その3「じ、自己紹介ぐらい僕だって!」(汗)
入学式編、続きデス!
その3「じ、自己紹介ぐらい僕だって!」(汗)
「ど、どうして僕が最初なんですか!?」
驚きのあまり思わず大きな声を出してしまった宗春が、しまった!?と慌てて口を塞ぐ。案の定、クラス中の視線(しかも女子ばっかり)が集中して、恥ずかしさに赤面する宗春に、リカちゃん先生はニッコリ笑ってこう答えた。
「だって、高校からの新入生はクラスに2人しかいないのよね。だからまずはその人たちからお願いしようかなって。で、清水君が『し』で早いから最初♪」
「みんなも興味あるよね~」との呼びかけに、「「「はーい☆」」」と明るく返事を返すクラスの生徒たち。みんな、もう好奇心に目をキラキラとさせている。
そうだった、この学園の生徒はほとんどが中学校からの内部進学。しかも学年全体でも60人ちょい、住んでる所も同じだから、今更自己紹介なんていらないわけで、リカちゃん先生の言うコトも分かるけど、で、でもぉぉぉ!!
「はいはい、みんなお待ちかねだから、サクサクッとやっちゃいましょうね~♪ 自己紹介が終われば、本日は終了なわけですし」
「…………は、はい」
ニコニコと圧をかけてくる先生に負け、仕方無く宗春は返事を返すと、ギクシャクとした動きで教壇に向かう。で、でもダメだぁ……緊張で心臓がバクバクするぅ~!!
--Hey、どうした少年! ガチガチになるのはち〇ぽだけで十分ってもんだぜ! HAHAHA!
(なんなんですか、そのキャラ!? それより神様だったら助けてくださいよ!)
--そんなのは自分で何とかするものだぞい。でもそこは信者に優しいご祭神として一つアドバイスしてやるなら、こういうときは「成功イメージ」を思い浮かべるとよいぞ。たとえば、入学式の時のあかりのスピーチ姿を頭に浮かべてみるとかどうよ?
(いや別に「信者」になったつもりは……。でも、珍しくまともなこと言いますね。確かにそれはいい手かも!)
--って、むしろボーイだと、全裸姿のあかりとの「性交イメージ」が浮かんじまうかだケドな! HAHAHA!
(珍しく褒めた途端にこれだよ! てか、そのネタが言いたかっただけですよねぇ!?)
一瞬でも感心した自分がバカだった! そして、そのキャラはホント何なんだよ!?
……と、思わず天井を仰ぎたくなった宗春だったが、とはいえアドバイス自体は間違っていない気がするし、とりあえずやってみよう!
そう腹をくくった宗春は、緊張を鎮めるべく息を整えながら目をつむると、入学式で堂々としたスピーチを決めていたあかりの姿を思い出した。
「中等部からのみんな、高等部進級おめでとう! そして新しく仲間になったみんな! ようこそ三ツ矢学園へ! あたしたちはみんなのことを心から歓迎します。この学園で一緒に最高の青春をすごそうね!」
別に話がうまいとかでは無いけど、力強くて、真っ直ぐで、熱い気持ちが伝わってくる実にあかりさんらしいスピーチだった。すごく、すごくカッコ良かった!
玉神の言う通り、そんなあかりの姿を思い出すだけで、臆病な自分にも何だか勇気が湧いてくる気がする。
そうだ! たかがクラスメートの前で自己紹介するぐらい、何だって言うんだ。僕はあかりさんみたいになりたくて、この学園に入学したんだ。僕だって……僕だってやればできる!
(よしっ……!)
ようやく気持ちが落ち着いて、ゆっくりと宗春は目を開く。そして、もう一度小さく呼吸を整えると、クラスメートたちが注目する中、まずは精一杯声を張って--
「み、みなひゃん、はじめまひひぇ!」
かんだーーーーーーっっっ!!!Σ(゜д゜lll)
(かんだ)(かんじゃったね)(可哀相。きっと緊張しすぎたのよ)(でもそれはそれで可愛いかも☆)
たちまちクラスメートたちがクスクス、ひそひそとささやき合う中で、当の宗春はもうすっかり赤面&涙目であった。
(だって……だってやっぱりこんなの無理ゲーだよぉぉぉ……!)
いやそりゃ普通の学校でも失敗してたかもだけど、何せこの学園のクラスメートは全員が女子なのだ! て言うか、ずっと疑問だったけど、もしかして僕以外に男子いないの?? 今年から共学になったって話じゃないの!?
--あーそう言えば、共学で募集したけど、結局誰も受験しなかったってあかりがしょげてたのう。まぁそりゃこの環境に飛び込むのはかなり勇気がいるものな(笑)
(えええっ!? そうなんですか?? そんな話初めて聞きましたよ!?)
サラッと玉神が口にした重大な事実に、宗春は思わず衝撃を受ける。道理で朝から一人も男子生徒を見ないハズだ。てっきり会ったことが無いだけで、他にも何人かぐらいはいると思ってたのに!?
--まぁ見学には何人か来たのだが。男はいらんから吾輩が軽~く呪いをかけて追い返したのじゃ、うひひ♪(Ф∀Ф)
(やっぱ、あんたのせいかい!!)
と、宗春が玉神とやり合っている間にも時間は刻々と過ぎていき、教壇の上に立ったまま何も言わない(ように周りからは見える)宗春に、女子たちのひそひそがまた大きくなる。
(ねぇ、どうしちゃったのかな?)(ショックで固まっちゃったんじゃない?)(きゃー☆ なんか可愛い♪)(見た目も女の子みたいだしね)(私、けっこう好みかも☆)
(あ”あ”あ”、ますます注目されてるぅぅぅぅ……)
黙っていればいるほど、更に注目を浴びる羽目になって、宗春はますます動揺する。しかも困ったことにどの子もみんなレベルが高くてそうでなくても緊張するのに、そんな可愛い女の子たちに好奇の目で見つめられながらしゃべるとか、そんなの純情な高1男子にはハードル高すぎだよぉぉ!(泣)
「あー、そんなに構えなくても大丈夫だよ。簡単でいいから、簡単で」
「は……はいぃぃ……」
そろそろフォローしなきゃと思ったのだろう、手をひらひらさせながらお気楽に言うリカちゃん先生に、消え入りそうな声で答える宗春。
とはいえ、このままの状態ではますますいたたまれないので、宗春は何とか気持ちを立て直すと、おどおどとした口調で続きを口にした。
「し、清水宗春です。お、岡山から来ました。よ、よろしくお願いしまひゅ……」
(((本当に簡単だ!!!)))
クラスメートたちの表情がそう語っていたが、でも今の宗春にはこれが精一杯で(しかも最後にまたかんだし)、それでもどうにか終えられてホッとはしたものの、同時に心の中は情けない気持ちで一杯であった。
(うう……こんなんじゃ「あかりさんみたいになる」だなんて、夢のまた夢だよぉ……)
クラスでの自己紹介一つ満足にできない自分と、入学式という大舞台で堂々たるスピーチをするあかり--そりゃ本来比べるのさえおこがましいとは思うのだけど、でもやっぱり自己嫌悪を感じてしまう。それどころか、こんなんじゃ高校生活もうまくいくはずないし、そしたらきっとあかりさんからも見放されて……
と、頭の中がネガティブ思考一色になって、しょんぼりと宗春が肩を落とした--そのとき!
「アハハ、まーしゃないやんか。そらこ~んなぎょーさんの別嬪さんに囲まれとんやから、緊張してまうのも当たり前やろ。よーがんばった方や。ほら、拍手拍手♪」
突然、教室の一角から賑やかな関西弁が聞こえたかと思うと、パチパチと拍手がそれに続く。それをきっかけに、それまで気まずい感じだった教室の雰囲気が一気にほぐれ、となるとそこはみな善良なお嬢様ぞろいなだけに、宗春を温かく迎える拍手が教室中に鳴り響いた。
「あ……ありがとうございます!」
今度はかまずに無事言えると、宗春は少し照れくさく感じながら、場の雰囲気を変えてくれた声の方向に視線を向ける。一体、誰が助けてくれたんだろう。それに……関西弁?
「となると、次はウチの番ちゅーこっちゃな♪」
宗春の視線の先で、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がったのは、かなりクセの強い髪の毛をショートボブにし、お洒落なべっ甲眼鏡をかけた、見るからに快活そうな女の子だった。
ということは、この子も新入生?と目をパチクリさせる宗春に、関西弁の少女はアヒルみたいな口をニマッとさせて、そのままスタスタと教壇に向かっていく。
そしてクラスメートたちの方に向き直ると、全く物怖じしない様子で自己紹介を始めた、
「ど~も~♪ ウチの名前は土橋知由美。オトンが関西の支社に勤めとったさかい、中学まではずっとあっちにおったんやけど、高校入学を機に生まれ故郷の広島に帰ってきましたー。ま、要は広島と関西のえーとこどりのハイブリッドちゅーヤツやな」
立て板に水とはまさにこのこと、ペラペラと回る舌に圧倒されたクラスメートを尻目にアヒル口の少女は関西弁でしゃべりまくる。そして最後にニカッと笑うと、宗春をビッ!と指さして宣言した。
「てことで、この宗春クンともどもこれからなかよーしたってや。ほな、よろしう!」
ちなみに『トリプルバニー!』の人名は大体由来(というか元ネタ)があるのデスが、
宗春たちに比べて「土橋知由美」の元ネタはわかりにくいかも。
一発で分かったらある意味すごい!(ガチ広島人でもわかるのかしら?w)
それでは続きは7/15(土)です!




