第20話 新たなる交流会。
王女殿下が工房を訪れたあと──。
事情を聞いてみると銀板を施した者が気になって様子見に来たとの話だった。父様が出来ないと言ったから、工房に向かう時に追跡してこの部屋に現れたと。
そうして僕の事情を知った王女殿下は、
「父親に利用されるって可哀想です」
「運命として受け入れているけどね」
哀しそうな顔で僕を同情した。
嘘偽りない事は人物鑑定で分かったけどね。
純粋な善人だし、国を良くしようって考えを持つ人物でもあった。職業は人形師だからか僕よりも出来る人ではあったけど。
(王家って人形師になる人が多いのかな?)
この国は魔法と機械文明で成り立っている。
その文明のほとんどは人形師に委ねられているといっても過言ではない。人形以外の魔導具を作るのも人形師がほとんどだしね。
錬成師はあくまで人形師の補助要員だから主役になる事はないのだ。
「その運命っていつまで続くのですか?」
「父様のみぞ知る、かな? 学校に行く事になったら多少は変わると思うけど」
「学校、となると分校の方ですか?」
「多分そうなるかな?」
「それだと続きそうですね」
「その可能性は高いね」
実家に居ながら分校に通う、学んできて疲れながらも残り仕事を行う、それこそ実家がブラック過ぎて僕が過労死しそうな、そんな感じ。
そのほとんどは僕の自業自得だけどね。
パンケーキといい黄銅といい銀板といい。
下着もノーパンが嫌だったから作ったし。
それが巡り巡って家の資産とされ、
(都合の良い人材で利用されている、と)
改めて考えると哀しい事実だね。
僕が辛そうな表情を取ると王女殿下は思案しつつブツブツと呟いた。
「それは領主としてダメですね。自分の公務なら自分で片付けないと、娘といっても嫁げば他家ですし、いつまでも利用は出来ませんから」
本気で僕の事を考えてくれてるのかな?
真剣な表情の為政者の顔になっていた。
五歳でこの風格、家格が違うだけでこんなに差が出るんだねぇ。騎士爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵・辺境伯爵、大公爵、王家。
この国の爵位で上に立つ者と下から数えて四番目の家格では違いなんて明確過ぎるけど。
王女殿下のブツブツはしばらく続き、
「それでしたら本校に通いませんか?」
一呼吸を置いて真剣な顔で提案してきた。
本校って、あの全寮制のエリート校?
母様とサヤ姉だけが一貫して通ったという。
僕はどう反応して良いか分からずきょとんとした。
「え?」
「現段階で功績を持つなら十分に資格はあると思いますよ?」
「功績っていっても、重曹と黄銅だよ?」
「献上して下さった下着も含みますよね?」
「そうなる、かな?」
パンツの件はお試しでドロワーズとパニエを作って僕が穿かせたのだ。王女殿下も当たり前にノーパンでした。パニエを穿いたからドレスがふっくらとしてボリューミーになったけど。
そのうえ白いストッキングも穿かせたので綺麗なおみ足がお目見えしたともいう。
五歳児が穿くような物でもないけどね。
「でしたら問題は無いでしょう。上に着ている下着も気になりますが」
「ああ、キャミソールの事ね。汗で服が汚れないようにする下着だよ」
僕はそう言ってセーラー服の上着を脱いだ。
この工房は暖房魔法がかかっているから無駄に暑いんだよね。廊下に出ると極端な温度差があるから風邪引き注意だけど。
「こんな感じでキャミソールが汗を吸ってくれて」
「こちらの服は濡れてませんね」
キャミソールを見た王女殿下は興味津々だ。
そのうえで別の下着も提示する。
「胸が育つと別の下着を着る事になるけどね。今は大きくないから僕は持ってないけど」
「その下着も気になりますね」
「それなら試しに、これを前に着けるの」
試しに一つ作ってみた。
前世で着けていたお気に入りの紫下着だ。
大きいので今は着けられないけど。
王女殿下は下着を受け取ってうっとりした。
「綺麗な装飾ですね」
「見た目も華やかってね。これは胸の形を維持するための下着で先が痛くなる事もないの、寝るときは流石に外さないと苦しいけどね」
「経験がおありなのですか?」
「着けてる姉様がそう言ってたから」
「そうなのですね」
ナヤ姉が着けっぱなしで寝て感想を漏らしたからね。着けっぱなしはダメって注意したし。
ドレス用だけはまだ提示してないけどね。
これも社交シーズンになったら示してみてもいいかもね、既に数回ほど社交シーズンを素通りしているけど、王都ではまだ拡がっていない下着文化だから問題は無いと思う。
そんなこんなで談話時間は進んでいき僕と王女殿下は友達になった。
直後、使者と父様が工房に顔を出した。
「「殿下!?」」
「あら、ようやく迎えに来たのね」
「探しましたぞ」
「気配隠蔽してましたから」
「その技能を悪用しないでいただきたい」
「悪用というほどでもないでしょう?」
対してあっけらかんな王女殿下。
奥様とやっぱり似てるよねぇ。
僕も気配隠蔽してたから気づかれなかった。
しかも技能練度が上がったからか、物音があっても気づかれなくなったしね。
すると父様が僕に気づき、
「失礼な事はしてないだろうな!」
「してません」
「本当だろうな?」
一方的に怒鳴ってきた。
なので作った物に指を指してジト目で睨む。
「実の娘を信用しないんですか?」
「うっ」
やることはやっていると示すとぐうの音も出ない父様になった。やってなかったら平然と叩くくらいはやるもんね。利になると分かるとケロッと甘くなるけど基本は冷淡だもんね?
外面だけいいから温厚なフリをしてるけど。
すると王女殿下が間髪いれず、
「それはそうと王都で楽しみに待っておりますね。王立初等学校の本校で」
「殿下、数日後もお会いしますよ?」
「そうでしたわね。ですがミヤ様が本校に通う事は決定事項です。覆る事は一切ありません」
父様の前でニコニコと先制口撃した。
僕も先制口撃に加担したけれど。
「ほ、本校!?」
「殿下、それはどういう事ですかな?」
「どういう事と仰有いましても、そこにある品々で判断したらどうかしら?」
「品々ですか? ん、この膨大な量の金塊は」
「それは金ではないですよ」
「金ではない?」
「黄銅という物らしいですよ。財務大臣が指示している黄貨の原料ですね」
「これが、あの!? あと、麻袋に付与されている魔法は!?」
おや、気づける人だったんだ。
殿下もこれにはきょとんだね。
僕は使者の反応をよそに明かしてあげた。
「中身が湿気を嫌う物だから除湿魔法を付与しました。小麦粉などでも使える魔法ですね」
「除湿魔法、あの失伝魔法が使えると?」
「普通に使えますけど?」
父様は呆然と口を動かしたままだ。
本当の事を隠していたのかな?
銀板の段階でバレると思うよ。
除湿魔法も書庫に魔法書があったからね。
父様にとっては宝の持ち腐れだったけど。
「それで中身は?」
「パンケーキのもちもち感を出す材料ですね」
「「パンケーキ!? あ、あの!?」」
王女殿下と使者が揃って驚いた。
ファンがここにも居たって感じで、
「ええ、僕が考えたレシピが元ですし」
僕がそう伝えると、父様は抜き足差し足とでもいうように工房から出て行こうとした。
すると使者が厳しい目になり呼び止める。
「ディン殿?」
「は、はい!」
「先ほどの自慢話、虚偽があったようですな」
「あ、あの、その、はい、すみませんでした」
あらら、欲が出て自分が考えた的な事を吹聴していたのね。幼子が考えた事は恥になると思っていたんだね、出来ない父様の恥だけど。
王女殿下と意気投合か。




