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白いツバサ 連なる世界(第九幕if)  作者: 仲仁へび
序章 準備期間
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第5話 弔い




 その後、時間があいたので、エンジェ・レイ遺跡に行って、追加のお仕事にかかる。


 元の世界に帰還する手がかりのため、シンク・カットにある異世界転移装置(仮)の解析をしなければならなかった。


 その際には、外部協力者でもある白髪の老人ヴィンセント・ロメイ・エレメントスさんや、ギルドトーチカから三つ編みの少女三座ちゃんが手伝う事になっている。とても頼もしい二人だ。


 彼らは二人とも頭が切れるので、実際の作業ではスムーズに解析が進んでいた。


 と、三座ちゃんの存在を出したところで、ルミナリアやユミンちゃん達の事を思い出した。


 彼女達は、一足早く中央領へ戻って、人攫い容疑がかかっている聖堂教調査を行っているらしい。


 一応話はしたけど、それでも十分だったとは言え中井。

 二人を見送った姫ちゃんは、とても残念がっていた。





 シュナイデル城 中庭


 もろもろの日程をこなした後の夕方。

 啓区や姫乃達は中庭に集まっていた。


 大きな先らの木の周りに集まって、その根元に花束を並べて死者を悼む。

 木の下にはコヨミ姫がいた。


 シュナイデル城で起きた攻防戦は、激戦を経て幕を降ろした。

 しかし、こちらの被害は軽くない。重傷を負った者や、命を落とした者もいる。


 全体を見ればありえたはずの本来の運命よりは、マシになったはずだ。だがそれでも、わずかな痛みは残った。


「やっぱり、こういうのこれからもあるのかな」


 吹き付けてくる風に赤い髪をなびかる姫ちゃんは、一同を代表して立つコヨミに目を向ける。


 未利やなあちゃんも右に同じくだ。

 小さな領主が死者にかける言葉を紡いているのを見ながら、小声で言葉を発する。


「ん。あんまし、いい気分じゃないね」

「なあもなの。姫ちゃまも、みんなも、しんみりさんしてるの」


 僕らがわずかしか知らない『かつてあった世界(イフ・ストーリー)』では、シュナイデル城は襲撃を受けて崩壊。

 姫ちゃん達は応戦する事もできずに逃げるだけで手一杯になっていた。


 兵士達は多数死傷し、コヨミは生死不明に。

 町の人達の心には、暗い影を残してしまう。


 それと比べればこの世界のこの状況は、まだマシなのだろう。


 けれどだからといって、犠牲達の命の重みが、薄れるわけではない。


 ……。


 城を巡る攻防戦の影響で悲惨な状態になった中庭は、土を覆っていた芝生がはがれ、いたるところが穴ぼこだらけになっていた。


 まだ、復旧作業が始まってからたった数日だ。

 元通りの場所を探す方が難しい。


 そんな場所に、憑魔や漆黒の刃との戦闘の影響が色濃く残ってっている中庭に、仕事の手を止めた大勢が集まっている。


 それらの面々は、庭園の修復作業に従事する者達だけではない。


 見渡せば、食堂で働いている人や事務仕事専門の人、魔同装置研究室の人まで。


 別れを告げるため。

 そして、きちんと悼むためだ。


 僕達は今、ここで、死者との別れの儀式を行っていた。

 こうして人は心に折り合いをつけていくのだろう。


 死んだ人間の安らかな眠りを祈り、生きている人間が次に進めるようにするには大事な事だ。


 だから、こうして一区切りついた今日、慰霊を行っているのだった。


 集団の前に立ったコヨミが、手を組んで目をつむる。


「勇敢に戦った者達に、安らかな眠りが訪れますように」


 同じようにならった者達は、それぞれの姿勢で祈りをささげていった。


 儀式が終わった後、コヨミ姫は悲しむ兵士一人一人に声をかけていった。


「彼はよく訓練場で励んでいましたね。私もたまに目にしました」

「あの人の事、覚えてくださっていたんですね。ありがとうございます、姫様」


 以前より距離が近くなっただけに、部下の痛みも彼女の胸に強く刺さるのだろう。


 僕達とそう歳の変わらない小さな領主は、とても悲しげに見えた。



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