その4「ちな、正しい数え方は『一頭』…って牛かぁい!(ツッコみ)」
続きデス!
その4「ちな、正しい数え方は『一頭』…って牛かぁい!(ツッコみ)」
そうして、人知れずバッグから飛び立った一羽の蝶は、そのあとしばらくの間、まるで「ただの揚羽蝶ですよー怪しく無いですよー☆」とでも主張するかのように、ヒラヒラと辺りを飛び回っていたが、やがて生徒全員が行ってしまったのを見届けると、その場で小さく旋回して--
ボンッ!!
不意に煙のようなものに包まれたかと思うと、それが収まった後に浮遊していたのは、手の平サイズの大きさをした、外見的には20歳ぐらいの、派手めな美貌の女性であった!?
「あ~もう窮屈だった~! ようやく外に出られたし!!」
セクシーレオタード……とでも言えばいいのだろうか? 胸元も露わな薄布姿の艶やかな美女は、うんざりした口調でつぶやきながら、う~ん!とばかりに身体を伸ばす。
そうすると、身体のサイズこそは小さいながらも、ボンキュッボン!なプロポーションがますます強調される形になって、何て言うかこう、実に「エロい格好とポーズをした美少女フィギュア」感なビジュアルだ。
だが、この美女が「普通の人間じゃない」のは、空中に浮いていることや、身体の大きさだけではない。お尻の上辺りからは細い尻尾のようなものが生えているし、更に特徴的なのは背中から生える蝶を思わせる大きな左右の羽だ。ウェーブのかかった紫色の髪の隙間からは、「触覚」のようなものが二本ニョキッと伸びているのもあって、言うなれば、《蝶の化身》を思わせる存在であった。
「ったく、センセーのヤツ、自分で来ればいいのに、アタシに押しつけるトカ、マジムカつくし! アタシはアンタの『使い魔』じゃねぇっつーの!」
ブツブツそう毒づきながら、凝り固まった身体を丹念にほぐす謎の美女。ちなみに彼女がどうやってここに来たかはもうお分かりだろうが、一眼レフの入っていたバッグが二重底になっていて、その中に忍び込んでいたのだ。それだけでも大分狭かったのだが、更に暗いわ、揺れるわ……美女の柳眉が不機嫌そうに逆立つのもまぁ無理は無い。
それに見つかっても困らぬよう「蝶そのもの」な姿に擬態して飛ぶのは、優雅に見えてけっこう体力を使うわけで(今の姿なら魔力でひょいっと飛べるのに!)おかげで「作戦」開始の前からかなり消耗してしまった。まぁ自分自身が手を下すわけではないので作戦自体には支障は無いが、性格的に疲れるようなことは大嫌いなのだ。「吸精行為」--平たく言えば「セ〇クス」とかは別・だ・け・ど☆
……と、文句たらたらの謎の美女であったが、普段は三ツ矢学園の教師でありながら学園の平和を脅かさんとする浮田直人の「パートナー」として、良く言えば「サポート役に徹する」--実態は「面倒くさいからセンセーやっといて♪」な彼女が、こうして単独で現場に出張ってきたのは他でもない。
今回の学園行事を絶好の機会に、彼女にしかできない「ミッション」を果たすためだ!
「いいか、アゲハ。『作戦』自体は頭の足らないお前でもできるような『超簡単な内容』だから、もう一度良く聞いておけ」
謎の美女--アゲハの脳裏に、出発前に浮田と交わした一連の会話が蘇る(しかし「頭の足らない」とかホント人間のくせに失礼なヤツ!)。
「今回のターゲットはキイロ・毛利・ジョンブリアン。三ツ矢神社の宮司代行として強力な《神術》を操り、バニー戦士最強のアタッカーでもあるあの娘を排除するのに、今回の学年行事は絶好の機会だ。何せ他の二人から遠く離れての単独行動であり、三ツ矢神社から距離が開く分、玉神の加護も弱まるのだからな。まさに千載一遇の好機というものだ」
「だったらセンセーが行けばいいじゃんよぉ。アタシ、あんなトコまで行くのめんどくさーい」
「……それについては何度も言っただろうが。私は引率教員ではないし、この日は学園で試験監督の業務がある。仮病で休んだとしても、下手に外出して怪しまれるわけにはいかないからな。むしろ普通通り勤務した方が疑われなくて良いというものだ」
そこで「む~~」と不満そうなアゲハの様子を見て取った浮田は、下手にすねられても厄介か……とばかりに表情を緩め、機嫌を取るかのように口調を和らげる。
「その代わり、あの娘をはじめ生徒たちの《エナジー》は、全部お前が好きに味わうがいい。なーにすでに昨日『仕込み』はしてきた。あとは計画通り事を進めれば良いだけだ」
記憶の中の浮田はそう言うと、「ほら、ここに入れ」とショルダーバッグの開口部を広げて、アゲハに命じたのであった--
(な~にが「ここに入れ」よ。どうせなら「ここに挿れるぞ、アゲハ」(キリッ)ぐらい言いなさいよね。ったく!)
そう、あの男に何が不満かと言えば、こ~んなセクシーな美女と組んでいるというのに、自分を「そういう対象」として全然見ようとしていないことだ。仮にもアタシ、「淫魔」なんですけど?? 最初の契約の時だけ義務みたいにヤっといて、その後は放置とかどういうこと!? アタシのプライドと性欲、どうしてくれんの!
(……かと言って、「あの時」みたいな「イタズラ」したら、センセーマジ切れるしなぁ……)
以前に一度、ムラムラが抑え切れずに、とある園芸部の生徒に「憑依」して浮田とHをしようとしたことがあるのだが、途中で気づかれたあげく、激怒した浮田によって危うく消滅させられそうになった。しかも記憶は消したものの、トラウマが残ったのかその生徒はその後、学校を辞めてしまったので、更に追い打ちのように罰まで与えられたし!
(何よ何よッ! 目的のためなら平気で生徒を利用したり、巻き込んだりもするくせにッ! ならいいじゃん、そんなことぐらいで怒らなくても! その子だってちゃ~んと気持ち良くなれるんだしさ!!)
と、色々納得がいかない部分があるが、あの時の浮田の怒りっぷりを思い出すと、やはり身体に震えが走る。本来ならただの人間である浮田に淫魔の自分が負けるはずは無いのだが、何せアイツにはあの「魔導書」がある。とにかくアイツを本気で怒らせるのはマズい!
「ま、とにかく、面倒くさいことはサッサと終わらせて、自分へのご褒美にた~っぷり若い子たちの《エナジー》を吸わせてもらうとしましょっか♪」
とはいえ、何せオツムの中身が単純なだけに、アゲハの反省は長くは続かない。サクッと気持ちを切り替え終えると、背中の羽を動かしその場でふわりと浮き上がる。そして5mばかり浮き上がった後、「何か」を探すかのようにキョロキョロと辺りの景色を見回していたが--
「お、きっとアレね♪ ……ってか、遠ッ!」
魔力で強化されたアゲハの視覚が「それ」を見つけた場所は、この広々とした「花の広場」(ちなみに総面積1.5ヘクタール)の出口あたりで、「歩けば」10分近くかかりそうだ。
(う~ん、このまま飛べば楽に着けそうだけどなぁ……歩くのめんどいし……)
しかし、いくら《認識阻害》があるとはいえ、派手に動けばターゲットのキイロには見つかるかも知れない。あと浮田は「理由は分からないが、清水宗春にも《認識阻害》が効かない怖れがある」って言ってた。となると、目立つのは避けるべきか……くそぉ……
アゲハはチッと舌打ちして着地すると、再びくるりと身体を回してボン!と煙に包まれる。煙が消えた後に現れたのは、今度は通常の成人女性サイズになったアゲハだ。背中の羽も無くなり、触覚も茶色の帽子に隠れて、見た目は普通の人間に見える。ただし帽子と同色のトレンチコートに、口元にはマスクにサングラスという、かなり「不審者」な見た目であったが……
「確か人間って、正体を隠して行動する時にはこんな格好するのよね。フッ、さすがはアタシ! 完璧な変装ねッ!」
本人的には得意満面(表情は見えないけど)でそううそぶくと、アゲハは暇潰しに観た「探偵ドラマ」で学んだ格好のまま、花の広場を縦断する。中央にある展望台を素通りし、視界いっぱいに広がる花畑の中の通路を進んでいくと、色とりどりに咲くアイスランドポピーの後ろにだんだん大きく見えてきたのは、植物で作られた動物を模した形(ただし後ろ姿)のオブジェだ。
「え~と、『ウサギ』って言ってたよね。センセー」
花畑を抜け、オブジェの正面に回り込むと何をモチーフにしているのかが分かる。「モザイカルチャー」というらしいそのオブジェには、他にもタヌキやキツネなどがあったが、アゲハが間違わないよう、ターゲットと同じ「ウサギ」にしたとのことだ。
「でもって、このオブジェのすぐ側に『埋めた』……と」
浮田の指示を思い出しながら、地面をキョロキョロすると、確かに一箇所、ごく最近掘り起こしたような跡が見える。幸い、平日の午前中だけあって、他にお客さんの姿は無い。アゲハがそそくさとそこを手で掘り起こすと、予想通り、そこからジップロックの中に入った薬瓶と小さく折りたたまれた手紙が出てきた。
「なになに、『この瓶の中の《妖気》を使って、昆虫を《怪異》にしろ。それがキイロの弱点だ』--そう言えばあの子、さっきもそんなこと言ってたわね。イモムシが嫌いとか何とか……」
手紙を広げて指示を確認しながら、アゲハは今朝の会話を再び反芻する。あの時は「事前に細かく説明しても忘れるだろ」と詳しくは教えてくれなかったが(ホント馬鹿にしてくれるよねぇ!?)、浮田は「キイロ・毛利・ジョンブリアンの弱点になりそうな情報を耳にした」と言っていた。まぁ多分、園芸部の子たちから聞いたんだろうけど。
(で・も、アタシがGETした情報の方が詳しいもんね~♪)
そう思うと、いつも賢さを鼻に掛けてくる浮田を出し抜いてやったようで、アゲハはサングラス&マスクの下の素顔をニンマリ緩ませる。
この一見空っぽに見える瓶の中には(なお、手紙も同様、ただの人間には白紙に見える)高濃度の《妖気》が充満しており、この量があれば昆虫程度の大きさの生き物ならたちまち《怪異》にしてしまうだろう。そしてその昆虫のチョイスをイモムシにすれば、更に勝利確定間違い無し!
(フフン♪ アタシってばマジ有能! 見てなさいセンセー。このアゲハ様が大金星をあげちゃうんだから! えーと、それで肝心な昆虫はどうやって……)
と、意気揚々と手紙を読み進めたアゲハの目に飛び込んできたのは--
「『追伸 虫は現地で調達しろ(それぐらい働け)』……って、マジかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
無情な一言に思わず叫ぶアゲハ。いやそりゃこんだけ自然があれば、探せば虫ぐらいいるだろうケド、ただイモムシって本来キャベツ畑とかだよね!? そりゃ花についてる種類もいるかもだケド、ちゃんと駆除とかもされてるだろうし、そんなに簡単には見つかりそうにも……
「ちくしょぉぉ、あの鬼畜メガネェェッッ!! 後で吠え面かかせてやるんだからねぇぇ!!」
広大な花の広場に、アゲハの叫びが木霊する。ちなみに広場内を探しまくったアゲハが、ようやく「それ」を見つけ出したのは、それから2時間近くも後のことであった……
ついに姿を現した浮田の相棒・淫魔アゲハ!
(これまでは声のみの出演でしたので)
なお、サブタイについては「蝶の正式な数え方」デス。豆知識だよ♪
というところで、続きはまた明日☆




