第33話 消失
なあちゃんに遅れて姫ちゃんも話しかけてくる。
「近くのお店の人がね、分けてくれたんだよ。ここで困った風に立ってたから心配してくれたみたい」
「そうなんだー。それはちょっと罪悪感ー」
「林檎に似てるこれは、アップナって言うんだって。アップナ飴……になるのかな」
「ジャムだったら、アップナジャムだねー。あ、姫ちゃんも食べるー?」
意外と美味しいりんご飴ならぬアップナ飴。
このまま一人で食べるのは勿体ないと思ったので、そう提案するが。
「私達も、さっきもらっちゃったから」
もうお試し済みのようだった。
りんご飴って固いけど、よく短時間で食べられたね?
小さめものだったのかな。
「戻る時にお土産に買ってあげたいねー。痛まないようにできたらいいけどー」
「うん、コヨミ姫や選達も喜ぶんじゃないかな。一口で食べられるのも売ってたよ。後で甘い物好きかどうか聞いてみよう」
とりあえずアップナ飴をお土産として持ち帰る予定が入った。
こういう役どころは、いつもは僕がやる方なんだけど。
今日は逆転してしまったみたいだ。
姫ちゃんはこちらの顔を覗き込んだ。
その瞳には心配げな光。
「あの時から、だよね」
「?」
「水礼際の前、星詠台で話した時から、なんだか時々無理してるように見えて。未来が分かる事ってやっぱりつらい?」
「それほどでもー。未利やコヨミ姫を助けた後は見えなくなっちゃったしー」
「啓区のその言葉、あんまりあてにならない気がする」
おっと、思わぬ人からの反逆だー。
「なんだかちょっと心配。……一人であんまり抱え込まないでね。未利もそうだけど、啓区も結構一人で頑張っちゃう所があるし」
「あはは、分かったよー」
よく見てくれてる。
心配をかけてばかりだなと思う。
その通り、ちょっと無理はしているかもしれない。
言葉にはしないけど。
けど、姫ちゃんは優しいから、それ以上はつっこまないでいてくれる。
「未利は辛いの好きだから好みに合わないかもしれないけど、教えてあげたいな」
「そうだねー。見つけたらまずはお叱りして、罰を言い渡さなくちゃだけどー」
「すごく心配してるね」
それは姫ちゃん達も同じという事で。
そんなやりとりを交わしていると、視界の外にいたなあちゃんが何か飛び跳ねた。
「ぴゃ!?」
「あ、なあさんどうしたんですか。そんなに驚いたような顔をして」
「なあ驚いちゃったの。うんと、……なんでなの?」
しかし、それは勘とかフィーリングが作動した結果らしい。
詳しいことが分からず、首をひねっている。
得心が言ったようになあちゃんが、言葉を紡ぐ。
「わかったの! 大変なの! 啓区ちゃまが……」
けれど僕は、それを最後まで聞くことができなかった。
「あれ?」
感覚で分かった。
自分の存在が揺らいでいるという事に。
この世界が遠のき、自分という存在が薄くなっていく事が。
「なん、で……」
予兆なんてなかったはず。
未利の心域に行ってからは安定していたはずなのに。
それはいきなり来た。
なぜ、と思うも思考が答えにたどりつかない。
いや、今やるのはそんな事じゃない。
やるべきことは。
僕のやらなければならない事は……。
焦燥に突き動かされるまま、口を開く。
何も決めてない。
何も思いつかない。
けれど、何かを伝えなくちゃと思って、それで……。
「姫ちゃん……」
「啓区?」
異変を察知した少女。
彼女が手を伸ばす。
けれどそれは届かない。
「ごめ……」
僕は世界から消失した。




