やわらかいほっぺ、ミルクのにおい
目を離すと死ぬかもしれないぐらい儚い存在なのに
泣き声は力強い。生命力の塊。
思い出せなくなる前に残しておきたい情景は
目の前でライブで堪能しまくった。
記憶は曖昧だから都合がよくていい。
当時の我が家は賃貸物件だった。
治安と学区の評判の良さを不動産屋から聞き、内見をして入居を決めた。
引っ越しの時には夫の両親が張り切ってやってきて、終わっていない荷造りや退去前の掃除、ちいさなちいさな我が子のお世話をしてくれた。
ありがたいなぁ、そう思わないといけないんだろうなぁ。
初孫に喜ぶ義理の両親を、年上の夫が気に掛けるのも当然だし
独身の頃、半年に一度やってきては息子の世話(細かい箇所の掃除や、溜まった新聞の回収などだろうと推察する)をするのが楽しみだったであろう夫の母を思えば
引っ越し初心者、家族として新参者の私には意見などできる訳もなかった。
今思えば夫が楽だったからかもしれない。
自分の労力を使うことなくどちらにもいい顔ができるから。
そこに私の心的負担は考慮されていない。
引っ越した先は前の住居より日当たりがよく、広く、風通しも良かった。
初夏、網戸にしているとレースのカーテンがぶわりと揺れて
電気を消してもまだ明るいリビングのラグの上で仰向けに寝転がった息子が、両手両足をぱたぱた動かして運動をする。
横で同じように仰向けになり、
この人の見ている景色はどんなものかしら、と見たりして。
変哲のない天井とシーリングライトぐらいしか目に入らないのに
ふん、ふん、ふん、ふん
まるで筋トレをしているみたいな規則的な動き
つかまり立ちドヤァなんてまだまだ夢みたいだった頃の思い出。