その6「……いや、その、もうちょい何とかなりません?」
続きデス!玉神様に決断を迫られた宗春の答えとはーー!?
その6「……いや、その、もうちょい何とかなりません?」
「……ドした? ムネリン。ボーッとして」
「い、いや、何でも無いです!」
じーっと下からのぞき込んでくるキイロの視線に、自分が回想にふけっていたことに気付いた宗春は、慌ててブンブンと首を振る。
「フゥーーーン」
そんな宗春をキイロはしばしいぶかしげに眺めていたが、やがてニマッと口元を緩めたかと思うと、「ナラ、良いケド」と言って顔を離す。え? 今の何?? あんまり近いとドギマギしちゃうから(キイロさん可愛いし)、離れてくれるのはありがたいのだけど、これはこれで何だかドキドキするよ!?
「とにかく、色々災難でしたね。疲れたでしょうし、少し早いかもですがお夕飯にしましょうか♪ あかりちゃんたちもそろそろ帰ってくるはずですから」
困惑しきりの宗春に、しゃもじを手にした宮島さんがニッコリ優しく微笑んでくる。
「今日は『祭り寿司』にしたんですよ。宗春くん、好きですよね?」
「は、はい! 大好きです!」
「祭り寿司」といえば岡山の誇る郷土料理だ。きっと慣れない土地で暮らすことになった宗春を、励まそうとしてのチョイスだろう。宮島さんの優しさにじーんとなる宗春に、キイロが「今『アジミ』したトコだケド、絶品だゾ☆」と付け加えて……って、持ってるの「どんぶり」だよね!? それって「味見」なの!?
「た……ただいま~」「フフッ、ただいまっ♪」
と、宗春が思わずツッコんだところで、後ろの引き戸がカラカラ開き、やたらぐったりした様子のあかりと、やたら上機嫌の碧衣が、二人並んで帰ってきた。二人とも《神衣》装着状態--要するにバニー姿のままだったので、慌てて宗春は視線をそらす。
「あら、どうしたの? あかりちゃん。すごく疲れてるみたいだけど……」
「いや……その……い、色々、あっちゃって……」
「ソレに比べて、碧衣はエッらくごキゲンだナ」
「フフフッ♪ 色々あっちゃったから、ね☆」
(…………一体「何があった」んだろう……?)
あまりに対照的な二人に好奇心は刺激されるも、あかりからは「そっとしといて」オーラが、碧衣からは「挟まってくんな」オーラが放たれているので、ここはスルーすることにする。触らぬ神に祟り無しだよ!
「とにかく、まずは二人ともお風呂に入って着替えたら? 宗春くんも一緒にお風呂……はダメだけど、とりあえずそのー」
そこで一瞬口ごもった宮島さんが、ちょっぴり気まずそうな口調で続ける。
「『その格好』は、早く着替えた方がいいと思うか……な」
(そう言えば「セーラー服」のままだった!?)
そこでようやく「自分の格好」を思い出した宗春が、羞恥に思わず絶句する! いや、あまりに色々ありすぎる中で、服装のことなど頭からすっぽり抜け落ちていたのだ。え? 地下神殿でシャワー浴びたじゃんって? いや、あのときはそれこそもうそれどころでは……(@ノクターン版「その1の5」参照)
それにしても、大三島さんも玉神様も完全スルーとかタチ悪すぎる! 内心では絶対笑いを堪えていたはずだよね!? まぁ、それはともかく--
「き、着替えてきます!!」
慌ててそう答えるや、宗春は逃げるようにして階段を駆け上がる。下からは「じゃ、洗いっこしよっか? あかり☆(ルンルン)」「うええ……まだするのぉ……(泣)」とキャッキャウフフ(?)な声が聞こえてきて、大変気になりはするけど、今はそれどころじゃ無いし!
割り当てられた自室に駆け込み、どうにか部屋着に着替え終わると、一日の疲れがドッと込み上げ、宗春はぺたんと畳にへたり込む。
いや本当に今日も大変な一日だった。碧衣さんとの施設見学に始まり、またもや怪異に遭遇するわ、キイロさんに神社に連れて行かれるわ、でもって地下のシャワー室では……げふんげふん!(繰り返すけど@ノクターン版「その1の5」参照!)
でもやっぱり、一番キツかったのは、その後の地下神殿での玉神との交渉で……(以下、回想)
--さぁ選ぶがいい、少年よ!
「…………一つだけ、条件をつけてもいいですか?」
--……何?
「玉神様のお話は分かりました。それがあかりさんのためにもなるというなら、僕としても異論はありません。僕だってあかりさんの役に立ちたいですから……でも--」
そこで一旦言葉を切ると、宗春はここが正念場だ!とばかりにグッと拳に力を込める。
「あかりさんたちにだって、当然プライバシーはあります。だから、何か『依代』をというなら僕が『学校でだけ身に付けるもの』にする--というのではどうですか? 玉神様の目的は、あくまで学園生活の疑似体験と監視強化のはず。なら、あかりさんたちのブライベートな時間まで覗く必要はありませんよね?」
どうにか全てを言い終えると、これでどうだ!とばかりに玉神の目を見据える。相手が神様だと思えば正直膝が震えるけれど、でもここで引くわけにはいかない。何とか勇気を奮い起こして、玉神の視線から目を逸らすまいと踏ん張る宗春であったが--
--フフッ、フアーハッハッハッハッハ!!!
突然、巨体をぷるぷるさせて笑い出した玉神が、続いて顔を「(≧▽≦)」と笑顔に変える。そしていきなりの変化に面食らう宗春に向け、玉神は上機嫌な口調で続けた。
--なかなかやるじゃん、ムネっち。さっすが、元成に続く吾輩のマブダチだな!
「え、いつの間にそんな扱いになったんですか!?」
--水くさいなぁ! ホラ、一緒に猥談したじゃん? 人間界ではそーゆーのは「親友の証」なんだろ??
いや、それはあながち間違っては無いケド、玉神様が一方的にそういうネタ振ってきただけで、僕からは一切してないよ!? でもって、元成さんとはそういう会話してたの!? 何だかさっきから「立志伝の偉人」のイメージが……
--ということで、マブダチの頼みなら仕方無い。それにどうせ「宿坊」では、宮島や大三島の目が光ってるしな。だからその条件で契約OK、OK、オッケー牧場♪
ノリ軽ッ! でもって、ネタが古すぎ……と、反射的にツッコみかけた宗春の前に、突然、玉神の緑色の胴体(?)部分からポコン!と何かが飛び出してきて、床に当たって跳ね返る。
「……これは?」
足下まで転がってきた「それ」をしゃがみこんで確認すると、それは銀色のネクタイピンだった。形自体はごく普通ではあるが、特徴として飾りの部分が「(・∀・)」という玉神の顔を模した物になっている。ハッキリ言うと、
(ダ、ダサい……ダサすぎる……)
--学園の制服は夏服でもネクタイ着用だし、それなら違和感無くオールシーズン身につけられるぞい♪ 名付けて、《神器》「ネク玉ピン」、なんちて!
そんな宗春の気も知らず、玉神は「吾輩ちゃんナイスアイディア♪」と一人上機嫌だ。しかもネーミングセンスがオヤジくさい!!
--あ、でも体育の授業の時もちゃんと隠し持っといてくれよな!? あと水泳の時とかも絶対ッ!!
「……いやもう覗く気満々じゃ無いですか……」
ますますげんなりする宗春だったが、しかし一度契約を交わした以上、ある程度は玉神の要望にも応えないと面倒くさいことになりそうだ。これも全てはあかりさんの力になるため……と自分に言い聞かせながら、宗春は玉神が授けた「ネク玉ピン」をその手に拾って握りしめる。
--ということで、これで我らは「一心同体」! 共にサイコーの青春、バラ色の学園生活を楽しもうでは無いか! よろしくな、ムネっち☆
次回で第4話はおしまいです。次回水曜更新!
PS
なお、今回出てきたあかりと碧衣に間の「色々あった」は、またじきにNocturneにて(笑)




