第18話 お披露目前の急接近。
下着を売り出して二年の月日が流れた──。
ナヤ姉は事業に成功した翌年に家を出た。
長女が家を出るとは何事かと思うだろうが、下着事業が開始した数日後に弟が生まれたのだ。この家を継ぐ嫡男が生まれた、僕も男の子役を卒業出来る事に喜んだ。
うん、喜んだんだけど、ダメだった。
「ミヤはそのままで居て!」
ナヤ姉を含む姉達から男子の姿を望まれた。
心までは男子になるつもりは無いと返したら、そこまでは誰も望んでいなかった。
(見た目さえ男の子ならいいんかい!?)
悪態をついたところでデビュタントではドレスを着る事になるだろう、と思っていた。
「やっぱり赤が似合うわね」
「母様、青も捨てがたいよ」
「青はサヤの色だからダメよ」
「なら白も合うよね?」
「この黄色はどう?」
「そうね。黄色も着せてみましょうか」
領都にある仕立屋、貴族服を扱う仕立屋が訪れたのだけど、ナヤ姉とサヤ姉を除く姉達と母様が僕を相手に着せ替えを繰り返していた。
幸い、パンツとキャミソールは着ている。
女の子の素肌を仕立屋には見せていない。
(だが、それだけだ──しくしく)
ドレスと思ったけど僕が着せられているのは男性物の貴族服の軍服仕様。
(似合うとか似合わないとかよりも女の子にそれは無いよぉ──しくしく)
着せ替え中の僕は無表情を貫き、心では泣いていた。
僕がこの家に居る以上はドレスを着る機会は無いのかもしれない。
そしておそらく、
(学校の制服も男物がきそうな予感がするよ)
願わくば、胸が育つ事を待つばかりなり。
姉の体型を見る限り、ナヤ姉とサヤ姉はそこそこの体型をしている。黄色の服を持つカヤ姉がギリでBという感じ。白い服を持つマヤ姉は成長期に入っているのに幼児体型だった。
ムヤ姉は以下略、すぐ上の姉にこの仕打ち。
(これを見ると長女と次女だけに養分を吸われているのでは?)
って思うよね、妹達が平面に近いと。
せめて前世と同じFカップに育って欲しいけど叶わぬ夢で終わりそうだな。
そんな無表情と悲しみに暮れる僕と大騒ぎの家族の光景は延々と続いた。
§
着せ替え人形を終えた夜──。
僕は父様の工房へと訪れる。
ここ最近の僕は錬成師の手伝いを頻繁に行っていた。それこそ、母様の代わりにあれこれ作る事が多かった。母様は初めての男の子とあってか公務より子育てを優先していた。
僕が訪れた理由は「残り仕事を頼む」と魔力不足に陥った父様に願われたから。
「魔力は一〇〇〇にまで増えたけど行うのは毎度の重曹と黄銅の製造なんだよね」
行う事は至って地味。以前作った重曹は領都だけでなく王都にまで販路が拡大し、需要に供給が追いついていないのが現状だった。
「先ずは重曹を百キルか。何処に入れるつもりだろう、あの麻袋かな。湿気対策が出来なさそうだから除湿魔法を施しておくか」
黄銅は石貨に代わる新金属として仕事が舞い込む事になった。こちらは王宮からの依頼だね。新貨幣は黄銅から取った〈黄貨〉と名付けられ、今は王宮内の鍛冶職人達が鋳造している最中だという。
「次は魔力回復薬を飲んで、うっぷ。貴族令嬢がゲップとかするものじゃないね」
どちらも父様の名前で依頼が殺到し、領内の視察よりもこちらに優先権が割り当てられるに至っている。嬉しい悲鳴というやつだろうか?
本来なら僕の名前で売りに出す代物なんだけどね。下着といい重曹といい、これまでに作った品々は家族に使われる始末となっている。
「次いで黄銅のインゴットを十トルって床が抜けないかな。一応、石畳だから大丈夫かな、仮に割れたら報酬で賄えるからいいか」
幼子が見つけた、幼子が作ったとは誰もが隠す事案だ。唯一の例外は下着について辺境伯の奥様が認めて下さっている事だろうか?
サヤ姉曰く『シュウ様も似たり寄ったりな事をしてますね』と、苦笑しつつ教えてくれた。
サヤ姉の左太股の折りたたみ長剣と万年筆っぽい杖を見た時は唖然としたし。
それを知っているからこそ奥様とサヤ姉だけは僕の味方で居てくれた。他の家族はそうでもないのにね、理解ある家族が羨ましいよ。
と、嘆けばサヤ姉が『御当主様からは反発されてますけどね』と、コソッと教えてくれた。
(反発とはどういう意味の反発だろう?)
詳しくは聞けなかったがシュウ様はシュウ様で大変なのだなっと思う僕だった。仮に僕の大好きな彼ならば僕は味方になるけどね!
という独り言と独白の最中、
「ミヤに新しい仕事だ! 次のデビュタントにサーシャ殿下が来訪されるとの事だから例の銀板を百枚用意してくれ!」
僕がげっそりするような依頼が舞い込んだ。
嬉々とする父様との対比は理解が容易い。
(銀板を用意するのは構わないけど、念写魔法は冗談抜きで魔力を食うのだけど?)
という僕の不安を無視するように父様は言うだけ言って執務室に戻っていった。
おそらく王都から使者が訪れたのだろう。
例の銀板も離縁した元旦那の証拠品が王都に流れて依頼が入ったと理解出来る。
王女殿下の来訪って聞けば尚更ね。
それなら父様にやって欲しいけど無理なんだよな。属人化が怖いって思うよ。
出来なければって条件が示されていないのは陛下からの勅命って事だろうから。
「誰か魔導具で作ってぇ!」
僕が一人で嘆いたところで話は解決しない。
しくしくと魔力回復薬でお腹をタプタプさせながら黄銅と銀板を作り続ける僕だった。
これはさながら前世の罰を償っているかのような仕打ちだね。分かっていたけど結構辛い。
「結構辛いけど、気晴らししてもいいよね!」
僕はそう叫びつつ、誰も居ない工房で下着姿になり、新たに作った洋服に袖を通した。
下は黒ストッキングとプリーツスカート。
上は懐かしの白いセーラー服だ。
鏡魔法で姿見を作った僕は、
(今が金髪碧瞳だから別の意味で映えるよね)
ストレス解消として自身の姿に見惚れた。
女の子の格好くらいさせてもらってもバチは当たらないと思うんだ!
という一人コスプレ大会をやっていると廊下でコソコソしている誰かと目が合った。
「「あ」」
そこに居たのは銀髪碧瞳の美しいドレス姿のお嬢様だった。見た目的に辺境伯の奥様と似通った雰囲気がする。それと頭にあるティアラ。
「まさかとは思うけど、王女殿下?」
それを問うとビクッと反応された件。
王女殿下に恥ずかしい姿を見られた感覚は流石に無いけど、廊下に居る事が不可解だった。
王女殿下は廊下から顔を出し、
「は、初めまして、サーシャ・リィ・オルトン第二王女と申します」
カーテシーでのご挨拶を行った。
僕も黙ったままは失礼と思い、スカート姿だった事もあって同じく返礼を行った。
「こちらこそ初めまして、ディナイト子爵家が六女、ミヤ・リィ・ディナイトと申します」
返礼を行ったのだけど、何故かきょとんをいただいた。
「ろ、六女? 男性では無かったのですか?」
「この姿で男に見えます?」
「女性の服を着ている男性」
この一言にはカチンときたよね。
立場上、王家に酷い事は出来ないから我慢するけど、男の子と思われるのは気分の良いものではない。だから証拠としてスカートを捲ったのちパンツを脱いだ。
はしたないのは同性には関係ないもん!
「僕は女の子です! ほら」
「ホ、ホントだわ、というかこの生地は?」
でも近くで凝視されるのは恥ずかしいです。
「下着ですけど、こちらはストッキング」
「スカートが捲れても見えないのですね」
僕はパンツを持ち上げながら説明した。
下着文化は王都には訪れてないのね。
第一次接近警報?




