その7「ゴブリン共は皆殺しじゃ!」
広島弁全開で颯爽と登場したバニーレッド!
VSゴブリン戦、クライマックスです!
その7「ゴブリン共は皆殺しじゃ!」
「おう、そこのあんたも大丈夫……って、え”え”え”えぇ!? 春くん!?」
まるで任侠映画のような啖呵を切ったあかりが、続いてへたり込んだままのセーラー服の「少女」に声をかけるも、それが宗春なことに気付いて、一転、あわわと狼狽する!
「嘘!? 何でそんな格好!? やん、可愛い☆……じゃなくて! 何でここに!?」
「……私を助けに来てくれたのよ。ま、あっさり返り討ちにされたけどさ」
たとえ「恋敵」ではあっても、そこを隠すのはフェアじゃない--そんなポリシーで(ただ口調はとてもそっけなく)答えた碧衣の言葉に、「!?」と最初は驚いた様子のあかりだったが、やがて宗春を見つめるその顔が、ホロリと泣き出しそうな笑顔に変わる。
「……そっか。やっぱり春君は『そういう子のまま』なんだね……」
(……え?)
予想外のリアクションに困惑する宗春の前で、「や、あと、さっきのはちょっと頭に血が上っただけだから! あんなおっかない言葉とか使わないから!」と今度は弁解しまくりなあかり。いや、そこは別にどうでもいいですし。てか、今更ではあるけど、もう全然正体隠す気は無いんですね……
「あの……それはそれとして」
とはいえ、そこはツッコミ属性な宗春だけに、そこだけはどうしても我慢できなくなって、おずおずとあかりに問いかけたのは、
「……『その袋』、一体、何なんですか?」
「あーこれ?」
あかりは両手の肘辺りにぶら下げた複数のビニール袋を見下ろすと、ちょっと恥ずかしそうに説明する。
「キイロに頼まれてたお好み焼き。宿坊に置いてくるヒマが無くって……」
((律儀かっ!))
思わず心の中でハモる宗春と碧衣。いや、途中どこかに置いてとかじゃダメなの!? という無言のツッコミに、「でも食べ物だし、そこらに置いとくわけには……」とあかりはゴニョゴニョ続けて……って、ホント律儀だなっ!!
更に続いた説明によれば、 午後からでも合流しよう!と考えたあかりは、すさまじいリーダーシップで会議をまとめ、最適化された行動順で駅ビルのお好み焼き屋を回り終えると、すぐさまバスターミナルに戻って高速バスに飛び乗って来たらしい。ところが、学園に着いてみれば、何と《結界》が発生してる!?ということで、変身しながら一目散に駆けつけた--というのがここまでの経緯のようだ。
「あかり……そこまでして私のために……!」
説明を聞き終えた碧衣の瞳が、感激!とばかりにうるうる揺れる。いや、途中までは完全に「下心」が理由だったと思うが、そういう都合の悪いところはサラッとスルーだ。
まぁでも、そのおかげで絶体絶命のピンチを切り抜けられたのは事実で--
「……オット、勘違いシテもらっちゃ困リマスね」
そんな安心ムードを断ち切るように、三人を遠巻きに取り囲んでいたゴブリンの中から、低く落ち着いた感じの声がする。他のゴブリンから「「「副キャプテン!!!」」」との声が上がる中、一人だけ丸眼鏡をかけた痩せぎすな小鬼が群れの中から進み出た。
「チームメイトを助けに来たノハ称賛すべきデスが、コノ状況では飛ンで火に入ル夏の虫ナラぬ『赤ウサギ』。我々とシテは、獲物が増エて喜バシいグライですヨ」
ゴブリンらしからぬ知性的な顔立ちの副キャプテンが、丸眼鏡をズリ上げながらフッと嗤うと、周りの連中からも「ソーダソーダ!」「コレで3つモ『穴』ガ増えたゼーッ!」「全部デ『8つ』ダナ!」とたちまち下卑たヤジが飛ぶ……って、フツーに僕もカウントされてる!?(by宗春)
「何セ、多少ノ犠牲ハ出たとはイエ、我ラハマダ残り十八名。シカモ『足手まとい』ヲ二人も抱えて、勝テルとお思イですか? 赤ウサギさん」
「……御託はいいから試してみなさいよ」
不敵に言い返しはしたものの、内心あかりは己の不利を自覚していた。
バニーレッドとしてのあかりのファイトスタイルは、空手をベースにした近接格闘。タイマン勝負なら無類の強さを発揮するも、集団との戦いは得意では無い。個体としてのゴブリンは弱いが、数で押しまくられたらどうなるか--
そしてそんなあかりの緊張を見透かしたように、副キャプテンはニヤリと嗤うと、残りのメンバーたちへと指示を出す。
「イイですカ? 全員で一斉ニ飛びカカるのです。モチろん、ソコの青ウサギちゃん、ソシてセーラー服の子ニモ同時ニ、ね」
(……くっ!?)
副キャプテンの的確な指示に、ますます緊張を強めるあかり。そうでなくても「一対多」なのに、更に二人を同時に守りながらの戦いは凄まじく不利だ。かと言って二人を見捨てることなんて絶対できない。「どちらか一人を」も論外だ。でも、それなら一体どうすれば……!?
バニースーツの剥き出しの背中にジットリと汗を浮かべながら、あかりは必死に考えを巡らせる。だが、そんなあかりを嘲笑うかのように、ジリジリと包囲の輪を縮めてくるゴブリンたち。
そして、ついに後一跳びの距離まで迫る中で、勝利を確信した副キャプテンが「全員カカレ!」の号令をかけようとした--
まさにそのときだった!
「--今デス! あかり、『ジャンプ』するネ!!」
不意に「真上から」聞こえてきたその声に、ハッ!と気付いたあかりが両脇に宗春と碧衣と抱えるや否や、すかさず《神気》を発動する!
「《神気解放》! 《バニー・大ジャーーーンプ》ッ!!」
瞬間! あかりの両脚に秘められた《ウサギの跳躍力》が最大解放され、両脇に二人を(あとお土産の袋を)抱えたまま、あかりの身体が大きく空に跳び上がる!
そして入れ替わるように「落下」してきたのは、通常の何倍もの大きさに巨大化した「杵」を振りかざした黄色いバニースーツの少女--キイロだ!
「《神気解放》! バニー・ブレイクッ!!」
白い燕尾服をたなびかせ、ノリノリな声でキイロは叫ぶ! 瞬間、《ウサギの餅つき力》を解放した《神器》が更にググン!と膨れ上がり、今や自分の身体よりも巨大になったその杵を、キイロは「セーノ!」と大きく振りかぶると--
密集状態のゴブリンどものただ中めがけ、思いっきり振り下ろした!!
「《大ぺったん!! バニー・メガトン・クラーーーーーーシュ》!!!」
「「「ウッぎゃあああああああああああああ!!!!」」」」
《神気》を帯びた巨大な杵が、軌道上にいた複数の小鬼をひとまとめにして押し潰す!
しかもそれだけに止まらず、ゴブリンどもを粉砕した巨大な杵が、そのままの勢いで地面にぶち当たったその瞬間--!
まるで爆弾が落ちたかのような轟音と共に、すさまじいまでの閃光がその場所を中心に溢れ出した!
ドッッゴオオオオオオオオオオンンンンン!!!!
爆風のように広がる閃光が、驚愕する副キャプテンを始め、密集していたゴブリンの群をあっという間に飲み込んでいく! 悲鳴を上げる暇さえ与えられぬ中、緑色の小鬼たちの姿は閃光の中に溶け去っていって--
やがて光が収まった時、十八匹もいたゴブリンの姿は全て消え去り……後にはただ、大きくえぐりとられた地面だけが残されていた。
次回で第3話はおしまいデス。日曜日に『エルガイザー』とW更新予定!




