その5「語ろう! 魅惑の『競泳水着』!(笑)」
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「ほら! この程度で何ヘバッてんの! もっと力強く足を動かす!」
「は……はいぃぃぃ……」
碧衣の容赦無い叱咤の声に、プールの縁を掴んだまま懸命に足をバタつかせる宗春。
碧衣の特訓が始まってから30分あまり。すでに宗春はヘロヘロだったが、指導する側の碧衣はイキイキとしていて、まだまだ全然止めてくれそうにない。それどころか、この勢いだと本気で「宗春が泳げるようになるまで」指導を続けるつもりなのでは……?
思わずゾクッと戦慄を覚えたそのとき、宗春の脳裏にそれとは全く正反対なのん気極まり無い声が響いてくる。
--な~んだ。期待してみたら結局フツーのスパルタではないか。「たっぷりしごいてあ・げ・る☆」とか言うから、てっきり「S」で「M」なプレイかと思っておったのに!
(んなわけないでしょーが! ていうか、見てないで助けてくださいよ、玉神様ッ!)
--そんぐらい自分で何とかせんかい。てか「ここ」ではせっかくの碧衣の水着姿が見えぬではないか! しかもせっかくのレアな競泳水着姿だと言うのにッ!!
助ける気ゼロで、逆にぷんすか不満を漏らす玉神--正確には端末の「ネク玉ピン」が今どこにあるのかと言えば、スクール水着の胸ポケットである。普通ならパッドとかを入れる場所なのだが、そこに仕舞われては視界が封じられてしまうわけで……
--何とか口実をつけて吾輩をここから出してくれんか? ほれ、胸元とかに付けるとか。
(んな不自然なことできませんよ!)
もちろん水着に着替える(正確には「着替えさせられる」)までは、いつものようにネクタイに付けられていたので、双子姉妹の競泳水着をウヒャヒャ♪言いながら鑑賞していたのだが(顔に出さないように努力したが大変ウザかった)、さすがにスクール水着の胸元に付けるのは無理がありすぎる。
なので更衣室に置いて行こうとしたら玉神が散々駄々をこねたので、仕方無しに胸ポケットに入れたというのにこの言い草…やっぱり連れて来るんじゃなかった……
--だってあの「碧衣の」じゃぞ!? いつもお高く澄ましたあやつの競泳水着姿を間近でじっくり眺めるチャンス、こんな貴重なもん逃してなるものか! ムネっちこそ、独り占めしようだなんてそうはいかんざき!
(……そんなこと思ってませんよ!(てか「そうはいかんざき」って何?) それにそんなに競泳水着って良いですか? そりゃ普段の姿とは違うからドキッとはしますけど、むしろバニースーツの方が露出度高い気が……)
--カーーッ! このバカチン! お前は何もわかっとらん! なら教えてやろう。いいか、競泳水着の良さというのはだな……
と、玉神による大変めんどくさそうなフェチ語りが始まろうとしたところで、そんなこととは露知らぬ碧衣がパン!と小さく両手を叩く。
「--ま、とりあえずはこれぐらいかしら。じゃあ、ちょっとだけ休憩をあげるから、私の慈悲に感謝なさい」
(た……助かった……)
二重の意味でホッとした宗春が、ひたすらバタつかせていた足の動きを止める。ある意味「不幸中の幸い」というか、玉神と思念で言い合いをしていたおかげで多少気が紛れたところはあったが、滅茶苦茶疲れたことに変わりは無い。くたっと弛緩する宗春だったが、すぐさま碧衣の叱責が飛ぶ。
「何やってんのよ。休憩時間はプールから上がるのが常識でしょーが。ほら、さっさと上がって冷水機で水飲んで来なさい!」
「は、はいいッ!」
弾かれたようにプールサイドに上がると、よたよたしながら冷水機に向かう宗春。ようやく冷水機にたどり着くと、思っていた以上に喉の渇きを覚えて、しばらくごくごく飲んでいたが、ようやく一息ついたところで再び碧衣から指示が飛ぶ。
「ついでにそこにあるビート板取ってきなさい。休憩の後はそれ使ってバタ足やるからそのつもりで。まだまだ終わらないから、せいぜいしっかり休んどくのね」
(で……ですよねぇ……)
軽いはずのビート版がずっしり重く感じられて、宗春はガクッと肩を落とす。とはいえ、休めること自体はありがたいので、宗春はビート板を片手にプールサイドに戻るや、女王様のお慈悲に甘えてヘナヘナとその場にへたり込んだ。
(はぁ……ホントに疲れた……もうクタクタだよぉ……)
でも確かに疲れ果ててはいるけど、こうして一休みして自分を振り返る余裕ができると、自分がそれなりにプールに適応していることに驚かされる。いや、それ以上に碧衣がおっかないせいで、怖がっている余裕が無かったというのが正しいのだけど(最初なんか無理矢理水に入らされたもんなぁ……「自分から入るか、私に沈められるかどっちがいい?」って脅されて……)、まぁそれも結果オーライと言えば良いのだろうか。
(それに碧衣さん、確かにスパルタで滅茶苦茶怖いんだけど、でも言ってることはいちいち正しいし、教え方もうまいんだよね……)
思い起こせば、最初に学内を案内してくれたとき(注:第三話参照)もそんな感じだったし、こないだも数学の宿題に困ってたら解き方教えてくれたし(「こんなのも分からないワケ?」って滅茶苦茶バカにされたケド)、何だかんだ面倒見のいい人なんだよなぁ、碧衣さんて……
……と、同じくプールの縁に腰掛けて休憩を取っている碧衣にチラリと視線を向けた途端に、「こっち見んな、バカ春ッ!」と思いっきり水をぶっかけられた。うう……やっぱり酷い……
まぁでもそう言われると逆に「意識」してしまうわけで、ブルルっと犬のように顔をふるいながら、宗春はこっそり碧衣の姿を覗き見る。
(…………わぁ………)
元々すごい美人であるし、それこそバニー姿を見ているのでスタイルがいいことも知ってはいたが、それでも感嘆の声を漏らしてしまったのは、その女性らしくたおやかなプロポーションがしっとりと濡れた競泳水着によって更に引き立てられているのを目の当たりにしたからだ!
--どうじゃ! これこそが「競泳水着」の魅力よ! 伸縮性に富んだ極薄の生地が身体にピタッと貼り付くことで、女子の美しいボディラインをくっきりはっきり浮き立たせる! しかもあの光沢ッ! 水気を含んだポリウレタンがツヤツヤとテカりを帯びる様は何とも艶っぽいとは思わぬか!?
(そ……そう言われると……たしかに……って、玉神様ッ!? はっ! もしや「僕の視覚と同期」してっ!?)
思わず乗せられてしまったところで、重大な事実に気付いた宗春であったが(注:玉神は《ネク玉ピン》装備状態に限り、宗春の五感と同期することができるぞ!)、「だってそうせんと吾輩見れないじゃん」と無断同期にもまったく悪びれる気配も無いまま、興奮した様子で玉神は続ける(@もちろん早口)。
--し・か・も! バニースーツとの一番の違いは、何と言ってもその「薄さ」よ! さすがに一昔前の商品のように濡れたらスケスケ……とまではいかんが(つまらん世の中よ……)、それでもほれ、胸の先っちょを良く見てみい! 水に濡れてツンと尖った乳首ちゃんの形が、ポチッと浮かび上がっておるはずであるぞッッ!!
(……………………(ゴクッ)…………)
宗春とて「健全な」男子高校生だ。そう言われると俄然確かめたくなって、小さく喉を鳴らしながら視線を碧衣の競泳水着の胸の先に向けて--
「だから見んなって言ってるでしょうがッッ!! このエロ春ッッ!!!」
「ぐふぉぉぉぉッ!?」
ドボーーーン!! 鞭のようにしなったスイミングキャップに、思いっきり目元を引っぱたかれた宗春が、悲鳴と共にプールに転げ落ちる! ちなみにその寸前に玉神は同期を切って逃げているので、宗春だけが割を食った形だ!(苦笑)
「そんなに元気なんだったら、休憩はもういらないわよねぇ? じゃあ遠慮せず、『特訓』再開といきましょうか……」
ゲホゲホとむせ返りながら水面に顔を出した宗春を、極寒の視線で見下ろしながら碧衣がニヤリと宣言する。そうなるともう「特訓」が「お仕置き」にしか聞こえなくって、自分が撒いた種(正確には玉神のせい)とはいえ、宗春が「ヒイイイッ!?」と悲鳴を上げた--そのときであった!
シュタ、シュタタタタタタタタ……
(--え、何??)
不意に視界の隅に何か「小さなもの」が、猛スピードでプールサイドを「駆けていく」のが映って、宗春は反射的に目で追いかける。
それは20cm程の大きさの「人の形」をした白い物体であったが、当惑しながら見つめる宗春の前で、スタート台に駆け上がった「それ」は身体を曲げると、「トオ!」とばかりにダイブを決めた!
ボチャン!と小さな水音が聞こえた後は、そのまま浮かび上がってくることもないまま、プールは元の平穏を取り戻す。何事も無かったかのように揺れる水面を眺めながら、(…………目の錯覚かな??)と宗春が思おうとしたその瞬間、
「「「きゃああああああああ!?」」」という村上三姉妹の悲鳴が、屋内プールに響き渡った!?
いよいよ次回、怪異出現!それではまた明日☆




