その3「清水宗春は正直もう帰りたい」
続きデス!
その3「清水宗春は正直もう帰りたい」
「……で、では、これより、清水宗春くんの歓迎会を始めましょう! わ~~~」
……と、ムリヤリ場を盛り上げようとした宮島さんの声が、そのままひゅうぅぅ……と放物線を描くかのように下降していく。
まぁそれも無理は無い。何せ今のこの場の雰囲気は「歓迎会」などという暖かなものではなく、完全に冷え切った「糾弾会」のそれであったのだから……
(…………岡山に帰りたい……)
場所は一階の食堂スペース。一応「主役」としてテーブルの上座に座らせれはしたものの、宗春は今、切実にそう思う。
場が冷え冷えの理由その1は、ここにいるハズだったあかりが二階の自室に閉じこもってしまっていること。しかも原因が原因なだけに、まずはそれだけでも充分すぎるほど居心地が悪い。
そして理由のその2は--
「……何でこんな『のぞき魔』が私たちの宿坊に入ってくるのを祝わなきゃいけないんですかね? むしろこいつが入るべきなのは独房じゃありませんか?」
冷え冷えどころか氷点下、て言うか今にもぶっ殺しそうな目で宗春をにらみ付けている碧衣の存在だ。
「まぁまぁ。誰もいないと思い込んで、お風呂を勧めちゃったのは私ですし……(その、変身解除したらハイヒールも消えちゃうのをすっかり失念していたというか……(小声で))」
「アハハ、『ドクボー』とかヒドイネ。セメて『ザッキョボー』にしてあげナヨー♪」
ますます小さくなる宗春の横で、宮島さんはただひたすらにおろおろし、我関せずのキイロはキイロで楽しそうにケラケラ笑う。ちなみに用意されていた料理の大半は、他の誰も手を付けようとしない中、キイロがパクパクとたいらげていた。
「そ、そうだ! ここはやっぱり自己紹介とかしましょう!」
いたたまれなさに負けた宮島さんが、何とか空気を改善しようと提案するも、シーンと誰も始めようとしない。焦りまくった宮島さんは「じゃ、じゃあ私から行きますね!」とコホンと咳払いをして、
「えーと、私の名前は宮島楓楽! 年齢は、えーとたしか……そう20歳! 三ツ矢神社の巫女と、この宿坊の管理人をやってます。好きな食べ物は『もみまん』です! よろしくね、宗春くん!」
「は、はい。よろしくお願いします……」
(何で年齢のとこ言いよどんだんだろう……)と思いながらもおじぎを返す宗春に、「じゃあ次はワタシデース!」とキイロが続ける。
「ワタシはキイロ・毛利・ジョンブリアン! アメリカからのキコクシジョで、トシはもうじきセブンティーン! ちなみに三人の中ではワタシが一番のオネーサンでぇ--」
そこで思わせぶりに言葉を切ると、キイロはふふん♪と大きな胸を張って続けた。
「そして何とワタシが『ソーケ』なのデース。つまりリーダー! 一番エラーイ♪」
薄手のセーターでそんなポーズをされると、豊かすぎる胸の形がはっきりくっきり浮かびあがる。駄目だこれは男の子を全力で殺しに来るヤツだ--と慌てて目を反らした宗春に、「……やっぱり変質者じゃない」という碧衣の冷ややかな声が聞こえてきて……駄目だ! こっちも全力で僕を殺しに来てる!!(絶望)
「じゃ、じゃあ次は碧衣ちゃん!」
不穏な空気を察して宮島さんが順番を振ると、チッと舌打ちして碧衣は言った。
「小早川碧衣。4月からは高2。以上」
「そんだけ!?」
あまりの塩っぷりに愕然とする宮島さんだが、碧衣に「これ以上何を?」という目で一瞥されて、逃げるように話を切り替える。
「あとは、今部屋にいるのが吉川あかりちゃん。同じく4月から高2で、この学校の生徒会長でもあるのよ。ちなみに碧衣ちゃんが副会長ね」
「知っています。僕をこの学園に誘ってくれたのは、あかりさんですから。リモートですけど……」
(そして、僕がこの学園に来ようと思ったのも、格好いいあかりさんに憧れたから--)
と、続けようとしたものの、今はとてもそんなことを言える状況では無いと感じて口ごもる宗春。
だって、その「憧れの人」がこの場にいないのは、不可抗力とはいえ(そもそも同居の相手だとか聞いてない!)、自分が思いっきり彼女の「裸」を見てしまったせいなのだから……ゆ、湯気で大事なところは見えなかったけど!(汗)
……ただ、それはこちらが全面的に悪いとしても、思い起こせばこの学園に来てからのほんの短時間の内に、あかりさんには色々と驚かされてばっかりだ。
何せ憧れの人が突然「バニースーツ」で現れるとか、普通思わないよ!? しかも変身ヒロインみたいに怪人と戦うわ、しかもその後は、その、ディ……とか(赤面)いやホントありえないことの連続で、あかりさんという人が全然わかんない……
(……!? そう言えば、碧衣さんもさっきは……)
貧血で意識を失うほんの一瞬のことだったので、もしかしたら夢かも知れないけど、今はそっけないワンピース姿の碧衣もまた、あかりと同じような青いバニースーツ姿だった気がする!
いや、確かに見たはずだ。そう、あかりほどグラマーでは無かったけど、シュッとスレンダーな感じで、それはそれですごく魅力的だった覚えが……
「……楓楽さん。やっぱりこいつ、警察に突き出しちゃ駄目ですか? 何だか今すっごくムカついたので」
思考を読まれた!?と愕然とする宗春の前で、ますます視線の温度を低くする碧衣に、あわあわと宮島さんが仲裁に入る。
「な、仲良くしよーよ! ほら、碧衣ちゃんの方がお姉さんなワケだし!」
「……生憎ですが、私はこんなヤツと仲良くするのはご免です。では」
冷たくそう言い捨てると、話は終わりとばかりに碧衣はガタッと席を立つ。
「あっ、まだ肝心の宗春くんの自己紹介が……」
「興味ありません。それに、あかりが心配ですので」
慌てて引き留めようとする宮島さんを一蹴すると、碧衣は最後にギロリと宗春をにらみつけ、後は振り返りもせずに食堂を後にしていった。
(ぼ、僕はここで本当にやっていけるんだろうか……)
何せそこは美人顔なだけに、そんな風に睨まれると本当におっかなくって、真っ青になってブルブル震える宗春であったが、そのとき一連のやり取りを料理をパクつきながら眺めていたキイロが、不意に横から声をかけてきた。
「ご安心あれデス! キイロは歓迎しマスヨー♪ ムネリンが来てくれて、とってもとってもウレしいデース☆」
「キイロさん……」
まるで地獄で仏にあったかのようなキイロの言葉に、宗春はじわりと目がうるむのを感じる。良かった……僕のことを温かく迎えてくれる先輩もいるんだ……
だが、「よ、よろしくお願--」と振り向いた宗春を出迎えたのは、ニマニマ♪といかにも楽しそうなキイロの笑顔であった。
「ダって、ムネリンがいてくれた方が、何かと退屈しナくてすみそうデスからー☆」
(あ……この人も「アレな人」だ……)
明らかに今の状況を楽しんでる様子のキイロに、くらっとめまいを感じる宗春。だが、一方のキイロは、そんな宗春の絶望など気にするどころか、むしろ積極的に楽しむ構えで、声高らかに歓迎会の続きを宣言した。
「ジャあ。歓迎パーティはココからが本番ネ! フーラン、『アレ』をジャンジャン持って来てくだサーイ♪」
さぁどうなる歓迎会??ということで、続きは次の日曜日に公開予定!




