その1「清水宗春は三ツ矢学園で怪異に遭遇する」
新年度&卯月ということで、『学園戦兎トリプルバニー!』第1話の更新をスタートします!
学園を舞台に繰り広げられるちょっと「アレ」な(笑)バニーバトルラブコメ、応援よろしくお願いします!(^^)/
(プロローグのお話からの続きになりますので、未読の方はぜひそちらからお読みください)
第1話「学園の平和はあたしが守る! 颯爽見参、バニーレッド!」
その1「清水宗春は三ツ矢学園で怪異に遭遇する」
「これが三ツ矢学園かぁ……」
色々あってこの春から通うことになった校舎を前に、中学時代の詰め襟制服を着た少年・清水宗春の口から思わず感嘆のつぶやきが漏れた。
噂には色々聞いていたものの、こうして実物を見るとものすごく立派な校舎だ。しかも一つや二つでなく、あちこちに同じレベルの建物がある。設立15年ということでどの建物もまだまだ充分新しいし、設備も実に豪華そうだ。
更にとにかく敷地が広い! 三ツ矢学園前のバス停で下りて、少しだけ坂を上った所にある正門をくぐってから、今目の前にある時計台付きの校舎(どうやらこれが「本館」らしい)に至るまで、けっこうな距離を歩いた気がする。
広島市民なら「マツダスタジアムが何個入るのか」と考えてしまう程だ。ただ宗春は岡山の出身なので、ただ大きいなぁ……と思うだけだが。それでも普通の学校よりもはるかに大きいのは良く分かる。正直、並の大学よりも大きいだろう。
ただし、立地場所はド田舎であった。
学園が設置されているのは広島県の北部、具体的には市のバスターミナルからバスで2時間近くかかる山間の町である。いくら学園のスポンサー企業である三ツ矢グループ創業者の生誕地とはいえ、正直に言って、こんな過疎地にこれほどの立派な学園があるというのは、かなり場違いな感じがする。これだけの敷地を切り拓くだけでも、一体いくらかかったことか……恐るべし三ツ矢グループ。
そんなお金持ち学校だけに、基本生徒は学園の向かい側に建つホテルみたいにお洒落な寄宿舎で暮らしているとのことだが、事情があって宗春はそこには入れない。代わりに住むところは用意されているとのことで、荷物も事前にその住所に送ってはいるのだが……
(どうしよう……迷っちゃった……)
まったくもって自慢では無いが、宗春は方向音痴だ。元々地図があっても迷うタイプだが、そもそも学園パンフの地図には目的地の「宿坊」という建物は書かれて無いし、電話しようにも、家が貧乏な宗春はスマホなんか持って無い……
元々は正門に迎えの人が来てくれて、学園の案内がてら「宿坊」まで連れて行ってくれるという話だったのだ。ところが待てど暮らせど誰も来ないので、集合場所を間違えたかな?と、とりあえず一番目立つこの時計台付きの校舎にまで来てみたのだけど、やっぱりそこにも誰もいない。となると、後は自力で行くしかないのか……
そう思って辺りをキョロキョロ見回してみるが、けっこうあちこちに建物があるため、どれがどれだかわからない。更に困ったことに、気がつけば辺りはだんだん暗くなりかけていた。
(どうしよう……このままじゃ野宿かも……)
全然知らない場所に一人っきりという心細さもあって、元々気の弱い宗春の心にはじわじわと不安が広がっていく。でも宗春はこの学園に自分を誘ってくれた「あの人」のことを思い出して、懸命にそれを振り払った。
--岡山の片田舎で暮らしていた宗春が、広島にあるこの学園に入学することになったのは、受験直前の中3の冬休みにいきなりこの学園の「推薦入学」(しかも学費免除の特待生!)の話が舞い込んできたのがきっかけだが、
でもそれ以上に大きかったのは、この学園の「生徒会長」(当時はまだ高1だったというのに!)だという女の先輩からの、強い勧誘があったからだ。
「ええ!? 何で僕なんかが……!?」
突然の誘いに面食らう宗春に、学校のPC(貧乏な宗春の家にそんなものは無い)でのリモートで語りかけてきた「生徒会長」と名乗るその人--しかも三ツ矢グループの創業者・毛利元成氏(故人)の孫娘でもあるという--が話した内容は、更に驚くべきものだった。
宗春は知らなかったのだが、何でも宗春の死んだ父はかつて三ツ矢グループに勤めていて、元成氏とも関係が深かったという。そして遺児である自分の存在を知った元成氏は、三ツ矢学園に入学させて一人前になるまで面倒を見るよう言い残したらしいのだ。
幼い頃に父と母を相次いで亡くし、親代わりに育ててくれていた祖父までもが施設に入ることになって途方に暮れていたところなだけに、そのお誘いは大変ありがたかったのだが(更に祖父も三ツ矢直営の介護施設に入れる高条件付き)、しかしそれだけが彼が承諾した理由ではない。
何より宗春は、その「吉川あかり」と名乗った生徒会長の凜とした姿に、強い「憧れ」の念を抱いたのだ。
性格は気弱で、身体も貧弱。特に頭が良いわけでも無ければ、運動に至っては壊滅的。しかも優しげと言えば聞こえはいいが、頼りなさそうな顔立ちも相まって、田舎の悪ガキたちからは容赦無く虐められ……と、そんな暗い少年時代を過ごす中で、いつしか宗春はすっかりオドオドした陰キャになってしまっていた。
でも--
「ぜひあたしたちの学園に来てくれ! 一緒に最高の学園生活を送ろう!」
あかりはそんな良いとこ無しの自分を熱心に、そして力強く勧誘してくれた。その自信に満ちた表情(しかもキリッとした美人!)を画面越しにまぶしく眺める内に、いつしか宗春の胸には、
(こんな素敵な人が会長の学園でなら、ダメな僕でも変われるかも知れない--)
という熱い想いが生まれて、それがこの学園へ入学する決め手となったのだが……
(……なのに、こんな最初からつまずいちゃうなんて……)
こんなんじゃ我ながら先が思いやられる。生徒会長さんにもきっとすぐに呆れられてしまうだろう。やっぱり、このお話は断っておくべきだったかも……と、ついついいつものネガティブ思考に陥りそうになる宗春だったが、
(ダメだダメだそんなんじゃ! 僕はこの学園でがんばるって決めたんだ! 生徒会長さんの期待に応えられる男になるって!)
「待ってるぞ!」というあかりのまぶしい笑顔を思い出して、ネガティブ思考をどうにか頭から振り払う。となれば、まずは自力で「宿坊」に辿り着くことだ。「宿舎」ではなく、「宿坊」と言うからにはお寺や神社の関連のはず。そう言えば、この三ツ矢学園のすぐ側に「三ツ矢神社」という神社があるって話だ。なら、その近く?
パンフレットを広げてみたら、確かに近隣MAPには「三ツ矢神社」という表示がある。そう言えば、校門をくぐってこの校舎に来る途中、右手に変な形の「石のオブジェ」(何て言うか、『ぷ〇ぷよ』ってゲームの落ちてくるヤツみたいな?)があって、更にその奥には神社を思わせる建物があった。となると、あれが三ツ矢神社かな?
(とりあえず、正門まで戻ってみよう……)
とりあえずそう方針を決め、宗春が元来た道を戻ろうとしたそのとき--
不意に、辺りが暗くなった。
(えっ? 何っ??)
確かに時刻は夕方であったが、かといってまだまだ日が沈むような時間ではない。だが一体どうしたことか、空にはぽっかりと月まで昇り、夜の闇の中で妖しく光を放っているではないか!?
そして更にそのとき!
--フフフ、鳩ガ豆鉄砲を食ラッたみたいナ顔をしチャって、可愛い坊ヤだコト……
「だっ、誰っ!?」
突然聞こえたその声に、宗春はギョッと身をすくめる。慌ててキョロキョロ周囲を見回すも、しかしそこには誰も居ない--いや!
「……ひっ!?」
首を絞められたニワトリみたいな悲鳴を上げて、宗春がのけぞったのも無理は無い!
暗い闇の中から、二対の赤い目がじっとこちらを見つめている。しかも怪異はそれだけでは終わらない。その爛々と輝く目の下の空間がニンマリと嗤うように裂けたかと思うと、そこから目と同じくらい真っ赤な舌がチロリと顔をのぞかせた!
「うっ……うわああああッ!!」
今度こそSAN値が限界を越え、悲鳴を上げて逃げ出す宗春!
だが、恐怖にもつれる足は思うように動かず、校舎の中庭の辺りでついに宗春は転倒した!
--フフフ、よウヤく捕まエタわぁ。可愛イ子ウサギちャん。
そんな宗春をいたぶるように追ってきた黒い「影」が、ガタガタと震えながら匍匐前進で逃げようとする宗春を見下ろし、舌なめずりをするかのように嗤う。
--小娘ダケの学園かと思ッテいたら、今年カラはこんナ可愛イ坊やが入学スルのねぇ。フフフ、思春期ノ男の子ノ《エナジー》は濃イから、楽しまセテもらえソウだわぁ。
「影」は艶然とした口調でそう言うと、思わず振り返った宗春の目の前で次第にそのフォルムを変え、やがて上半身は女性、下半身は巨大な蜘蛛という奇怪なシルエットへと変貌を遂げる!
「ひっ……ひいいいいい!!!」
--ソレじゃあ、坊やノ《エナジー》……お姉サンがた~っプリいだかセテもらっチャうわネ~
眼前で起こった怪異に怯えまくる宗春に向け、禍々しき「影」が嬉々とした口調で叫んだ--そのときだった!
「待ちなさい!」
突然、後方から凜とした少女の声が響き渡る!
--クっ、こノ声……! またアナタねぇ!
忌々しげに振り返った「影」に釣られて、宗春もまた同じ方向へと視線を向ける。
そして宗春は見た! 一際高くそびえる時計台の上に、明るい月の光を背後にしてすっくと立った、一人の少女の姿を!
「邪まなる《禍つ神》の眷属よ! 三ツ矢学園の生徒に危害を加えることは、このあたしが許さないッ!」
そう言い放つや否や、少女はとおっ!とばかりにジャンプすると、驚くべき跳躍力を見せて中庭の真ん中に置かれた校訓碑の上へと着地する!
「この学園の平和は--あたしが守る!」
ビシッ!と空手の型のようなポーズを決めながら、高らかに宣言する謎の少女! 真紅のコスチュームを身をまとい、目元をバイザーで隠したその凜々しい姿は、まるでアニメや特撮に出てくる美少女戦士そのものだ!
(すごい……《正義のヒロイン》は本当にいたんだ……)
真下から見上げるその勇姿に、こんな状況ではあるものの思わず見惚れてしまう宗春だったが、
しかし同時に、どうしても耐えられなくなって、心の中でツッコミを入れる。
(でも……そのコスチュームって、『美少女戦士』というより、その……)
そこで一旦口ごもってしまったのは、やはり宗春が純情な思春期男子であるからだ。
そのコスチューム自体は大変有名で、それこそ一度ぐらいは実際に見てみたいと思ったことだってあるけれど(みんなもあるよね??)、でもやはりこうして近くで見るとなると、やはり照れが先行してしまう。
だって、そのコスチュームは誰がどう見ても--!
(バ、「バニーガール」……ですよ……ね?)
続きは4/5(火)に掲載します!
※なおボクのブログ「あそコロ♪」に関連記事を書いてます。よろしければあわせてどうぞ☆
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