その5「他にも『藤公園』とかが自慢だよ☆」
続きデス。中国地方ローカル小説でもある『トリプルバニー!』
タイトルだけでどこの市のことを言ってるのか分かったらすごいぞ!(笑)
その5「他にも『藤公園』とかが自慢だよ☆」
(……や、やっと解放された……)
ようやく最後のグループが教室から出たのを見届けると、宗春は疲れ切った表情でガクッと机につんのめった。
気が付けば、HRが終わってからすでに一時間近く経っている。そしてその間、宗春はクラス中の、いやそれどころか途中からは隣のクラスも加わり、要は学年中の生徒から質問攻めにされていたのだ!
--いーなー、ムネっちモテモテじゃんかよ、ウラヤマシーー!!
(いや、アレはモテてるとは言わないと思います……)
そういう自分はその間《ネク玉ピン》の回線を切断しといて、いけしゃあしゃあと茶化してくる玉神に、宗春はますますげんなりとする。
(……て言うか、全てはキイロさんのせいだし!)
実はHRが終わった当初は、クラスの女子たちは「可哀想だし、今日はそっとしておいてあげよう……」という雰囲気だったのだ(まぁそれはそれで辛いけど)。
ところがそのとき、ちょうど隣のクラスも終わったらしく「ヤホー♪ ムネリン」と教室に入ってきたキイロが、「知り合いなの?」と周りから聞かれて、
「ウン、ムネリンはキイロと一緒に住んデルカラ♪ モチろん、あかりや碧衣トモ!」
という「とんでもない爆弾」を投下したため、一気にクラスが騒然となったのだ!
もうそこからは次から次へと質問攻めにされて、気が付けばこんな時間……というわけだ。
(それにしてもすごい人気だなぁ……さすがはあかりさん、そして碧衣さんも……)
当たり前といえば当たり前なのだが、質問内容は宗春についてではなく、全部この二人のプライベートに関するもので、さすがは「三ツ矢の両川」というところか……
--どうせなら、あかりとは一緒に風呂に入ったこともあるぜ!(ドヤ!)って自慢してやれば良かったのにな、ウヒヒ!
(そんなこと言ったら大問題になりますよ! あと、入ってはいませんからね!?)
でも実際、この人気っぷりなら本来、妬まれたり敵意を向けられてもおかしくないのだ。ただまぁそこは見るからに宗春が「無害そう」なのと、混乱だけ引き起こしてさっさと昼食に向かおうとしたキイロが去り際に、
「ア、ムネリンいじめたら、あかりが怒るヨ~」
と、一言釘を刺してくれたのが効いたのだろう。感謝はしないけど! そもそもキイロさんのせいだし!!
(まぁでも、なんとか終わってよかった……)
ホッとすると同時に、急にお腹がすいてきて、そう言えばすっかりお昼を食べ損ねていることに気づく。それどころか、お昼は自分で何とかしなきゃいけないんだった!
実は「宿坊のルール」では、学校のある日の昼食は学食か購買、もしくは学内のコンビニで手配することになっているのだ。日中は宮島さんは神社のお仕事があるし、それにいくら宮島さんのご飯が美味しいといっても、さすがに毎日三食だと有り難みが薄まるということで、そういう決まりになってるそうなのだけど--
「でも、そもそも食堂ってどこにあるんだろう……」
こないだ碧衣さんに案内してもらった時には、食堂に至るより前に例のゴブリン騒動に巻き込まれたのだ。ポ〇ラの場所は分かるけど、でも正直お弁当のラインナップはビミョーだったし、入学式のお昼がコンビニ弁当というのも少し寂しい。
とはいえ、玉神に聞いても答えてくれないし(て、言うかゲーム音みたいなのが聞こえてくる。まさか、僕が質問攻めにされてた時にはゲームしてた!?)、どうしたものかと宗春が困っていると……
「あの……良かったら、案内してあげよっか?」
どうやらさっきつぶやいた言葉を聞かれていたのだろう。もう誰も残っていないかと思われた教室の後ろから、おずおずと言った口調で話しかけてくる声がした。
「え……?」
慌てて振り返った宗春の前に立っていたのは、はにかむように笑う小柄な少女だった。顔立ちはまだあどけなく、肩ぐらいまでの髪をお下げにしているので中学生にしか見えないが、ブレザーの制服と、何よりこの教室にいることを考えれば普通に同級生だろう。
「清水くん……って、岡山出身なんだよね? 実は、私もそうなんだ」
「え? 本当?」
広島県民ばかりかと思っていたところでの思わぬ告白に、思わず宗春が目を輝かせると、お下げの同級生は再びはにかむように笑って続ける。
「うん、って言っても、市内や倉敷とかの有名どころじゃなくて、和気なんだけどね」
和気郡和気町は岡山県の南東部にある自然の豊かな町である。主な産業は農業、特に果樹栽培で、町の偉人は宇佐八幡宮信託事件で怪僧・道鏡の野望を阻んだ和気清麻呂。ここ日本史のテストに出ますよ! ガチで!
「まぁ僕の住んでたところも岡山市とはいってもだいぶ外れだから……ほぼ総社だし」
と、ローカルな岡山ネタを交わし合うと、やはり親近感が湧いてきて、フフッ、へへっと微笑み合う少女と宗春。
「あー、久しぶりに岡山のこと話せたよ。本当はもっと早く話してみたかったんだけど、ほら、さっきまでその、すごい人だかりだったし……さ……」
まぁとても人を押しのけて……なんてことができそうには見えないし、きっとずっと教室の後ろで宗春が一人になるのを待っていたのだろう。そう思うと、宗春は何だか申し訳無いやら嬉しいやらで、ムズがゆいような気持ちになる。
「えと、私の名前は浦上千景、これからよろしくね」
「う、うん。こちらこそよろしく!」
そう答えて、もちろん握手などするような勇気は無いので、照れたように笑う千景に対し、ただペコペコと頭を下げる宗春であったが--
--おいおい、可愛い子じゃねぇか♪ いいね、いいねぇ、『ザ・純朴』って感じで☆ こういういかにも大人しそうな子を言いなりにして、「このケダモノッ!」とか涙目で言われてみたいのぅ。ぐへへ♪
(…………すぐにそういう話にするの、マジでやめてもらえませんか?)
--あら、ちょっと飛ばしすぎちった? 玉ちゃん反省☆ んじゃあ話題を替えて、やっぱこういう子のパンツは白の綿パンなのかな? なぁムネっち、ちょっと聞いてみてよ♪
(全然反省してないじゃないですか!!)
てか、初対面の女子にそんなこと聞けるわけないじゃんかよ!? 初対面じゃなくても無理だけど!!
「……え……え~と、だ、大丈夫? 気分悪い??」
「い、いやいやいや大丈夫だよ! ちょっとお腹すいちゃったな~って!」
できるだけ抑えるようにはしていたものの、やはり顔に出てしまっていたらしい。心配そうな表情になる千景に、ブンブンと顔を振りながら慌ててごまかす宗春。
「そうだったね、じゃあもうちょっとおしゃべりしたいし、一緒に行こうよ」
だが、幸いそれ以上は疑われなかったらしく、ホッと胸をなで下ろした宗春に、今度は前方から賑やかな関西弁が耳に飛び込んできた。
「お、ええなぁ! ほな、ウチもご一緒させてもらえへん?」
その関西弁は……と振り向いた宗春たちの前で、教室の前側のドアを開けた形で立っていたのは、もちろん先ほどインパクトの強い自己紹介をかましたクラスメート・土橋知由美だ。
この子もさっきまでたくさんの生徒たちに囲まれ、賑やかにおしゃべりをしていた感じだったが、その後は隣の教室にも顔を出していたらしい。見たところそれも終わり、今は一人のようだ。
「いやー皆さんに顔売って回っとったら、昼飯時すぎてしもーてな。どないしたもんやろ?って思うてたとこなんや」
相変わらずペラペラペラッとそう言うと、知由美はそこで一旦言葉を切って、特徴的なアヒル口を意味深な感じでニヤッとさせる。
「ま、お邪魔そうやったら遠慮しとくけどな~♪」
「え? ぜ、全然そんなことないよ!」
言葉の意味に気づいた千景が、あわあわと両手を振って否定する。そして柔らかい笑顔を浮かべ、改めて知由美に申し出た。
「じゃあ、三人でいこっか。私も男の子と二人だとやっぱり緊張しちゃうし、それに土橋さんとも仲良くなりたかったから」
「おーきに♪ たすかるわぁ。ムネムネも『両手に花』の方が嬉しいやろ?」
「あ、う、うん……って、別にそういうわけじゃないからね!?」
圧倒されていたところで突然振られ、思わず反射的に返事をしてしまった宗春があたふたするのを見て、「あんたらよう似てんなー。お似合いやん☆」とカラカラ笑う知由美。やばい。この人、キイロさんの同類かも……(汗)
「じゃ、じゃあ、行こっか。食堂は体育館の半地下に……」
こちらはこちらで頬を赤くした千景が、これ以上からかわれる前に話を切り替えようとしたその矢先、「それなんやけどな」と知由美はピンと右手の人差し指を立てると、べっ甲眼鏡の下の瞳をキラリと輝かせた。
「ちょっとウチにリクエストがあるねん。2号館通って、事務棟3Fにあるっちゅう職員食堂に行ってみたいんや。そっちの方に案内してくれへんかな?」
それでは続きは次の木曜日!




