その2「キイロちゃんは完璧で究極の学園アイドル☆」
続きデス!
その2「キイロちゃんは完璧で究極の学園アイドル☆」
「あ、キイロちゃんだ。おはよー!」「おはよー、キイロちゃん♪」
キイロがバスに乗り込むと同時に、すでに乗車していた女生徒たちから口々に「「「わぁ☆」」」と歓声が上がる。
「ハロハロ~ミナサン、ナイスモ~ニ~ン♪」
そう言って一人一人にニコニコと笑顔を返すキイロに、宗春は改めて彼女のコミュ力に関心すると共に、周囲からの愛されっぷりに驚かされる。
学園創始者の孫かつ現理事長の姪であり、しかも帰国子女のため本来なら一学年上という、正直色々「扱いづらそう」なポジにも関わらず、この学年でのキイロの人気っぷりはすごかった。いや同学年に限らず、上級生たちからも愛されていて、いわば「高等部のアイドル」的な存在だ。
(まぁ確かにキイロさん、明るいしフレンドリーだもんなぁ。見た目もホントお人形さんみたいだし……)
とはいえ、宿坊での同居生活も2週間ほどになり、すでに「色々なこと」があった身としては、彼女がどれだけタチが悪……もとい「困ったちゃん」かを知っている分、素直にうなづけない所もあるのだけれど、ただ、別に彼女は「外面がいい」というワケでは無いのだ。
何せ、彼女は学園生活においても同じく「そういう子」なのである! 伊達に「学園のお殿様」と呼ばれているわけではないのだ。むしろすごいのは、そんなトラブルメーカーでありながらも、学園のみんなからは「まぁキイロちゃんだから仕方ないか」と受け入れられていることで、いくら気の良いお嬢様だらけのこの学校とはいえども、これはやはりキイロの「人徳」と言うものだろう。
(さすがに、あかりさんや碧衣さんはもう少し厳しいけど、でもあの碧衣さんでさえ何だかんだで許してるしなぁ。まぁ僕も同じと言えば同じだけど……)
宗春にしてみれば、キイロは「隙あればからかってくる、イタズラ好きなお姉ちゃん」で、困らされることも多いけど、決して「嫌い」というわけではなくて……って、まぁあんまり刺激の強い「からかい」や「イタズラ」は勘弁だけどね!(汗)
と、色々想いを巡らせている間にも、キイロと女生徒たちのトークは続く。
「ア~楽しみダナァ♪ キイロ、昨日は楽しみすぎてジュギョーチューしか眠れなかったヨ!」
「あはは、キイロちゃんそれダメなヤツじゃん」
「あれ? でも昨日は『キイロ、虫とか嫌いだからちょっとブルー』って言ってなかったっけ?」
(え、そうなの? 初耳なんだけど)
密かに驚く宗春の前で、キイロは「ソーなんだよォ」と肩を抱くようにして身震いしながら続ける。
「トクニネー、あのイモムシみたいなのが苦手ネ。クネクネ動いて気持ちワルい!」
「あーそれわかるかも。あたしもあんまり得意じゃないなぁ」「私も私もー」
「デショデショ。キット見たダケでキイロすくんじゃうカラ、ソノトキはミンナで守ってプリーズ☆」
(知らなかったなぁ。確かに女の子にはイモムシ嫌いって子多そうだけど、まさかキイロさんもそうだなんて……)
むしろ怖いもの知らずに見えるのに、意外と可愛いところがあるんだな……とちょっと宗春がキイロの見方を変えたそのとき、
「は~い、みなさん揃ってますかー」
集合時間が来たのか、クラス担任である山名理香子先生(通称「リカちゃん」)がバスに入ってきて、ワイワイ騒いでいた生徒たちもみな「は~い」と答えつつ、自分の席に戻っていく。
ちなみに宗春の席は一番前の右側座席だ。この一週間でそれなりに馴染んだとはいえ、女の子ばっかりの中に座るのはさすがにやりにくいので、ありがたい配慮である。
通路の向かい側は先生席なので多少緊張はするけど、一人なのでゆったり座れるのはありがたい。それにそもそも、二人がけ席に女子と並んで座るなんて勇気は……と思っていたところに、
「じゃ、キイロはムネリンのとなりネ♪」
そう言って、キイロがピョンと横に座ってきた。
「ええっ!? 僕は一人席だったはずですよ!?」
「カタいこと言いっ子なしネ☆ セッカクのバス旅、一人席なんてツマンナイヨ。ソ・レ・ト・モ♪」
ウリウリと柔らかな身体を密着させてきたキイロが、ドギマギな宗春の耳元にささやきかける。
「オネーちゃんと一緒に座るト、『ココ』が『カタく』なっちゃうのカナ?」
「~~~~~ッ!?」
イタズラっぽいささやきと共に、フッと息を吹きかけられて、哀しいかな宗春の身体はピクンと反応してしまう。幸い(?)山名先生は点呼のため通路の奥に進んでいたので、誰からも気付かれてはいないのだけど(運転手さんはまだ乗ってないし)、でも、そうしている内にもキイロの手が、ジャージのズボンに伸びてきて!?
(アレアレ~♪ モシかして、もう『カタく』なっちゃってるトカ??)
(だ、ダメですよ、キイロさん! こんなところで! クラスのみんなもいるのにッ!!)
そう小声でやりとりしながらも、すでに心臓バクバクの宗春だったが、しかしキイロのイタズラは止みそうに無い。かと言って、大きな声を出したり、振り払ったりするわけにもいかず、観念した宗春はせめて声が漏れないようにと、ギュッと両手で口元を押さえて--!
「ごらぁ! 毛利ッ! こっちに居るんだろ? さっさと出てこい!」
突然ドスの利いた声が響いたその瞬間、横のキイロがビクッ!と動きを止め、それどころか目に見えて動揺する。
助かったという気持ちと、でも一体誰??との思いで、声のした方を振り向いた宗春の視界に飛び込んできたのは、ショートカットがカッコいい黒ジャージ姿の若い女の人だった。隣のクラスの担任の先生で、名前はえーと菅波先生だったかな。
「やっぱこっちに居やがったか。オメーは隣のバスだろうが! 手間かけさせやがって!」
そう毒づきながら、菅波先生はズカズカとバスに上がり込むと、「アワワ……」と怯えるキイロのジャージの首根っこを掴んで、まるで猫の子か何かのように持ち上げる。
「オラ、帰るぞ! 全員揃わねぇと出発できねぇんだよ!」
「ダ、ダって『オジュー』を置いたら、キイロの席が無くなったカラ! コッチならムネリンの横が空いテルって話だっタシ!」
そう言われてみれば、確かにあの五段のお重が無い。お重だけ本来の自分の座席に置いて、本人はちゃっかりこちらのバスに紛れ込んでいたわけだ。しかもものすごく自然に。さすがはキイロさんと言うべきか……
「んなの、補助席出せばすむだろーが! そもそもよそ様のクラスに迷惑かけんな!」
あたふたと言い訳するキイロだったが、ギロリと三白眼で睨まれた途端に、ヒィ!?とばかりにすくみ上がる。つ、強い。あのキイロさんが圧倒されてる。さすがは担任の先生だ!
「てことで、こいつは連れてかえるからよ。邪魔したな、リカ」
「こちらこそごめんね、チャコちゃん。あまりにも自然に居たから、つい見落としちゃってたよ~」
右手でキイロを持ち上げたまま、左手をひらひらさせた菅波先生に、ごめ~んと山名先生が手を合わせる。え、菅波先生って「チャコ」って言うの? あんなに怖そうなのに、なんか可愛い。あとこの2人、下の名前で呼び合うぐらい仲いいんだ??
ちなみにこれは後で浦上さんに教えてもらったのだが、菅波先生--本名・菅波茶子先生と山名先生は、どちらも県東部にある福山市神辺町の出身で、小学校からの腐れ縁らしい。ガーリーな雰囲気の理系女子な山名先生と違って、だいぶ強面で元ヤン体育教師??って感じではあるが(でも教科は国語)、怒ったら怖いがサッパリした性格で面倒見がいいので、生徒からは「チャコセン」と呼ばれて親しまれているとのこと。
でもって、キイロにとっては中3からの持ち上がりの担任で、この学園で唯一と言ってよい「頭の上がらない存在」だとか。道理であんなにガンガンに怒ってたのに、回りは「ああ、いつものやつか」みたいな温かい目で見てたわけだ。慣れっこなのね、あれ。
まぁそれはさておき--
(とにかく、危ないトコだった……)
菅波先生に引きずられたキイロが、「ジャあみんなシ~ユ~!」と言いながら(ホント懲りない)バスから強制退去させられた後、宗春はようやく安堵のため息を吐くと、そのまま座席に沈み込む。
出発前だというのにすでにドッと疲れた。ホント、キイロさんには困ったものだ。さっきまでニコニコじゃれてきたかと思えば、突然あんな風に大人っぽく誘惑してくるし、ホントに少しも油断できない! 今回は学年行事だから、あかりさんや碧衣さんの目も届かないわけで……
(ぼ、僕は無事に帰ってこられるんだろうか……?)
と、急に不安になる宗春だったが、しかしバスの中の雰囲気はといえば、今日一日への期待にみんな心を弾ませている。そんな中、点呼を終えた山名先生が一番前の席に戻ってくると、運転手さんが乗ってきたのを見届けた後、ワクワクした様子の生徒たちに向かって明るい声で宣言した。
「それじゃあ、どちらのバスもみんなそろったし、今から出発しま~す。目的地の備北丘陵公園までは、みんな自由に過ごしてね~」
ちなみに先生コンビの名前の由来はどちらも神辺町の歴史ネタです。わかるかな?
では続きはまた明日!




