その8「絶対できる--今のあたしなら!」
ノクタ版の連載も終わったところで、
完全復活したあかりと《縄の怪異》の最終決戦デス!
その8「絶対できる--今のあたしなら!」
「あ、碧衣さん、大丈夫です……か!?」
机の島の上に横倒しになった碧衣に、あかりに遅れて地学教室に戻ってきた宗春が慌てて駆け寄るものの、「その姿」に気付くや思わずギョッ!?と固まってしまう。
--うほぉぉぉ♪ これは何と芸術的な「股縄」! しかも「瘤」が2つもついて、さすが分かってるのぉ、この怪異!
(だからどうしてそんなに親近感感じてるんですか! いいから助けますよ!)
うひょうひょする玉神を念波で叱り飛ばしながら、床に転がっていた苦無を拾った宗春は、まずは碧衣を拘束する縄を断ち切ろうとするが--
--待つがよい、ムネッチ! その縄は怪異の一部だ! うかつに近寄ってはいかん!
(……そ、そうかッ!)
確かに玉神の言うコトも一理ある。慌てて動きを止めた宗春に、玉神は続ける。
--ということで、もうちょい様子を見守るとしよう♪ うひひ、ええのぅ♪ ええのぅ♪ あかりも良かったが、碧衣はホントに緊縛姿が似合うのぅ☆
(結局、それが本音じゃないですか!)
そりゃ、何て言うかその、あかりさんの時以上にどこに目をやったらいいか困る……というか、よゐこは見ちゃいけない感がすごいのは認めるけど!(汗)
「んん! んんんんん!!!(ギロッ)」
やばい、碧衣さんお怒りだ。玉神の言うように縄に襲われる危険はあるかもだけど、でもここで助けなかったら、後で絶対に殺される!
……と、覚悟を決めた宗春が、できるだけ碧衣の姿を見ないようにしながら(あとは間違っても肌に触れないようにしながら)、束縛する縄を切り始めたその一方で、
地学教室の中央では、「半身の構え」のまま床に立って見上げるあかりと、1m近くも上から見下ろす《縄の怪異》ローパーact2が、依然緊張に満ちた対峙を続けていた。
「……最初に言っておきたいことがあるの」
だが、そこで口を開いたあかりの声は意外なほど静かな響きで、警戒心に満ちていた怪異も思わずピクッと反応する。
「何でだかはわかんないんだけど、実はさっき色々とあたしの頭に情報が流れ込んできてさ……あなたの正体はこの学園でずっと使われてきて、捨てられちゃった『縄』なんだよね?」
「…………ナワ?」
発言の真意をはかりかねて戸惑う怪異に、あかりはむしろすまなそうな口調で続ける。
「この学園のためにずっとがんばってくれてたんだよね。なのに、ごめん。だからせめて、『今までありがとう』ってだけ言わせて欲しい。本当にお疲れ様でした!」
「……………………」
「……でもね、とは言っても、あなたが今してることを許すわけにはいかないから--」
そこで一旦言葉を切ると、あかりは一転、決然とした口調で宣言する!
「あたしがここで……あなたを止める!」
「ナワアァァ……!」
凜!と覚悟を決めたその言葉に、怪異もまた決着が間近なことを覚って身構える。
あかりの言葉に感じるところがあったのも事実だが、かと言ってむざむざ倒されるつもりは無い。せっかく怪異として目覚め、こうして強化も遂げたのだ。まだまだ終わるわけにはいかない。そう、次はこの少女に再び「乳房縛り」を施し、「先端」の上に「結び目」を作ってやって思う存分グリグリしてやるのだ。ククク……「縄師」の血がたぎるわい!
--と思っているぞ、あいつ! 間違い無くッ!
(って、途中からあんたかい!? だから、なんでそんなに気持ちがわかるんですか!)
と、碧衣の縄を切る宗春と玉神が、いつものアホなやり取りを繰り広げたそのとき--
まずは先に、怪異が動いた!
「ナワアァァァァッ!!!」
ビュウウウウン! ムチのようにしなった右縄が、猛烈な速度であかりめがけて振り下ろされる!
しかしあかりはそれをわずかな動きで見切ってかわすと、縄の直撃を受けた机が破壊されるのに合わせて、強く床を蹴り跳び上がる!
「はああああああああっっ!!」
天井近くまでジャンプしながら、必殺の一撃に向け、脇に構えた右手に《神気》を集中させるあかり! だが、それは怪異にとってはすでに「想定ずみ」の行動で!!
「ナワァァアッ!」
その瞬間、「何か」をつかんだ左縄が、すかさず「それ」を投げつける! そう! それは額部分にぐるぐる巻きにされた縄に、碧衣が刺したままにしていた苦無! 縄とは違い、受ければ受けたでダメージ必至の鋭い刃が、あかり目がけて勢い良く飛んでいき--!
ふくよかな胸元に突き立とうとしたその寸前! 別の角度から飛んで来た苦無が、カキーン!と刃に命中した!
「……私の苦無で、あかりを傷付けさせてたまるもんですか……!」
それを投げたのはもちろん碧衣! ようやく緊縛から解放された碧衣は、未だ消えぬ股縄めの余韻にハァハァ……と息を吐きながらも、正確無比なその投擲で、怪異の投げた苦無を見事に弾き飛ばしてのけたのだ!
そして。そうなればもはや、あかりの攻撃を阻むものは何も無い!
(まだ一度も成功したことは無いけど、ずっと憧れて練習してきたこの技……今のあたしなら絶対できるッ!!)」
「《神気解放》! バニー・ブレイクッ!!」
くわっと目を見開いたあかりが、的とすべき場所をロックする! 防御のためにぐるぐるに巻かれた縄は、あかりにしてみればむしろ稽古で見慣れた眺めで、逆に思いっきり拳をぶち込めるというもの! そして狙うべき場所もまた、碧衣の苦無が空けた切れ目のおかげで明確だ!!
「喰らえっ! 三ツ矢流バニー空手奥義ッ!!」
バキイイイイッッッ! 唸りをあげて放たれたあかりの右拳が、怪異の眉間へと叩き込まれる!
だが、それでもやはり怪異の鎧は砕けない! ニンマリと単眼を歪ませた怪異が至近距離のあかり目がけて、左右の縄を向かわせようとした--その瞬間!
「鎧自体は砕けなくてもッ--打撃を『徹す』ことはできるッ!」
怪異の眉間に押し当てられたあかりの右拳が、ブオン!とばかりに振動する! そして次の瞬間--あかりは全身の《神気》を右拳に乗せ、「衝撃波」として怪異の体内に叩き込んだ!
「超必殺ッ! 《バニー・ノンエア・ウェーーーブッ》!!」
「キシャアアアアアアアッッッ!?」
そう、その打撃はまさに波ッ! 岩石の鎧を破壊することなく、内部の空間へと伝播した《神気》の波動は、そこに鎮座していた縄の本体を直撃し、ズタズタに引き裂き粉砕する!
--ココマデ……カ……
薄れゆく意識の中で怪異は思う。
先ほど、この少女から受けた感謝の言葉に呼び戻された記憶--思い起こせば、自分はこの15年、この学園の少女たちのために役立てることをずっと誇りにしてきた。ある時は資材を縛り、ある時は安全のためのバリケードとなり、そう言えばクラスマッチの長縄跳びに使われたこともあったな。あれは楽しかった……
どうして自分は報われていないなどと思ったのだろう。まるで何か、悪い夢にでも取り憑かれていたようだ。だが、今はそれも全て消え、心はただ安らぎに満たされている。
--コチラコソアリガトウ、赤イばにー姿ノ少女ヨ……
勝ったくせに少し哀しそうな顔をしているあかりに向け、怪異は心の中そう語りかける。欲望に囚われ、道を踏み外した自分が、こうして安らかな気持ちで「道具」としての生を終えられるのも、全てはこの少女のおかげだ。本当に感謝する。
でもまぁそれはそれとして--
--少女ヲ縛ルトイウノモ、実ニ「ヨイモノ」ダッタナァ……
最期にそんな正直すぎる感想を残して、《縄の怪異》ローパーは、完全に--消滅した。
「バニー・ノンエアウェーブ」って何だかわかるかな??w
そこも踏まえた続きは、8/29(火)です!




