第22話 お披露目会の大騒動。
デビュタントパーティーが始まった。
僕はドレスではなく男の子として列席した。
殿下と目が合うと心中お察ししますというような反応を示されたけどね。
(分かって下さるのは殿下だけだよぉ!)
子息とも挨拶したけど背後に佇む女の子に意識を持っていかれた。
顔立ちは子息と同じで双子かと思った。でも人形なんだよね、紹介時にビックリしたよ。
殿下も隣から様子見していたが、紹介された直後から上へ下へと視線が行き来していた。
人形には見えないよ? それこそ本当の妹さんかと思うようなやりとりを行っていたし。
それでも人形なんだよね、首のチョーカーは人形である事を示すための物だから。
人には着けられないチョーカー。
嫌でも人形だと示される。
僕は意識をシャルから彼に戻して思案する。
(彼の面影は無いよね。名前からして同じだし称号欄には彼の名が記されていたし)
それは歳を重ねる事で見えてきた名称だ。
「初めまして、ディナイト子爵家が長子、ミヤ・ヴィ・ディナイトと申します。よろしくお願いします」
「よ、よろしく」
子息も僕を見るなり信じられない者を見たという反応を一瞬だけ示した。ということは同じ恩恵を得ているはずなんだけど、どう見ても偽装されているんだよね。同系統って事かな?
(でも男に生まれたから安堵している風にも見えるかな。性別を含めて男と偽ったけど)
何故それをしたかって?
これは父様の面子なんだって。
本当にいらん事を願うよね。
息女とすると立つ瀬が無いって意味で先日の行いの罰とか言っていた。
罰って自業自得じゃん。それを僕のせいにされたのだからやりきれないよ、ホント。
六女を長男とする、弟の身代わり的な扱いをされたから、どうしようもない。
(戸籍もどうせ偽ってるんだろうな、きっと)
胸が育ったら隠せないけど、そうなったらそうなったで責任を取ってくれるでしょう。
殿下も察してくれたので、
「領主の罰は追々と致しましょう。弟君の未来に影響が起きないよう、計らっておきますね」
「ありがとう存じます」
簡単な自己紹介の後に指向性魔法で案じてくれた。その代わり、本校への入学を許可されたから仕方なしで諦めた。入学資金などは僕がせっせと作った黄銅の報酬から出す事になった。
これは使者を介した殿下との約束だね。
資金不足云々で言い逃れしようとして、そこにある品物の報酬で賄えると返されればぐうの音も出ないだろう、あの時ほど滑稽と思った事はない。その罰が男の子なんだから辛いものがあるけども。寮の自室では女の子としてもいいよね? 共同生活の男子寮に放り込まれたら出来なくなりそうだけど。
何はともあれ、僕の願った愛した彼が目前に居た事で僕の中の激情は再燃した。
夜這いは身体が出来てないから無理だけど。
(ん? シャルの胸元にあるのは、まさか)
五歳児なのに胸が膨らんでるぅ!?
シリコンブラまで装着してるしぃ!
まさか人形だから作ったのかな?
そうなると平面の僕に立つ瀬がないかも。今日から豊胸体操を行わないと!
§
そんな挨拶はともかく──。
僕達の驚きはその後に続いた。
「え? 食事をいただいている?」
本来の人形は体内にある魔石で稼働し、魔石が無くなると胸を開いて交換するのだがシャルは上品な素振りで料理を召し上がっていた。
今回が立食パーティーだから気づく者は気づくし、気づかない者は気づかない。
僕も殿下の隣でシャルの様子を眺めた。
すると殿下が心配そうに問いかけた。
「食べても大丈夫なのですか?」
「問題ありません」
「シャルは特別製なんだよ、ここだけの話」
問われたシャルは平然と応じ、シュウ様が指向性魔法と遮音魔法で周囲を覆い、シャルの内に宿る仕様を明かしてくれた。僕も本当なら無関係なのだけど殿下が友達と伝えてくれたお陰で関係者の立場に収まった。
「それって伯母上が依頼していた?」
「そうなるかな、第一号がシャルだから今後の人形は同一となるはずだ」
「それは革新的ですね!」
殿下も信じられない様子だった。
僕は聞かされていない内容だから聞き流していたけどね。秘匿情報そのものとあって聞こえないフリで黙認されたともいう。
だが、その後の話だけは反応してしまった。
「試験的に赤子からっていう話も出ているし」
「「赤子?」」
赤子とする理由が分からない。
普通の人形とすると侍女とか騎士とするけど赤子ってどういう意味なの?
殿下もきょとんとしているよ。
「シャルの胸を見たら分かる」
「兄様、その例えはどうなのですか?」
「いや、生まれた直後はミヤと大差ない断崖絶壁だったぞ」
グサッ刺さったよ、言葉の刃がグサッとね。
しくしく、おっぱいを絶対大きくするよ!
殿下はシャルに近づいて、自身と見比べる。
「だ、断崖絶壁から?」
「凝視されるのは恥ずかしいです」
「失礼、ということは?」
「サーシャの考えている通りってこと」
殿下は何かに気づいたらしい。
人形師同士だからか楽しそうな雰囲気だね。
「成長限界値は?」
「それはまだ未知数だ」
「魔力残量は?」
「魔石の許容量によるから明確にどうとは言えないな。残量が三割を切ると空腹状態になって一割では呼吸のみで魔力を得る事になる。消化に使う魔力が無くなるからな」
「自給自足が可能ということですか」
「兵站が必要な特殊兵だけな。これ自体は」
「ですね、人との違いを無くす事に意味がありますから」
「シャル、花摘みには行けよ?」
「兄様は慎みを持って下さい!」
人形師同士で意味深な会話を続ける。
シャルは憤然とした表情でお肉をいただく。
「そちらも可能ですか」
「可能なんだな、子は成せないが」
「そこまでですか」
「力の制限を外すと従来の人形並だしな」
「はわぁ〜」
その間の僕は二人の会話について行けず周囲に視線を向けた。会話が聞こえないためか、近くに寄って聞き耳を立てる者が多数だった。
今は殿下が大興奮にも似た雰囲気を宿しているからね。どのような話か気になるのだろう。
一番近いところには挨拶のあとにすっ転んだ騎士爵子息も居て、ぐぬぬとシュウ様を睨んでいた。身分不相応って言葉を投げかけたいね。
その直後、
「決めました、入学までの期間、私もこの領で過ごします!」
殿下が驚くような一言を宣った。
それを聞いたシュウ様は訝しげに問う。
「過ごす許可は?」
「すぐに取ります、元々伯母上からの指導話もありましたので、簡単に取れるでしょう」
「母様の指導、ね」
シュウ様は諦観の面持ちに代わり、魔法を解除したのち、サヤ姉を手招きで呼んでいた。
殿下は何からの魔導具で連絡を入れていた。
「シュウ様、何か御用ですか?」
「サーシャの部屋を」
「承知致しました」
本日のサヤ姉は青いドレス姿だった。
大きな胸元がハッキリと見えて谷間が出来ていた。サヤ姉までシリコンブラを着けてるぅ!
付いてきた奥様も赤いドレスで着けてるぅ!
「迎賓館ではなくシュウと同じ部屋でね」
「奥様、本当によろしいので?」
「元々、そういう話だもの。それと」
斬新なデザインのドレス、おそらく奥様が造り出したものなのだろう。すぐに用意出来る物ではない、サヤ姉の持つ美しさを表現したデザインだったから。
すると驚く僕を見つめる奥様が、
「この子も一緒にお願いしようかしら」
「ミヤまでですか?」
「ディンの被害者だもの、成人するまでは護ってあげないとね」
「ああ、父様の」
何かに気づきサヤ姉も困り顔で頷いていた。
悪癖で理解出来るってどういう事なの?
オチは悪癖領主に持って行かれた。




