第35話 大災害の発生
町中 『姫乃』
深夜、本来ならこの時間はみんなが寝静まっている頃。
草木も眠る頃合いで、夢の国で楽しい夢や怖い夢などを見ているはずだった。
けれど、その日は違った。
イフィールさんや未利達を探した後、姫乃達はいったん聖導教会へ戻った。
ヒントとなるものがないか、何でもいいので得たかったからだ。
けれど、結果は何もない。
シュナイデル城にも連絡がつかない。他の面々にも。
無駄な時間を過ごすしかなかった姫乃は、翌日の捜索の予定を組んで数時間ほど休憩した後、また町に繰り出す事にした。
だが、その中で災害が起こった。
中央領の各地で闇の魔力が噴出しはじめたのだ。
闇の魔力にさらされた生物は、正気を失い狂暴化する。
事前に知識を得ていた姫乃達は、魔力が噴出している場所を避けながら安全な所へ移動した。
けれど、風向きが悪かったのか、町全体に充満していって……。
「あああぁぁぁ!」
「がぁぁぁ!」
「誰か、助けてくれ!」
「苦しい! 痛い!」
町の中はまるで地獄絵図だった。
人々は正気を失って、凶気に侵されていく。
人によって耐性があるのか、動けるものも数名いるようだ。
けれどそんな人たちも、徐々に正気を失っていく。
暴れまわる人々で、苦しみのたうちまわる人々で、夜の町が満たされていく。
どこかの施設の屋根上に移動して、なあちゃんが結界を張り、身を守っている姫乃達にはどうすることもできない。
「そんな、こんなのって」
助けたい、何とかしたい。
けれど、それはかなわない。
浄化能力を発現させてない姫乃では、目の前の一人も救えない。
災害の渦中にある町の中で、姫乃達は圧倒的に無力だった。
「未利達、セルスティーさん達は……」
この町にいるはずのルミナリアや三座達の事も心配だった。
こんな風景を見つめるのは姫乃だけではない。
なあちゃんも、エアロやディークさんもショックを受けていた。
「ぴゃ、なあ達なにもできないの。すごくくるしいの、とってもすごくやなの。何かしたいの」
「どうしてこんな。こんな風にひっくり返されたら、私達が頑張った意味が、ないじゃないですか」
「こんなのあんまりだ。一体どうなってるんだよ」
それは、ハイネルさんも同じようだった。
言葉にしないものの、目の前の光景をみて顔をしかめている。
「兄貴……」
「いうな、ディーク。私にはどうすることもできん」
こんな状況だが、姫乃だけは外に出られる。
姫乃は、闇の魔力がきかないからだ。
それは、魔大陸で活動した時に証明されていることだ。
だから、姫乃だったら何か、何か事態を打開する方法が見つかるかもしれなかった。
けれどそれは、こんな町の中で仲間達を置いていくという事だった。
そんな姫乃に、エアロが声をかけた。
「姫乃さん、お願いします」
その言葉にディークも気づいた。
「あ、そっか姫乃様なら、この中でも活動できるんだっけ」
「この状況では、それしか方法がないでしょう」
結界の外は、すでい黒い魔力で満ちている。
もう、仲間達はここからどこにも行けない。
姫乃が状況を打開できなければ、末路は分かりきっているだろう。
けれど、それでも彼らは背中を押してくれた。
「でも……」
「迷っている場合ですか? 他にもたくさん人がいるんです。この状況を何とかできるのは姫乃さんしかいないんですよ。だから、行ってください」
うなずきたくなかった。
本当なら、離れたくなかった。
けれどそれでは、もともと少なかった可能性がすべてなくなってしまう。
だから、姫乃は頷いた。
こんな事、前にもあった。
ロングミストの町に入る時の事だ。
あの時、バール達をおいて町の中に入らなければならなかったとき、とても心苦しかった。
だが、今の苦しみはその時の比ではない。
彼等には悪いが、ここにいるなあちゃんもエアロも、ディークやハイネルも大切な仲間となっている。
過ごした時間の重さが、そのまま痛みに変わっていくのだ。
「必ず戻るから」
姫乃は、そう言って、誰かへと願う。
黒の翼が背に宿るのを見て、結界が解除。
姫乃はすぐに飛び出した。




