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誠に僭越ながら 私 アイドルを始めました①  作者: ODN(オーディン)
夢見る少女と家庭支援用AI
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5.「夢」


tan(タン)・tan//ta・ta・tan…」


あの夏の日を境にアイ様はアイドルへの道を走り始めた。

ダンス、バレエ、水泳…と今までの習い事で培った経験を総動員した上で体力づくりにいそしみ、ボイストレーニングは毎日欠かさず決まった時間に行うように努めていた。


【お疲れ様でした。アイ様】


「はぁ…はぁ‥ありがとう。いま…撮ったの…見せてくれる?」


ダンストレーニングを終えたアイ様にタオルとスポーツドリンクを差し出すと彼女は息をつくことも無く私が録画した映像を要求した。


【こちらになります】


映像データをコピーしたアイ様の端末を渡すと、汗を拭くことも忘れてアイ様は映像に熱中してしまう。


「やっぱり…ここは‥こう、か。———やっぱり、もう一度先生に見てもらった方がいいのかも…」


【汗…お拭きしますね】


邪魔にならないようにタオルを優しく顔に当て、丁寧に汗を拭き取っていく。


…トレーニング映像の録画、徹底した食事管理、訓練メニューの構築など‥私は新たな役目を仰せつかった。今までの私がしてきたことは家事とアイ様のお世話をさせて頂くことだけだったが、あの日のアイ様の言葉をきっかけに私は本当の意味でマスターを支える仕事をさせて頂いている。


「ただいま」


習い事から帰ってきたその言葉から私はアイ様の機嫌を予測するだけ…。

マスターを見送って、それから帰って来るのを出迎える日々を送っていた私…。

そんな私が今、こうしてアイ様の頑張る姿を目の前で見守りながら、それをじかに支えている。…まさにAI冥利に尽きる素晴らしい役目ではないだろうか。




〈—————私、アイドルになる〉



…今夏の始めての「ただいま」の次に出てきたマスターの御言葉。

いったい、何が、どうして私のマスターが〝アイドル〟なるもの目指すのか分からず尋ねようとすると、


〈———だからお願い。手伝って…くれる?〉


次に出てきたマスターの言葉。私にとってそれは魔法のような葉だった。


【畏まりました。マスター・アイ様】


断るはずがない。

右手を腰に、左手を腹部にあてながら頭を傾けて私はこれをうけたまわった。


【ですが…どうしてアイドルなのですか?】


体を傾けながら尋ねると、アイ様は


「実は今日ね。不思議な()に出会ったの。…その子がね――――」


と言って更に話を続けた。…なんでも今日の習い事で出会った人物じんぶつをきっかけにアイドルを志したのだという。


【…一体どんな人だったのでしょうか…】


顔も知らぬ誰かを思い私が思考回路を巡らせていると、


「私…輝けるかな」


アイ様が小さく呟く。

それは不安とまだ見ぬ未来への展望――〝夢〟と呼ばれる不確かなものを抱いたマスターの心中だったと思われる。


【はい勿論。なぜなら…】


故に私はこう答えた。…この奇怪(きかい)な電子音では決して伝わりきらない想いなのかもしれないけれど、その全てを声に込めて私は言葉にした。



〝アイ様は、いつだって私の希望の星なのですから‥‥〟



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