その10「庄原ミヤゲはやっぱ『コレ』デショ☆」
第7話はこれにて終了です!
ぜひ最後までお楽しみくださいませ☆
その10「庄原ミヤゲはやっぱ『コレ』デショ☆」
そしてそれから2時間ほどの時が流れ、ついに……というか「ようやく」迎えたバスへの集合時間--
「つ……つかれた……」
周囲の女子たちが「楽しかったね~♪」「お花綺麗だったー☆」と明るくおしゃべりを交わす中、ぐったりと疲れ切った宗春は、ズブズブとシートに沈み込むようにして自分の座席でへたばっていた。
だって午前中だけでもかなり疲れてたのに、続いてはあの「怪異騒動」、そしてその後も、その、本当に「色々あった」し!!
思い出すだけでも、かああっ……と顔が真っ赤になって、脳裏に浮かびかけた映像を振り払うように慌ててブンブン首を振る。
まぁ「そこらの事情」についてはさておき(汗)、その後、すっかり元気を取り戻した……というかむしろますますパワーUPしたキイロ(ようやくお弁当を食べたおかげもある)に引きずられるようにして、結局時間ギリギリまで遊び倒したのだ。
しかしまさか大芝生広場だけに止まらず、そこから更に奥にある「きゅうの森」まで繰り出すことになろうとは……確かに全長35mもあるジャンボモノレールは迫力あったけどさ!
(と、とにかく帰りは大人しく寝よう……)
さすがに体力の限界を感じ、宗春はぐったりと座席にもたれかかる。そしてたちまち、重くなってきたまぶたを静かに閉じて、安らかな眠りに落ちていこうと--
--したところ、ムギュッ☆と口の中に「何か柔らかいもの」が押し込められて!?
「んんんんっ!?」
濃厚なミルクの香りとほんのり甘いその味わいに、「ま、まさか!?」と思わず目を剥いた宗春の視界に飛び込んで来たのは、ニヒヒ♪と口角を上げたキイロの笑顔だ。え? てことは、一瞬焦ったけど、これは……じゃなくて、なら一体……!?
「ジャ~ン♪ 前ニモ話した庄原メーブツ、『乳団子』ダヨ~☆ バイテンにアッタから買っちゃッタ♪ ノーコーなミルク味でとってもヤミ~☆ ダカラ、おツカレのムネリンにも一つオスソワケネ……ッテ、ア、ムネリン、ソノ顔モシカシテェ……」
そこでキイロは意味深に言葉を切ると、いたずらっぽく耳元にささやきかける。
「『サッキのアレ』、思い出しチャッタのカナァ?」
「~~~~~~ッッ!! ち、違いますよッッ!!」
本当は全然違わないのだが、大慌てで宗春は首を振ると、口内のお菓子を急いで咀嚼する。うん、確かに美味しい。さすが「乳団子」というだけあってとってもミルキーな味わいだ。でも岡山の「吉備団子」と比べると、同じ求肥餅なのだけど何て言うかこう……意外と……
「ダヨネェ。チガうよネェ。ダッテ、キイロのホーがモ~ット『ヤワラカかっタ』デショ?」
「だだだだだだ、だから思い出したりしてないですから!!」
いやそれも正直言えば大嘘で、そんなこと言われたらイヤでも思い出してしまう!!(真っ赤) とにかくこれ以上爆弾発言が飛び出さないよう、宗春は焦ってキイロの口を手で塞ごうとしたが--
ポフッ。
「…………え……??」
不意にふらっとキイロの身体が揺らいだかと思うと、そのまま宗春の身体に寄りかかるようにして倒れ込む! 何事!?と慌てふためいたそのとき、宗春の耳に聞こえてきたのは、
すぅすぅ……と規則正しい音を立てる、キイロの寝息であった。
(……限界まで遊んでパタンと寝るとか、小さな子どもじゃないんだから……)
ホッとする反面、さすがに呆れる宗春だったが、それこそ子どもそのものな寝顔を見てたら、そんな文句を言う気にもなれず、むしろキイロが寝やすいように身体を動かし、横の座席に座らせてあげる。
そしたら「んん~」と甘えような声を立てつつ、ギュッと左手にしがみつかれて……って、ね、寝ぼけてるんですよね!?(汗)
(はぁ……本当に困った人だよなぁ……キイロさん……)
今日は一日、散々にキイロに振り回された。自由だし、強引だし、しかも隙あればからかってくるし。身体の疲れはもちろんだけど、それ以上にとにかく一時たりとも気が休まる暇は無かった。
でも、そんなはた迷惑なキイロながらも、どうにも「憎めない」のもまた事実だ。いつも明るくて、子どもみたいに無邪気で、そして何だかんだで頼りになって……。さっきの乳団子だって、疲れている自分のことを本当に気遣ってくれたのだろう。まぁやり方はもうちょっと考えて欲しいものだけど!(切実)
「むにゃむにゃ……楽しかったねぇ。ムネリン♪」
そんな風にあれこれ考えていたところに、お気楽な寝言が聞こえてきて、思わず宗春は苦笑する。とはいえ、悪い気持ちがしなかったというのも本当で、宗春はやれやれとばかりに息を吐いた。
(まぁそんなに喜んでもらえたのなら、付き合った甲斐はあったのかなぁ……)
……とはいえ、疲れたこと自体は揺るぎない事実で、幸せそうな寝顔を眺めている内に、宗春にもまた再び眠気が込み上げてくる。だめだ。もうこれ以上起きてなんていられない。とにかく、まずは少しでもいいから仮眠を……と……ろ……う………………
そして--
「ごらぁ! 毛利ッ! どうせまたこっちにいるんだろ!?」
それから5分後、出発前の点呼でキイロの不在に気付いた菅波茶子が、朝の出発時と同様、1号車のバスに怒鳴り込んでくる。
しかしその三白眼のおっかない目が、スヤスヤ眠るキイロと宗春の姿を見ると、やがて茶子は「チッ、しゃーねーな」と毒づき、くるりとその場できびすを返す。
「悪ぃな、リカ。あとは頼まぁ。学園に着いたら、ちゃーんとシメとくからよ」
そうぶっきらぼうに言い捨て、バスを降りていく幼馴染みの背中に、「まかせて~」と朗らかに呼びかけながら、山名理香子は思わずクスッと笑みを漏らす。
(まぁさすがのチャコちゃんも、これじゃあ起こせないよねぇ……)
だって、こんなにも仲良さそうに、お互いくっついて寝てるんだもの。そう、まるで遊び疲れて一緒に眠る、幼い姉と弟みたいに--
やがてバスが出発し、備北丘陵公園が遠くに見え出す頃には、そんな二人に当てられたかのように、他の生徒たちも次々と寝息を立て始める。どの顔もみな幸せそうで、この行事を存分に楽しんでくれたのが分かる。途中ちょっと「熱中症気味になった生徒」は数人出たけど、それ以外は特に大きなトラブルもなく、無事に終わって何よりだ。
(さ~て、私もちょっと眠るとしますか。帰ったら帰ったでお仕事がんばらなきゃだしね)
学園に帰れば解散の生徒たちとは違い、教師の仕事はそこからも続く。山名理香子はトレードマークのメガネを外すと、学園に残してきた仕事に備えてしばしの眠りにつくのであった--
※ ※
「あっ! センセー! ここっ! ここだよおおおおっっ!!」
時刻はすでに夜の七時を回り、辺りもすっかり暗くなった中、県道沿いにある比婆観光案内所(ちなみに地図看板の前に立つヒバゴンの像が目印)の外で、一人心細く迎えを待っていたアゲハ@蝶の怪異形態は、駐車場に滑り込んできた岡山ナンバーのRAV4を見て、ぱあああっと顔を明るくさせる。
だが、運転席の窓を少しだけ(今のアゲハでも通れないぐらいに)開け、わずかに顔をのぞかせた浮田は、それはもう見るからに不機嫌そうな様子で、ギクッとなるアゲハに冷ややかな口調で問いかけた。
「ターゲットが元気に学園に戻ってきたから、失敗したのはもう分かってる。だがどうせお前のことだ。その気まずそうな様子からして、他にも何かやらかしてるな?」
ギクウウウ!となるアゲハに、疑惑を確信に変えた浮田が更に冷たく言い放つ。
「まぁそれは後でじっくり聞かせてもらうとして、とりあえず乗せてやる気は失せたから、自力で帰れ。じゃあな」
「ちょちょちょちょちょっと待って!? ここから学園とかかなりあるんだよ!? いくらアタシでも、それはさすがに疲れるんですけど!?」
そもそも、帰りのバスに潜り込めなかった場合用の(ちなみに備北丘陵公園はこの時期は夕方五時に閉まってしまう)待ち合わせ場所にしていたここまで飛ぶのも、それなりに時間と体力を使ったのだ。なのに、ここから更に学園まで飛んで戻れとおっしゃる!?
「そんなこと知るか。こちらこそ仕事で疲れているのに、お前が無能なせいでこんな所まで来させられたあげくに、気分まで悪くさせられるとか本当にいい迷惑だ。それぐらいの罰があって当然だろ?」
「うわあああん! 待ってっ! 待ってよおおおおお!!」
だが、浮田はそんな哀訴の声にも眉一つ動かすことは無く、用は済んだとばかりに窓を閉めると、愛車のRAV4を発進させる。
「酷いっ! いくら何でも酷すぎるでしょ、このドS鬼畜眼鏡ぇぇぇ!!!」
そんな叫びを無視して、RAV4は夜の県道を走り去っていく。ベソをかきながらわめき続けるアゲハを、その場に一人置き去りにして--
(……しかし、アレがアホなのをさっ引いたとしても、この条件でも勝てないとは、やはり「宗家」の名は伊達では無いということですか……)
5秒後にはもうアゲハのことなど完全に忘れ、RAV4のハンドルを握りながら、浮田直人は一人思考を巡らせる。
いや、あの娘が強かったというのもあるが、そもそも怪異が弱かったのだ。やはりそこらに転がっている虫程度を、《妖気》で無理矢理怪異に変えたところで、《バニー戦士》相手では大した戦力にはならん。やはり、もっと強力な怪異を生み出さねば……
(まぁ、まだまだ年度は始まったばかり。時間はたっぷりありますからね。焦らず、次の機会をうかがうとしましょうか)
そしてじっくり探すとしよう。次なる怪異を生み出すための「母体」となりうる、「学園の闇」を体現した存在を。怪異の強さはその元となる「負の感情」の深さや、「欲望の強さ」に比例する。となると、「強い欲望の持ち主」、それもできれば「鬱屈し」「歪んでいる者」が望ましい--
(親愛なる《バニー戦士》の皆さん、今日の所はひとまず負けを認めましょう。ですが、果たしてこの次はどうなるか……それまではせいぜい束の間の平和を楽しむがいいでしょう。楽しい楽しい学園生活をね!)
ルームミラーに映る端正な顔を邪悪に染めて、浮田直人は冷たく笑う。そして彼の駆るRAV4は、他に走る車とて無い夜の県道をひた走り、いつしか深い闇の中へと消えていった--
※ ※
そしてそれと同じ頃、宿坊のリビングスペースでは--
「ウ~ン♪ 『チチダンゴ』もヤミーだったケド、この『タケヤマンジュー』もアンコがタクサン入ってトッテモヤミーね☆ あ、ムネリンにも一個あげるネ♪ ハイ、アーン☆」
「ちょ、ちょっと止めてくださいよ、キイロさん! 恥ずかしいですから!」
「ヤミーヤミー」と連呼しながら庄原名物「竹屋饅頭」をパクついていたキイロが、そう言っていきなりすり寄ってきたので、横に座っていた宗春はもう大慌てだ。
だが、それ以上に慌てたのが、そんな二人を向かいから眺めるあかりで、あわわと焦りまくった様子で横の碧衣に耳打ちする。
(ね、ねぇ、ちょっとこの二人、明らかに朝より距離が近くなってるんだけど!?)
(きっと学年行事で色々あったんじゃな~い? まぁ意外とお似合いかもね、あの二人)
(そ、そんなぁぁぁぁ!!!)
ガーンとショックを受けるあかりに、ニヤニヤとほくそ笑む碧衣。そしてその前では、まるでそんなあかりに見せつけるかのように、「キョーはタノシかったネー、ムネリン☆」とキイロが宗春にしがみつく。ちなみに当の宗春はと言えば、口に押し込まれた竹屋饅頭に目を白黒とさせるばかり。いや、もちろん美味しいんだけど、それ以上に苦しい!
「うわあああんんんん! こうなったら『生徒会長権限』で、2年生と1年生の親睦行事を開いてやるんだからぁぁ!!」
夜の宿坊に、取り乱したあかりの叫び声が木霊する。うん、気持ちは分かるが、でもそれは生徒会長としてはかなり駄目な発言だと思うぞ!
……とまぁ色々あれど、とりあえず今日も宿坊は平和(?)であった。
次回予告!
学園生活も次第に軌道に乗る中、次なる課題はクラブ選び! 部活参加は必修なため、様々なクラブを見学していた宗春は、まるで人魚のように自在にプールを泳ぐ碧衣の姿に目を奪われる。だが、そんな中、「強い欲望」によって生み出された新たな怪異が、水泳部の女生徒たちへと魔の手を伸ばし--!
次回、『学園戦兎トリプルバニー!』第8話「学園の人魚に迫る魔手! 碧衣、決死の水中戦!」に続く!
ということで本編第7話はこれでおしまいですが、
前回の「その9」の後、キイロと宗春に何があったの!?については
この後、ノクターンで全3話で更新します(笑)
明日一日おいて12/28~30で連載しますので
18歳以上の方はそちらもぜひどうぞ☆
なお、今回のお話を書くにあたっては実際GWに
備北丘陵公園へ取材旅行に行ったのデスが(本当)
草花が綺麗で素敵なトコですよ♪
あとお土産には庄原名物・乳団子もぜひ☆
そして予告にも書いた通り、次のお話は碧衣回です!
何だか色んな意味で「ヤられ役」が多い彼女なのですが
次回は主役回ということできっと大活躍デスよ!
もちろんピンチシーンも込みで!(笑)
それではまた第8話でお会いしましょう!(^^)/
卯年は終わりますが、来年もよろしくお願いします☆




