第53話 崩落
その場から緊急避難。
崩落した地下道を背にして、駆ける。
奥の転移台の方には行けなくなってしまったから、入り口から出るしかない。
結構戻る羽目になっちゃうし、時間はかかるけど仕方ない。
そんな中なあちゃんが、背後を振り返りながらおしゃべり(なお、足が遅いので、ハイネルさんに担がれているが)。
「ちょうちょさん姫ちゃまだって思ったの」
先ほどの赤い蝶の事だろう。
それには未利も同意した。エアロですらも。
「感じました。気配を」
「まだ、生きてる……って言ってもいいのか分かりませんけど、生きてるんですね。姫乃さんらしい行動でした」
なら、なおさら助けなくちゃいけない。
僕達がいつまでもここで足踏みしているわけにはいかないから。
けれど、終わりは唐突に訪れた。
入口、急ごしらえで作られた穴の下に、誰かが立っていた。
見覚えのない男性だ。
男性は、こちらを冷たい目で見つめて、そしてその背後に控えていた生物……竜だ、その竜に合図した。
片手をあげて、振り下ろす。
そこにいる脅威は、僕達をまっすぐ見据えながら、大きく息を吸い込んで……。
「まずい!」
火炎がくる。
それぞれがとっさに行動をおこす。未利が風を起こし、今度はなあちゃんも結界を張ろうとしている。
心構えができいたからだろうか。
風が一瞬炎を散らし時間稼ぎ、結界がこちらの身を守る。
今度は間一髪身を守る事が出来た。
けれど、これではじり貧だ。
すると、竜の背中に乗った誰かが、何事かを喋り、そのまま羽ばたいていって上昇。
直後、頭上からがれきが降ってくる。
崩落させているのだ。
上から、生き埋めにつもりなのだろう。
降り注ぐがれきの中、僕達は結界で守られたけど。
そこから出られなくなってしまった。
たぶんこれ、詰んだ?
助けてくれる人間とは連絡がつかない。
外はもうじき災害が起こるから、僕達は自力でなんとかでられないと何日もこのまま。
いや、何日ももたないかもしれない。
酸素が有限だからだ。
まさか今回は、ここまで?
そういう事?
けれど、諦めそうになる心を叱咤する。
だめだ。
楽な道に逃げるわけにか行かない。
アスウェルと同じようになるわけには。
救えるものを、人を、見捨てるわけにはいかない。
そんな事したら、たぶん次の世界でまともに仲間達の顔を見れなくなる。
「ここは……」
「イフィールさん、気が付きましたか」
これからの事について頭を悩ませていると、エアロの声。
イフィールが目覚めたらしい。
彼女は瞬時に状況を把握してくれたようだ。
「手間をかけさせてしまったか?」
自分を助けるために僕達が窮地に立たされた、と思ったのだろう。
イフィールさんを見つけたのは偶然だけど、あながち間違いではない。
彼女を連れて行こうと考えたのは僕達の判断だからだ。
あそこで時間を使っていなかったら……。
そこでウーガナが話しかけるが、
「おい、イフィール。てめぇ、何で……」
「その話は後だ。ここを出る」
手早くあしらわれてしまった。
「今は三日目だろう。時間がない。ここから出なければな」
「あ? アテがあんのかよ」
生き埋めに近い状況を見て取ったイフィールさんは、通信機のようなものを取り出して見せた。
僕が作った物じゃない。なら元からあった物?
この世界にあったなんて。
僕達異世界組が驚くなか、イフィールさんは通信機をいじくる。
「転移したい。そちらの場所を教えてくれ」
「……だ」
ややあって、向こう側から小さくつぶやくような声が聞こえてきた。
イフィールさんは、やや悲しげな顔をして「分かった」と言葉を返した。
「私は不器用でな、起点となる場所に人がいないと転移できないんだ」
「は? きいてねぇぞ。イフィール。なんで隠してやがった」
「聞かれなかったからな」
ウーガナはもちろん、僕達も聞いてない。
イフィールさん、そんな事が出来たんだねー。
でも、それならどうして今まで黙っていたんだろう。
条件があるみたいだから、それ関係?
それとも、何か別の理由が……?
イフィールさんは、僕達を安心させるように笑顔を作った。
「助けを呼んでくる。どれだけ時間があるのか分からないが。何もしないよりましだろう」
先ほどからずっと何か言いたげなウーガナは、口を開けたり閉めたりで忙しい。
イフィールさんは、そんなウーガナに視線を合わせないようにしているようだった。
「風で押しつぶされないように土砂をささえてくれ」
結界を超えて転移はできないから、一瞬だけそれを解くことになる。
その際、がれきに押しつぶされないようにしなければならない。
やるならタイミングが重要だ。
必要な打ち合わせをして、実行する前に、ウーガナが声をあげた。
「おい、待て、テメェ。一人でどうすんだ。歩けねぇんじゃねぇのかよ」
「大丈夫だ。秘策がある」
「秘策だぁ?」
足を怪我しているイフィールさんがどうやって移動することができるのか不思議に思ったけど、今は彼女に頼るしかない。
しかし、彼女は「だが、もし」と続ける。
「もし、次あの姿でお前の敵になった時は……、迷わず逃げろ」
操られている時のことを言っているのだろう。
けれど、あの姿といったという事は、姿が変わっていたのだろうか。
僕達にとっては、分からない事だらけだ。
「できるわけ、ねぇだろうが。てめぇは、本当は……」
ウーガナの口がそれ以上の言葉を紡ぐ前に、イフィールは人差し指でとめた。
「今までありがとう」
「イフィール! 俺は……っ」
「やるぞ」
結界をといた。
暴風がこちらを押しつぶそうとするがれきを支える中、イフィールさんはその場から消えていった。




