その10「そして、闇もまた動き出す」
第5話から続いた「入学式&《縄の怪異》」編、これにて終了です!
ぜひ最後までお楽しみくださいませ☆
その10「そして、闇もまた動き出す」
「……それにしても今日は、不思議な一日だったなぁ……」
その日の夕方、2号館前の花壇に水をやりながら、お下げ髪の少女・浦上千景は、あれから何度目かになる疑問を口にする。
清水くんが言うには、私と土橋さんは2号館の中央階段で「2人そろって」足を滑らせ、そのまま20分ほど気絶していたらしい。そしてビックリした清水くんは、とりあえず私たちを階段前のロビーに運んで、そこで介抱していたとのこと。
怪我も無いし、その……服の乱れとかも無かったから、せっかく仲良くなれそうなのに変に疑うのもどうかと思って(土橋さんの追及に清水くん目をぐるぐるさせてたし)うやむやにしたけど、「?」という気持ちが残っているのは否めない。
でも、その後食べた遅まきのランチは美味しかったし、事務棟3Fからの景色も最高だったから、まぁいいか。中学時代は利用できなかったから、高校生になったって気分も味わえたしね♪
(……これで、一花がいてくれたらなぁ……)
ただ、そう思うとやっぱり寂しい気持ちになって、千景の胸は未だにキュッと苦しくなる。
同じ岡山の出身で、中学時代の親友だった三村一花は、高等部には進まず別の学校に行ってしまった。部活も同じ園芸部で、ずっと仲良くしてたのに、千景には何も言わないままある日突然、学校を去ってしまったのだ--
(仕方ないよね。きっと一花には一花で、何か事情があったんだろうし……)
そんな寂しさを紛らわすように、「高校生になったら一緒に水やりしようね」と約束していた園芸部用の花壇に、一人じょうろを傾ける千景だったが……
「--水やりですか? 入学式の後だというのに、感心ですね」
不意に背中から聞こえた声に、千景は(あっ……♪)と表情を明るくすると、くるっと後ろを振り返って答える。
「はい、今日は私の当番なので。ホントはもっと早い時間がいいんですけど、どうしても今日はバタバタしちゃって……」
そこに立っていたのは、千景と比べれば優に頭一つ分は背が高い、白衣姿のまだ若い男性教員であった。良く見れば彫りが深く、整った顔立ちなのだが、寝癖の残るぼさぼさの髪に、野暮ったい感じの黒縁眼鏡、そして何よりいかにも人の良さそうな表情が、「イケメン」というより「人畜無害」という印象を与えている。
でも、そんな冴えない「この先生」が、千景はとっても大好きで、さっきまでの憂鬱も消え去り、自然に笑顔になるのを止められない。
「4月になり、気温も上がって来ましたからこれぐらい問題無いでしょう。それより、浦上さんもいよいよ高校生ですね。遅れましたが、入学おめでとうございます」
「は、はい! ありがとうございます! それと、これからもよろしくお願いします!」
お下げを揺らしながらピョコンと頭を下げる千景に、「先生」は優しくほほ笑みを返すと、何気ない口調で問いかけた。
「ところで、入学と言えば『清水くん』とは仲良くなれそうですか?」
「はい! 先生から同じ岡山出身だって聞いてたので、勇気を出して話しかけてみたら、とっても良い人でした!」
「そうですか、それは良かった。彼も故郷から離れて寂しいでしょうから助けてあげてください。私たちもこの学校初の、そして唯一の男子生徒として、彼のことは気にかけているのですよ。また色々どんな様子なのか教えてくれると助かります」
「分かりました! 任せてください、先生!」
大好きな先生が自分を頼りにしてくれる--そう思うとすごく嬉しい気持ちになって、千景は張り切ってそう答える。
「ありがとう。浦上さんにそう言ってもらえると頼もしいですね。今日はもう遅いですが、またゆっくり話を聞かせてください。楽しみにして待っていますよ。では」
「了解です。先生もお仕事お疲れ様でした!」
話を終え、駐車場へと向かう先生に、礼儀正しく挨拶した千景は、「頼もしいって言われちゃった、へへ……☆」とニコニコ笑顔で水やりに戻る。
……だが、浮かれる千景には気づけるはずも無かった。彼女が慕う「先生」の、いかにも人の良さそうなその顔が、彼女に背を向けた途端、まるで別人のように変貌していたことを!
(……そう、本当に「楽しみ」なことばかりです)
黒縁眼鏡の下の瞳を妖しく光らせ、嘲るように「先生」は嗤う。
三ツ矢学園高等部理科教師・浮田直人--この地に集う闇を操り、学園を混乱の渦に陥れようとする張本人の、それが名前であった!
次回予告!
かくして始まった宗春の波乱に満ちた学園生活! だが、始業式&対面式を無事終え、ホッとしたのも束の間、学年の親睦行事として遠足に出かけた宗春たちの前に次なる《怪異》が出現する! しかも「敵」の真の狙いは、同行していたキイロの方で!?
次回、『学園戦兎トリプルバニー!』第7話「キイロ大ピンチ!? 学年行事は危険がいっぱい!」に続く!
ということで、黒幕の正体もついに明らかになったところで
第5話&第6話のエピソードも無事終了デス!
ここまでお読みいただきありがとうございました!m(_ _)m
7月・8月の二ヶ月をかけて更新してきたのですが、
ノクタ版も含め楽しんでいただけたなら嬉しいデス☆
そして予告にも書いた通り、次のお話はキイロ回です!
そこは「ご当地小説」らしく、国営備北丘陵公園を舞台に
キイロが可愛く大暴れする予定ですので乞うご期待☆
……と言っても、多分秋以降になると思いマスが(笑)
『トリプルバニー!』に関してはそういう連載スタイルなので
気長にお待ちいただければとm(_ _)m
それではまた第7話でお会いしましょう!(^^)/




