その4「うん、やっぱり殺そう(真顔)」
続きデス!
その4「うん、やっぱり殺そう(真顔)」
「……あかり、入るよ」
碧衣が個室のドアをノックすると、中から「うん……」と弱々しい返事が返ってくる。いつもの元気さがまるで無い、実にしょんぼりとした声色だ。
カチャリとドアを開けて中に入ると、まずはすぐ脇にトイレ付きユニットバスの扉があり、正面には8畳ほどの広さの畳の間が広がっている。宿坊の二階の個室は間取りこそみな同じだが、そこはやはり個性が出るもので、実用本位で素っ気ない碧衣の部屋とも、色々カオスな(あれはすごい……)キイロの部屋とも違い、あかりの部屋はとても女の子らしい。まぁところどころに空手グッズとかもあるのだが、基本は可愛い系で統一されている。
キリッとした顔立ちと、生徒会長としての堂々たる立ち居振る舞いから、学園では「王子様」扱いされているあかりであるが、しかしその実体は「乙女」であることを、この宿坊の関係者なら全員知っている。
そしてその「根っこは乙女な学園の王子様」は、お気に入りの「鯉のぬいぐるみ」を胸に、しょんぼりと畳に三角座りをしていた。
「……いつまで落ち込んでるのよ。まったく、見てらんないったら」
「だってぇ……」
弱々しくそう答えると、ぬいぐるみにギュッと顔を埋めるあかり。
実は碧衣は知っている(以前ガサ入れした)。そのコイキ〇グのパチ物感溢れるビミョーなぬいぐるみには、お腹の部分にファスナーがあり、その奥にはリモート中の画面をスクショして手に入れた「あの男」の画像が入れられていることを……って、この乙女がっ!
(いくらちょっとばかり「借りがある」からって、あんな情け無さそーなガキのどこがいいのよ!)
小さく舌打ちする碧衣だったが、とはいえ、そんなところがあかりの可愛さなのもまた事実だ。それに碧衣だって、ポスターサイズにプリントアウトしたあかりの写真を部屋のあちこちに貼っているから似たようなもの(?)だし。更には写真付きの抱き枕とかも……
「裸見られたぐらいが何よ。通りすがりの犬に見られたって、別に恥ずかしくないでしょ? それと同じだって思いなよ」
……と言いつつも、そもそも碧衣自身が全然平気では無い。あんなヤツがあかりの美しい裸体を見たのかと思えば、ぐらぐらとはらわたが煮えくり返る。宮島さんが必死に羽交い締めにして止めてなければ、命までとは言わなくても、目玉ぐらいはくり抜いてやったというのに……!
「でも、それだけじゃないの。実は怪異との戦いの時に、その……一緒に縛られて、密着とかもしちゃったし……」
よし、殺そう(真顔)
「しかもその後、《バニー・ブレイク》したから、その、は、『発情』しちゃって……」
「『発情』して!?」
思わず目を剥く碧衣に、顔を真っ赤にしてあかりが続ける。
「その……つい勢いでキスを……しかも大人な方……」
訂正、むごたらしく殺そう(ますます真顔)
「あ~ん! こんなの絶対嫌われちゃったよぉ!! カッコ良くって素敵なお姉さんになろうって思ってたのに、絶対幻滅された~!!」
(………………乙女すぎる……)
ぬいぐるみを抱きしめたままジタバタするあかりにさすがに呆れはしたものの、かと言ってこのままにしておくわけにはいかない。起こってしまったことは仕方無いが、ここは従姉妹として、私がキチンとフォローしておかないと--!
そう決意した碧衣は一瞬で策を巡らせ終えると、「あのさ、あかり」と真面目な口調で語りかけた。
「あかりはさ、男の子に免疫が無いから誤解してるよ。そんなことで幻滅なんかするわけないじゃん」
「…………そう、かな……?」
誰よりも信頼する従姉妹の言葉に、半べそ状態だったあかりは少しだけぬいぐるみから顔を上げる。そんなあかりにフッと優しく微笑みかけると、続けて碧衣はキッパリと言い放った。
「それどころか、内心めっちゃラッキーだぜ!って狂喜乱舞してるよ。やったぜ、一生モンのオカズGETだぜッ!ぐらいの勢いで」
「え”え”え”え”えええっ!?」
思わず叫ぶあかりに、まるで判決を下す裁判官のような厳粛さで碧衣は続ける。
「あかりの夢を壊して申し訳無いんだけど、思春期の男子ってのはね、性欲のみで構成されてる『ケダモノ』なの。エッチな年上のお姉さんなんて、むしろ大好物だね」
「は、春くんはそんな子じゃないもん!」
「それは幻想。しょせんあいつも男だよ。いい? あかりがここで落ち込んでる間、あいつが下で何してたと思う? ずっと楓楽さんやキイロの胸ばっかり見てたわよ。あと私のこともニヤニヤしながら見てた。アレは絶対、私のバニー姿を思い出してたはずね。穢らわしい」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ……」
「だからね、ホントは裸見られたぐらいですんでマシだったんだよ? もしもあの時私が助けに来てなかったら、裸の男女がお風呂場という密室で二人っきり--いくらあかりが強いからって、興奮した男が相手じゃどうなってたことか……。最悪、貞操を奪われてたかも知れない。そうしたらどうなっちゃうか、分かってるよね?」
「…………………………うん」
碧衣の指摘にハッとなるあかり。そうだ、もしも純潔を失ってしまえば、《玉神様》との契約はそこでおしまいになる。そしたら、じっちゃんの遺してくれた学園を守るために授かった「この力」も--
「分かればよろしい。とにかく、一緒に住むのは仕方が無いとしても、絶対にあいつに気を許しちゃダメ。そうでなくてもあかりは『ちょロイン』なんだから、気をつけないと!」
「……………………………………」
ずい!と顔を近づける碧衣に、あかりは口ごもったまま少し視線をそらす。その表情からは、理屈では碧衣の言うことを理解しつつも、宗春に寄せる想いを整理できていないのが丸わかりで実に忌々しくはあるけれど、でもそれならそれで考えがある!
「あかり、私を見て--」
静かな、けれど有無を言わさぬ呼びかけに、やがてしぶしぶと視線を戻すあかりだったが、そんな彼女を待ち受けていたのは更なる説教ではなく--
「……んんっ!?」
突然、柔らかな唇で唇を塞がれ、驚きにあかりは目を見張る。だが、続けて碧衣の舌が入ってくると、あかりは観念したかのようにその目を閉じた。
「ん……☆ んんん……☆」
巧みに動く碧衣の舌にたっぷりと口内を愛撫され、ようやく解放してもらえたあかりの口からは、唾液の糸と共にはぁ……と甘い吐息が漏れる。
「いい? 『発情』しちゃった時はちゃんと私を頼ること。お互いの貞操を守るために交わした二人の大事な約束--絶対に忘れちゃだめだよ?」
優しく言い聞かせるようにして、甘美な余韻に頬を上気させたあかりを見つめる碧衣。
「うん……」
夢見心地で答えるあかりに、(勝った……)と煌めいた碧衣の瞳が、続けてハートの形に変わる。そして碧衣は打って変わった熱っぽい口調で、あかりの耳元にささやきかけた。
「だったら……いいよね? 今まで我慢してたけど、私、あかりを助けに来るために使った《バニー・ブレイク》で、ホントはすっごく『発情』しちゃってるんだから……☆」
熱い吐息と共にそう告げると、碧衣は返事も待たずにあかりを畳に押し倒す。あかりも最初こそビクッ!とはしたものの、《発情モード》に入った碧衣の情熱的な愛撫に、次第に身体からは力が抜け、すっかりされるがままになっていく。
そしてそこからは、仲良しの従姉妹同士による、甘い甘い時間が始まった--
……と二階はこんな百合なことになってマスが、一階では何が起こっているのか!?
第2話ラストになる続きは次の水曜日に公開予定デス!
次回は挿絵もありますからお楽しみに☆




