第64話 難関
グロリア 門
三日目の夜がきた。
漆黒の刃の人達は、それぞれのポイントで待機。
災害の兆候が確認できたら、風の魔法を行使して、各ポイントから噴き出した闇の魔力を町の上空に吹き散らす事になった。
あとはサテライトを作って、空に打ち上げ、誘導した闇の魔力をその鋼鉄の物体に吸着させる。
それがうまくいけばこの町の人達は、無事に明日を迎える事ができるだろう。
各ポイントにいる者達は、チャットを通じて連絡をとる。
チャット機能の調整も事前に済ませているので、これまでのループのようにうっかり使えなくなるなんて事も、たぶんないはずだ。
やがて、人の生活音がすっかり途絶えた事。
運命の時がやってきた。
そんな中、風船型魔獣に襟首をぱくっとされながら、上空に浮かんでいるなあちゃんが行動。
なあちゃんが召喚した動物や魔獣たちが、シュナイデの町にふりそそいだ花を、このグロリアの町の各所へ振りまいた。
この花びらには、魔力が詰まっている。
だから、未利の魔法と愛称が良いらしい。
どこかに潜んでいる未利が、魔法を行使。
魔方陣が広がり、町の上空にサテライトが複製される。
空に鋼鉄の物体が形成された。
もう少し早い時間だったら騒ぎになっていただろうけれど、今は深夜。
気付く人は少ないはず。
鈍色の物体が、星月の明かりをうけて、輝いている。
その瞬間。
各地で異変が起こった。
轟音を立てて、地面が隆起し、一瞬のうちに大地が爆発。
予想していた各ポイントから、一斉に闇の魔力が垂直に吹き上がった。
このまま何もしないでいたら、その吹き上がった闇の魔力が周囲に広まってしまう。
だが、今回はそうはさせない。
黒いツバサを呼び出して上空を飛翔していた姫ちゃんが、火薬で作った即席花火を打ち上げて、各員に合図を送る。
作戦決行。
さて、気合の入れ時だ。
各ポイントにいる漆黒の刃メンバー達が、一斉に風の魔法を行使。
周囲にまき散らされようとしていた闇の魔力を包み込んだ。
それと同時に、町のどこかにいる未利が魔法を行使。
戦意高揚させるようなテンポの速い曲が流れる。
町全体に魔方陣が形成された。
種類は魔力ブースト。
魔法の威力がブーストされているから、これでエネルギーが足りなくなるなんて状況にはならないはず。
漆黒に刃メンバーは、そのまま風の魔法を行使しつづけ、包み込んだ闇の魔法を、上空へ誘導させる。
その先にあるのは、サテライト。
星月の光に照らされて鈍く光る鋼鉄の物体が、闇の魔力を吸収していった。
これで、大災害への対処は終了。
あっけない終わり方だったけど。
苦労しないに越したことはない。
けど、まだ問題が残っている。
それをどこかで見ていたのだろう。アスウェルがやってきた。
彼は感情をうかがわせない表情と声音でこちらに問いかけてくる。
銃をつきつけながら。
「何をした」
「見ての通りだよー」
「こんな事」
「今までにはなかったことだって? だったら頑張ったかいがあったよー」
ふと思った、アスウェルはどうしてループしてるんだろう。そう思った。
未利は無事だ。
アスウェルがいない時でも、彼女は無事だった。
僕達が助けに行ったからというのもあるけど。
それなのに、なんでループしてるんだろう。
僕は、近くにいるヤコウモリに目配せ。
ヤコウモリは仲間を呼びに空に舞い上がった。
「君は一体何がしたいの? どうしてループしてるの? 君がループしてるのって未利を守るためだよね。でも、今までの世界で君は未利の傍にいない事があった。それはどういう事?」
とらえず、僕は時間稼ぎをしなければならない。
たぶん一対一ではかなわないから。
「お前達もその力を使ったのか」
「質問に答えてくれないかなー。君は本当は未利を守るつもりなんてないんじゃないー? もっと他に別の目的があるんじゃないかなー」
「……それをお前達に話す必要性はない」
「ふーん」
それじゃ、困る。
話している間に、どこかで爆発音がとどろいた。
魔法の種類を考えると、アイナと誰かだろうか。
僕は、必死に頭を回転させて、会話を引き延ばせないか考える。
「君は本物っぽくない」
「……」
「だって本当に彼女を助けたいなら、もっと戻るべき場所があるよね? もっと手を差し伸べるべき瞬間があったよね? なのに、なんで見るのはここだけなのかな? それとも彼女が深く傷ついていた時の事知らないとか?」
アスウェルは、誘いに乗るだろうか。
挑発は効いているかどうかわからない。
「そもそも永野未来はこんな自分勝手な人間だったの? 相手の意思を無視して助けようとする君は、おかしい。君の行動全部が、その大切な人の意思を無視してるんだから」
「うるさい」
網には、ひっかかった。
「うるさい。うるさい。うるさい」
感情をあらわにしたアスウェルは憎々し気にこちらをにらみつける。
「何も知らないくせに、お前なんかじゃ何も分かれないくせに。誰にも分かれない。分かるはずがない!」
銃声が一発とどろいたけど、激高する彼の標準がブレブレなのは分かっていた。
攻撃はかすりもしなかった。
「……俺が俺じゃないなら、俺は一体なんだ! あいつの眉間に風穴をあけて、首輪をつけてとじこめて、仲間を殺して仲間に殺される俺が俺じゃないなら、誰なんだ! ……俺は、」
「啓区さん!」
そこで時間稼ぎは終了したらしい。
エアロがその場所に到着した。
「ここは私に任せてください。氷裏が、彼の相手をできるのは、今貴方だけです。場所は例の所に打ち込んでおいたので、確認しておいたください」
「うん、わかった」
チャットのことだろう。
この場は彼女に任せて、アスウェルの前から去る。
かけつけたエアロは、どうやってアスウェルを叩きのめすつもりなのだろう。
少しだけ、興味がわいたけれど、やじ馬しているほど暇ではない。
安全な場所まで移動してから、チャットで氷裏出現の場所を知って、その場へと急いだ。
彼がいる場所は、複製施設だった。
あの、ホムンクルス達がカプセルの中に浮かんでいた場所。
そこで対峙しているのは、偽氷裏と戦闘した経験があるウーガナと、ラルド。
そして、三座ちゃんやルミナリア達だ。
彼等には作戦決行の一時間前に、連絡をした。
やはり色々小言を言われてしまったが、仕方がない。
こうして戦力として頼られせてくれるという事は、水に流してくれているのだろう。
「来たか」
氷裏は、こちらを待っていたようだ。
船の中であった時とは若干違う態度に違和感。
「待ってたー? 心境の変化でも?」
「僕は何も変わらないよ。興味のある事に目を向けて、最愛の友人の手助けをして、幸せになれるように協力してあげるだけさ。でも、そうだね。これぐらいは述べても良いだろう」
彼は両手を広げてその一言を口にした。
「僕を使徒にしたシナリオライターが、これを望んだから、かな」
――さぁ、戦いを始めよう。
――報われる事のない努力と共にさ。
end 舞台違い




