第17話 お披露目の準備開始、
あれから二年の月日が流れた──。
俺は五歳の誕生日を数日後に迎える。
ただ、その誕生日が一番厄介なんだよな。
それは同年代の子息子女が城へと集まると聞いたからだ。俗に言うデビュタントって奴だ。
しかも誕生日の早い者も遅い者もその日にお披露目するとの事で全員が初めての顔合わせとなる。今世では人見知りするような性格ではないが、やはり緊張するよな。
大勢の前で失態なんて絶対出来ないから。
なお、母様は失態しても良いと言い、父様は失態するなと言う。どないせいっちゅーねん。
そして今は貴族服を見繕ってもらっている。
(裸待機って、まさに着せ替え人形の気分だ)
すると見繕ってもらっている洋服の中に見覚えのある代物が混じっていた。
(これってトランクスだよな。何であるんだ)
それはナイロン地のシルク生地だった。
作りもしっかりしていて肌触りが良かった。
ただな、ナイロン地はあまり好みではないんだよな。俺は作り手に申し訳ないと思いつつトランクスを右手に取り、魔具鑑定を行使した。
(先ずは形状把握からの、シルク地を成物錬成、色は白でいいな、自動伸縮も付与っと)
右手の中にあるのは白いだけのトランクス。
それをインベントリ内で作成して複製術を行使した。予備として作った白いトランクス。
トランクスは成長後も穿ける代物とした。
(ノーパンよりはいいか。今のうちに穿いておこうかな、ズボンの収まりもよくなるし)
その間の母様は楽しそうに上着を選び、サヤがニコニコと預かっていた。二人とも楽しそうだな。着せ替え人形の半裸待機はキツいけど。
しばらく待つとサヤがきょとんと反応した。
「あら? シュウ様、その下着は?」
おっと、作った物と気づかれたか?
俺はとっさの判断で言い訳した。
「そこにある物を穿いたけど?」
「いえ、一人で穿けたのですね」
そっちかい!?
なんだ、穿けないものと思っていたのか。
「ズボンと同じ形をしていたからね」
「ああ、そういう事でしたか」
その言い訳でサヤは納得していた。
たまたま形状が似ていただけで言い訳が通るってすげぇわ。穿けるのは前世の知識あっての事だけどな、生地が俺の好みでは無かったけど。
すると母様が笑顔でスカートを捲り、
「これいいわね〜。サヤの妹の考案でしょ」
派手な赤い下着を晒していた。
サヤもスカートを持ち上げて青い下着をチラッと見せた。白い太股には例の剣帯もあった。
「ですね、私も人前で抜剣する時にコソコソしなくて助かりました。以前なら見えて恥ずかしい思いをしてましたけど」
「良い物を作ってくれたわね」
「自慢の妹です」
へぇ〜、下着の考案者はサヤの妹なのか。
そういえばサヤが抜剣する時に見えていた事があったな。腰に巻いてって言ったけど侍女服の邪魔になるからって太股に巻いていたから。
ただ、サヤの持つ剣があまりに特殊過ぎたから父様が何処で買ったとか騒いでたな。母様の持つチタン杖の件をサヤも知っていたので、贈り物という扱いで誤魔化していたけれど。
でも、サヤの妹のお陰で俺の精神衛生が護られたなら感謝するしかないか。今度会うことになるし、きちんとお礼はしておこう。
何はともあれ、その間も着せ替えは続く。
「やっぱり黒が似合うわね」
「そうですね、奥様」
銀髪だから黒って安直だけど似合うのは確かかもしれない。俺の好きな色だしな。
結果、貴族服は軍服にも似た代物になった。
実際に戦地なり王宮なりに登る時は着る事になるからな。成長の度に作り替えるのはやりきれないが、給金を仕立屋に払う必要があるので早々に諦めた俺である。
§
その夜──。
俺は母様の工房へと一人で訪れた。
それは誕生日にて行われる別の意味でのお披露目に即した物を用意する事になったからだ。
母様もデビュタントの折、同じ事をしたとの話だ。父様は母様が天才だったから可能だったとか俺には無理だとか言っていたが、母様から睨まれて渋々頷いていた。結果は見てのお楽しみって意味でプレッシャーがハンパない。
そういう理由により俺は一人で、
「同年代の召使い、か」
テーブルの植物紙と睨めっこをしている。
身長は俺より低め、戦闘能力は必須、貴族の子弟に侮られない容姿が求められる。
「顔立ちはともかく、先ずは身体からだな」
同年代の召使いの人形を用意する。
人形作りは様々なパターンが存在し、球体関節を筆頭とし、身体を構成する材料によって変化するという。
俺も定期的に母様の手伝いをしていたが、母様の作る人形はどれも人造兵であり、人の姿を完全に模していた。例外があるとすれば食事を必要としない辺りだろうか。
母様もそれを作るのに王宮に出張っては研究依頼を行っているという。進捗は芳しくないとの話だけどな、早々に出来たら苦労はない。
「母様の息子として恥じない物を作るなら」
骨格は完全に人を模した方が良いだろう。
母様の作る人体構造は簡略化されているから、俺は精密化していく事にした。
(イメージするのは骨格標本、それを子供よりに変化させて、骨格の金属はオリハルコンとミスリルの合金で硬くてしなやかな骨に)
すると俺の目の前に金色の骸骨が現れた。
「こうやって見ると迫力があるな」
背丈は低く顔立ちは俺の女顔を更に進化させた感じだ、双子かって思うほどに。
そして思考魔核という脳核を頭蓋内に収め、ミスリル神経を目と鼻、口と耳、ミスリル神経の束を首から背骨へと通す。
「次は臓器だな。魔力吸収魔法を人工小腸と人工肺に付与するか。食物と空気から魔力を補うなら問題は無いしな。滓の処理も人と同様に」
先ずは消化器系を優先して腹膜結界を骨盤と肋骨の間に張っていく。人工生殖器は不要と思ったが「付けなさい」と母様に言われたので一応付けておいた。需要があるか知らんけど。
その上に該当臓器を収めていく。
これも素手で触るのではなく浮遊魔法で誘導して押し込めていく感じだ。流石に小腸を収める時は手間取ったがな、油断するとボロッと出てくるから。背後には人工腎臓をあてがい膀胱の尿管と結合した。血管などは俺が作った魔導具が全て生成するので、今は放置だ。
肝心の人工心臓とか肺の設置がまだだしな。
「次に口までの経路を確保して胸膜結界で覆った気管と結合する。声帯の声音はどうするかな、サヤの声をいじるか? 五臓五腑の忘れ物は無いな」
次に取り付けるのは眼球だ。眼球は碧瞳を望まれたのでそれを選択してミスリル神経と結合した。一応、望遠と広角で視認出来る特製レンズを収めておいた。
倍率は異世界のカメラと同等、解像度の概念がこの世界には無いが、ぼやけない程度の物が無難だろう。眼鏡を掛けさせるのもアリか?
最後に魔力体液が通る血管やらリンパ管、ミスリル神経が正しく結合するように促す体組織生成魔導具に放り込めば完了だ。
「体組織液の注入を開始」
今はまだ人工臓器が剥き出し状態の形だけの人形だ。頭蓋内にある思考魔核の各種設定やら調整もこの魔導具で行うので、人工心臓に取り付けた魔石が上手く機能する事を願うばかりである。それと体組織液は人体の体液を模した液体で魔力的に働きかければ各種組織を作り出す特殊溶液である。
(設定上、骨と思考魔核さえ入れたら全て生成出来るけど、それをすると人形ではないよな)
この魔導具に入れるまでの作り方は母様と同じだ。だが、この魔導具は俺個人が好んで用意した代物なので母様も知らない。
だから知ったら最後、使いたがると思う。
自重を知らない人形師。




