その1「小早川碧衣は胸騒ぎが止まらない」
お待たせしました!『学園戦兎トリプルバニー!』第2話の更新をスタートします!
学園を舞台に繰り広げられるちょっと「アレ」な(笑)バニーバトルラブコメ☆
第2話からは残りの2人も登場し、ますます賑やかになりますから、楽しみにしてもらえればと思いマス。もちろん合同制作者であるタマネギーニョさんのイラストも☆
それでは第2話、はじまりはじまり~♪
第2話「ようこそ、みんなの『宿坊』へ! ドッキドキの歓迎会☆」
その1「小早川碧衣は胸騒ぎが止まらない」
--時はバニーレッドが怪異アラクネーを撃破したその少し後、場所はそこから少し離れた三ツ矢学園サッカーグラウンド。
シュバッ! シュバシュバシュバッ!
広々としたグラウンドの各所で閃光が走り、子どもぐらいの大きさの「影」が、閃く苦無の鋭利な刃に切り裂かれては消えていく!
(……これで10体目。残るは--)
月光に煌めく苦無を両手に、鋭く周囲を見回す青いバニースーツ姿の少女。長い黒髪に面長な顔立ちという純和風な美貌にふさわしい、涼やかな印象の切れ長の目に、あっという間に仲間たちを倒された「影」--『なりそこない』があたふたと逃げだす姿が映る。
(逃がしはしない。だって私はこんな任務、とっとと片付けて--)
瞬間、地面を蹴った少女の身体が尋常では無いスピードに加速し、10mはあった『なりそこない』との距離を一瞬にしてゼロにする!
(一刻も早く、あかりのところに戻るのだから!)
バシュッ! 悲鳴を上げる間すら与えず、一閃された右の苦無が『なりそこない』の頭部を刎ね飛ばす! これで11体。まるで試合でも挑むかのごとく、練習中の女子サッカー部員たちに襲いかかった『なりそこない』達は、これで全員仕留め終えた--
だがそのとき、不意に背後から怒りに満ちた声がした!
--おのれぇぇ! よくも俺が手塩にかけて育てた選手たちをっっ!
(--ッ!? しまった、もう一体! しかもこの感じ--他の連中より実体化が進んでいる!)
背後に出現した巨大な《妖気》に、ゾクリと冷たいものを感じた少女が振り返ろうとした--まさにそのとき!
「ハーイ♪ これでおしまいデース☆」
ドゴオオオオオーーーン!! 青バニーの少女に背後から襲いかかろうとしていた「影」を、更にその背後から振り下ろされた「鈍器」の一撃が勢い良く叩き潰す!
--くそぉぉ……サッカーJKたちと楽しく試合する俺たちの夢が……あと一歩のところでぇぇぇ……!!
原型を留めぬほどに粉砕されては、とてもこの世界に止まれない。恐らくは「監督」設定だったのだろう妖しい「影」は、欲望剥き出しの呪詛の言葉を吐きながら、「選手」たちに続いて消滅した。
その後に、大きな「杵」を振り下ろした黄色いバニースーツ&白燕尾服姿の少女を残して--
「サンキュー、キイロ。助かったわ」
危ういところを援護された青バニーの少女--小早川碧衣がお礼を言うと、ふわっとした金髪と豊かな胸元が特徴的なその少女は、よいしょ♪と杵を背中に担ぎながらノンノンとばかりに指を振る。
「『キイロ』じゃ無いデース、変身してる時は『イエロー』って呼んで欲しいデスね~」
「……私たちだけの時まで、そのこだわりいる?」
碧衣(彼女に言わせれば「ブルー」)が苦笑まじりで言うように、今このグラウンドに「立てている」のは碧衣とこの黄色バニーの少女しかいない。「なりそこない」の群れに襲われた女子サッカー部員たちは、あり得ざる怪異を見たショックに意識を失い、全員仲良く気を失っていた。
(……着衣の乱れを直すのも手間だけど、何よりこれだけの人数の記憶を消すのが面倒だな。まぁそこはキイロに任せておけばいいか。何せ「宗家」だし)
半裸姿で倒れる部員たちを一瞥しながらすばやく思考を巡らせ終えると、碧衣は常日頃から「だってキイロは『ソーケ』ダカラ♪」と主張して止まぬ、同い年の従姉妹に視線を戻す。
キイロ・毛利・ジョンブリアン--名前の通り、フランス系アメリカ人の血が入ったこの金髪の少女は、確かに分家の碧衣やあかりと違い、「毛利」の姓を名乗る「宗家筋」だ。一人だけ格好が違うのも、「やっぱりタイショーには『ジンバオリ』デース♪」ということらしい。いやそれ燕尾服だけどさ。
とはいえ、そこは口だけで無く、「毛利」の血がもたらす巫術的な力が一番強いのもこの子だ。だから後はうまくこの子に後始末を押しつけて、とにかく私は一刻も早く--
「ソレにしても、ブルーが後ろを取られるなんて『ウカツ』デスねー。サ・テ・ハ♪」
不意にニヤリと笑ったキイロが、自分よりも背の高い碧衣の顔を下からジッとのぞき込む。
「ソンナに気になるんデスかぁ? 今頃、『ムコウ』がドウなってるか♪」
「………………ッ!?」
完全に気持ちを見透かされて、碧衣は思わず息を飲む。周りからは「クール」で通っている碧衣だが、この一見アホの子っぽい見た目(まぁ言動もだけど)の従姉妹が見せる洞察力の鋭さには、ハッとさせられることが多い。
「ダヨネー。ダってあかりは朝からソワソワしてたし、そろそろ『ムネリン』着く頃デスから、モシかしたらモウ会っちゃってるカモ♪」
「…………………………」
フランス人形みたいな愛らしい顔立ちに、ニマニマと悪い笑みを浮かべて煽ってくるキイロに、碧衣はぐぬぬと奥歯を噛みしめる。
そんなことは言われなくても分かってる! やはり何事も第一印象が大切で、だから初手であの二人が「いい雰囲気」になるのだけは絶対阻止しなくては!と色々と策を考えていたのだ。
なのに、まさかその直前になって、前から追っていたこの怪異どもが出現するだなんてッ!
しかもこんなにたくさんの数が一斉にとか、これまでに経験したことが無い。幸い、一体一体は弱かったが、おかげで手間を掛けさせられた。本当にいい迷惑だしッ!
……そんな怨みもあって、いつもより無慈悲に首を刎ねてやったのだが、時間さえあればもっとむごたらしく仕留めたかったぐらいだ。命乞いするところをジワジワといたぶり、最後はズタズタの八つ裂きにして……
(でもまぁ迎えに行ったのはあくまで楓楽さんだし、あかりはあかりで例の「蜘蛛」を捜索中だしね……)
だから、あかりが「あの男」と出会うのは、碧衣たちと同じく「歓迎会」のタイミングだ。特に心配することは無いハズなのだけれど--
だのに何なのか? この先ほどからザワザワと込み上げてくる胸騒ぎは!?
「ま、ということデスから--」
無性にイライラして険しい表情になる碧衣に、キイロがいかにも天真爛漫な、しかし実に「あざとい」笑顔を浮かべて告げた。
「ココの後始末はワタシに任せて、ブルーは歓迎会の準備に戻ってくだサイ♪」
「……え? いいの?」
「ハイー、正直フーランだけに任せるのはチョット不安デスカラ♪ アトはそうデスねー」
戸惑う碧衣にニコニコと続けたキイロの琥珀色の瞳が、そこでキラリと光を帯びる。
「『ヤッサマンジュー』一箱で手を打とうってコトで☆」
(さすがはキイロ、ちゃっかりしてる……)
「やっさ饅頭」は碧衣の実家である小早川家の拠点、三原市のソウルフードだ。もちろん碧衣とて好物であり、今朝届いた実家からの荷物にも入れてもらっていたのだが、キイロは目ざとくそれに気付いていたらしい。小さな身体に似合わずキイロはかなりの大食らいだし、特に甘い物には目がないのだ(きっと全部「胸」に栄養が行ってるのだと思う)。
とはいえ「やっさ饅頭」程度ですむならお安いものだ。それに歓迎会の準備という大義名分をくれたのもありがたい。宮島さんはいい人だが色々危なっかしいし、そこが可愛いとはいえあかりは大雑把だし、キイロはキイロで実務面ではからっきし。三人娘の中では、碧衣が担当した方がいいに決まってる。
「--わかった。じゃあ私は戻るから、後はよろしく」
「オッケー、大ブロシキに乗った気持ちで任せるのデース♪」
ふふん♪とばかりにキイロが胸を張ると、同時にぶるん♪と豊かな胸元が揺れる。それを言うなら「大船」と心でツッコみながらも、でも大変ありがたいことに変わりは無い。
碧衣はすぅ……と目をつぶって一息呼吸を整えると、目を開くと同時に《神衣》たるバニースーツの力を発動させた!
「《神気解放》ッ! 限界突破--バニー・ブレイクッ!!」
ブオン! 碧衣が呪言を唱えたその瞬間、スラリとした両脚を覆う網タイツと、小さな足に履かれた青いハイヒールが《神気》の輝きに包まれる!
「オー、バニー・ブレイクまでしちゃいマスかー。さっすが碧衣はガチ勢デスね~♪」
ニマニマとキイロが冷やかしてくるも、気にせず碧衣はスッと精神を集中させて--
次の瞬間、神速のスタートダッシュを決めた碧衣は、あっという間に超高速の域まで到達した!
ギュウウウウウウウウウウウンンン!!
(待ってて、あかり……すぐに私が行くからね!)
視界の映る景色は目まぐるしく変わるも、そんなものなど見てはいない。碧衣の瞳に浮かんでいるのは、ただ、大切な「想い人」のまぶしい面影だけだ!
(あなたは私のものなんだから……! 「あんな男」なんかに--絶対渡したりなどするもんですかッ!!)
「その2」は日曜日にUPします!(^^)/