その7「アンタの弱点はお見通しなんだかんねッ!(ドヤッ☆)」
続きデス!
その7「アンタの弱点はお見通しなんだかんねッ!(ドヤッ☆)」
「キイロさんの悲鳴!? そ、そんな、まさかっ……!?」
驚愕する宗春だったが、でも芝生広場の向こうから聞こえてきた甲高い叫びは、確かにキイロのもので--!?
--くっ! いかん! 急ぐぞ、ムネっち!!
「は……はい!」
愕然としていたところで、玉神から叱咤するように呼びかけられて、宗春は弾かれたように走り出す。と、とりあえず、状況を確かめに行かなきゃ!
--もっと速く走るのだ、ムネっち! 今ならまだ間に合うかもしれん!
焦りを帯びた玉神の声に、事態の緊迫をますます感じて、疲れも押しやり必死に走り続ける宗春。そうしている内に「きゅうの丘」がある西側エリアを越えて、小さな通路を挟んで広場の東側エリアに出たとき、宗春の視界の先に飛び込んできたのは--
3mはあろうかという巨大な「イモムシ」に似た《怪異》と対峙--いや正確に言えば、怪異の口の下辺りから生えた何本もの触手によって、四肢を縛られ宙吊りにされたキイロの姿であった!?
「キ……キイロさん!?」
あまりにも衝撃的なその光景に、思わず声が出かかったそのとき、宗春の脳裏に玉神の鋭い指示が飛ぶ。
--しっ! 見つかってしまうぞ! とにかく、まずはあのボールに隠れて状況を把握するんじゃ!
(はっ……はい!)
慌てて口を押さえた宗春が、玉神に指示された通りに、近くに転がっていたバランスボールの陰に身を隠す。確かに、いきなり見つかるのはマズい。まずは玉神の言う通り、状況を正確に見極めるべきだろう。
--そうじゃぞムネっち。焦りは禁物、急がば回れ、急いては事をし損じるじゃ。まずはこのバランスボールに隠れたまま、少しずつ距離を近づけていく。よいな?
(わ、わかりました!)
何とも頼もしい玉神の指示に従い、バランスボールをゆっくりと転がしながら、キイロとの距離を詰めていく宗春。幸い怪異はキイロに意識を集中しているらしく、特に気付かれぬまま、やがて10mほどの距離まで近づくことができた。
--よし、では観察に入るぞ。良いか? ちゃんと吾輩にも見えるようにするのじゃぞ!
(えーと、これでいいですか?)
ポケットから取り出した《ネク玉ピン》をジャージの襟元の辺りに付けると、玉神的には満足らしく、さっそく「顔の部分」が「(`・ω・´)」と真剣な表情に変わる。宗春もまた、まずは怪異の姿を見極めるべく、バランスボールの陰から視線を向けた。
一瞥したときにもそう思ったが、こうして改めて見るとその外観はまさに巨大な「イモムシ」そのもの。だが、そこは《怪異》なだけに当然普通のイモムシでは無く、最大の違いは今まさにキイロを捕らえている8本の触手だ。大きな口の下辺りから生えた60㎝程のそれが、それぞれ別の生き物のようにクネクネ動いてキイロの四肢に絡まっている姿は、何て言うかこう実に……
--ええのう、ええのう♪ やっぱり触手は最高じゃのぅ☆ いやぁ間に合ってホンンンント良かったわい♪
と、ドキドキしてたところに、うひょうひょ♪と浮かれる玉神の思念が伝わってくる。……って、ちょっと待って!? もしやあんなに焦って急がせたのも、まずは隠れて様子を見ろって言ってたのも、まさかキイロさんのこの「ピンチな状況」を見逃さないため!?
--当たり前ではないか! なんたって「あのキイロ」じゃぞ!? こんなレアなのを見逃すわけにはいかんであろうが!(≧▽≦)
(い、いや、そりゃまぁ確かに、キイロさんがピンチになるイメージは無かったですけど……)
だからと言って、身内のピンチをこんなに喜ぶとか、いくら何でも酷すぎやしないか、この神様!?--と、改めてげんなりする宗春であったが、触手にいたぶられるキイロの姿にますますテンションUPの玉神から、不意に流れ弾が飛んでくる。
--ほれほれ、あの爆乳を絡みつくように撫で回すトコなど、まさに絶景ッ! な、ムネっちもそう思うだろ??
(そそそそ、そんなこと思ってないですからね!?)
というのはさすがに嘘で、ちょっとだけ見入ってしまいそうになってた。いや、これまでのアラクネー戦やローパー戦でも、「拘束されちゃた」的な展開はあったけど、今度のはまさに「THE・触手」って感じで、思春期男子的には大変刺激が強い!
それも単に手足を縛るだけでなく、自由に動ける残りの触手が、起伏に富んだキイロのバニースーツの上を、いたぶるように撫で回しているのだから、そりゃあもう実に凶悪な--(ゴクリ)
(…………そ、そうだ! キイロさんは確か……!)
そのとき、宗春の脳裏に、出発前のバスの中でキイロが話していた言葉が甦る。「トクニネー、あのイモムシみたいなのが苦手ネ。クネクネ動いて気持ちワルい!」--そうか、だからあのキイロさんがろくに抵抗もできないままやられているのか。「見たダケですくんじゃう」とも言ってたし! くそっ、よりによってそのものズバリな怪異が現れるだなんて!!
思わず唇を噛みしめた宗春の目に、怪異に宙づりにされ、すっかり怯えきった様子で涙目になったキイロが映る。ハッ!と胸を衝かれたところで、「ダカラ、ソノトキは守ってプリーズ☆」との声が鮮やかに耳に甦ったそのとき--宗春はギュッと拳を握りしめた。
(そうだ。こんなことをしている場合じゃない! とにかく、一刻も早くキイロさんを助けてあげないと!!)
だが、どうにか覚悟こそ決めたものの、ではどうすればいいのかはまるで分からない。何せ相手は3mを越える巨体の怪異。自分なんかがどうにかできる相手だとは……って、駄目だ駄目だ弱気になっては! ここにはあかりさんも碧衣さんもいない。自分が何とかしなくちゃいけないんだ!
巨大なイモムシの怪異を前に、宗春は必死に思考を巡らせる。だが、どうにもアイデアが浮かばない中、宗春が決めたのは、ある意味、破れかぶれとしか言いようが無い一手であった!
※ ※
(フッフッフッ、うまくいった! うまくいったわ!)
一方、そんなゲレンデの様子を、少し上の空からこっそり眺めてほくそ笑んでいたのは、今回の黒幕たる淫魔アゲハである。現在、再び一番楽ちんな《蝶の怪異》形態に戻った彼女は、先ほどから得意げに羽をはためかせては、ウキウキ♪と空中を浮遊していた。
(まったく、この怪異の姿を見た時の「あの顔」と言ったら! ウフフ、可愛い子ウサギちゃん・だ・こ・と♪)
杵を両手に自信満々で乗り込んできたキイロが、怪異の姿を見るやたちまち真っ青になってガタガタと震え出したのは本当に見物だった! そして何一つ抵抗できぬままあっさりと怪異の触手に捕まり、そのまま宙づりの憂き目にあって--というのがここまでの状況である。
(それにしても、こんなに効果てきめんだなんて、がんばってチューリップ畑から探し出した甲斐があったってものね!)
がんばって--どころか、正直終わりぐらいは涙目だったが、アゲハが散々苦労して見つけ出したのは、イモムシといっても正確には「ヨトウムシ」だ。名前の通り夜行性のこの虫は日中は眠っているのだが、それを株元の土から掘り当て、浮田から託された高濃度の《妖気》に漬け、更には仕上げとしてアゲハ自身の《淫気》をも加えることで、この怪異を生みだしたのだ。
結果、本来なら葉っぱとかを食べるまさに「草食系」だったこいつも、今やすっかり「肉食系」ただし「性的な意味で☆」となり、ついさっきも芝生でまったりしていた女生徒たちを襲っては、八本の触手を駆使して「色々と」楽しませてもらったばかりだ。ああ……やっぱ若い子の《エナジー》美味しい☆ ここまでの苦労が報われるって感じぃ♪
そう、アゲハが自らの《淫気》を分け与えたのは、知能などは無いに等しいこの怪異をコントロール下に置くためではあるが、更にもう一つ、おかげで怪異が吸った《エナジー》をアゲハもまた味わうことができるのだ。
そしてまさにこうしている今にも、キイロを絡め取った触手からは恐怖がブレンドされた濃厚な《エナジー》が流れ込み、アゲハはゾクゾク身を震わせながら「ううぅ~ん☆」と美味しそうな顔をする。ヤバイ! これはヤバイ! さっきの女生徒たちも美味しかったけど、例えるならオードブルとメインデッシュぐらいの満足度の違いがあるし! さすがは《バニー戦士》、ああ……このままいつまでもチューチューしていたい♪(うっとり)
陶然とするアゲハだったが、とはいえ《エナジー》を吸うだけでは今回の目的を果たせない(そしてセンセーから怒られる!)。人間型のゴブリンとかならともかく、最後の最後は「イモムシ」の身体ではちょっと無理な話なわけで--
(う~ん、勿体ないけど、そろそろ最後の仕上げといっちゃいますかぁ。あ、でも、わざわざアタシ自ら出張るんだったら、バーン!と格好よく登場したいって言うか。ほら、「美しすぎる悪の女幹部」的な??)
そう思うと、途端に身体がウズウズ♪してきて、アゲハはすぐさまくるん☆とターンを決めると、ボン!と煙で身を包む。そして、再び人間サイズに戻るや、「オーッホッホッホ♪」と高らかな声で笑いつつ、背中の羽をはためかせながらゆっくりと地表へと降下した!
「ザマわないわねぇ、《バニー戦士》の子ウサギちゃんったら♪」
「ダ、ダレッ!?」
慌ててこちらを見上げるキイロに、ニマァ~と目を細めつつ、アゲハはそのままフワッと優雅に着地する。そして怯えた様子のキイロに向かい、ニッ♪と悪いキメ顔をすると、芝居がかった口調で声高らかに名乗りを上げた!
「アタシの名前はアゲハ! 淫夢を司るサキュバスにして、そうね、学園の闇を統べる者--とでも言っておこうかしら☆」
明日のクリスマスイブは「せいや」にふさわしく
キイロのピンチ展開となるか!?乞うご期待☆(笑)




