が覗き込んでいた。
サーシャ様は気づきながらも微笑んだけど。
(僕は元々女の子ですっ!)
今は言えないので引きつりつつも応じた。
「そ、そうだね」
「何で引きつっているんだ?」
「な、なんでもないよ」
「名はリーシャ、サーシャ呼んでやってくれ」
「ええ、リーシャ目覚めなさい」
サーシャ様が緊張した面持ちで名前を呼ぶとリーシャと名付けられた人形が身じろぎして瞼を開く。髪型は僕に似せたベリーショートだ。
ただ、
「ん、んん、姉様?」
声を聞いて凄い懐かしい気持ちになった。
二人の会話は聞こえず、ボソッと呟いた。
「こ、この声」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
シュウ様の横顔を見れば、してやったり的な笑顔だった。やっぱり僕だって気づいてる!!
「見慣れていても黙って回れ右しような」
気づいているがこの言葉はどの意味なの?
自分の裸体としてか、男の子としてか。
「う、うん」
言われるがまま回れ右した僕だった。
身体の詳細は僕とは少し違うけどね。
何がとは言わないけど、何がとは。
サーシャ様は気づいておいでなのか微笑みながら準備を始めていた。
「ふふっ、私は下着を穿かせてきますね」
唯一、僕を女の子として見てくれているのがサーシャ様だけだもんね。お風呂も共に入ったり、シャルも僕が女の子だって知っているし。
兄様に黙っておきますとまで言われたけど。
うん、今は言えないんだよね、今は。
§
そして翌日──。
僕は初めての王都を訪れた。
そこは田舎の領都とは異なり、石畳が敷かれたベネチアのような見た目の水上都市だった。
いや、海が目と鼻の先って凄いね。
僕達の領地は北の外れ、北部に住まうからか、こちらの冬は温かみが感じられるほどだ。
半袖でもいいくらいな気候だよ。
サーシャ様だけは厚手のコートを着ているけど、僕とシュウ様は完全に薄着だった。
ただね、
「「うっぷ」」
「大丈夫ですか? 二人とも」
馬車に乗るとまたも酔ったよ。
デビュタントでも乗ったけど、ダメ、酔う。
乗り物に弱いのは生まれ変わっても残っていたらしい。特にこのガタガタ感、揺れるなんてものじゃないね。景色を見る余裕すらないよ。
しばらくすると少し楽になってきた。
「あ、楽になってきた」
「背中さすってやるよ」
「う、うん。優しくね」
「それ以外に何があるんだ?」
「ふふっ、仲がおよろしいですね」
前世からの付き合いがあるからね。
生まれ変わっても優しいね、シュウは。
ヒロイン視点で見てみた。




