第32話 さら地
ボア研究所
研究所に行ったら、未利とメリルさんが出かけていた。
僕達が来ることは前もって知らせていたから、用事ではないようだ。
研究所の前にいた女の子(ネコウ扱いされていた黒髪の子だ)が、強盗に人質にされてしまったので、それを追いかけていったとか。…事件だった。
僕達がやってきた時、見張りの人がそんな事情を教えてくれた。
一同、総じて無言。
「「「……」」」
まったくどんだけ困ったちゃんなんだか。
話を聞いたエアロが一番頭をかかえていた。
「あの人は……」
彼女がいてくれたら、引き留めてくれたかもしれない。
距離を縮めつつあるエアロだけど、厳しくするところは厳しくしてくれると思うし。
でも、メリルさんだったから……。
「未利ちゃまいないの? しょんぼりさんなの」
彼女から見た未利は、新米兵士の後輩で、特務隊の一人だけど、お客さんで、城を守ってくれた恩人の一人だしで、色々強くは出られないのだろう。
姫ちゃんは、なんとも言えない顔をしている。
「とりあえず、報告があるか確認してみるねー」
僕はチャット画面を開く。
しかし、そのような連絡は入ってきてない。
うすうすそんな予感はしてたけどねー。
良いか悪いかでいったら、悪い方に傾いた予感で。
彼女達が巻き込まれたのは、まだ事件が現在進行形?
未利達に余裕がないのかも?
時間からして、すぐさっきの事らしい。
なので近くにいる人に、セルスティーさんに向けた伝言を預けた後、僕達も急いで町へ繰り出した。
レミーになっているはずだから、彼女の目撃情報を頼りに探すのだけど、あるところを境にぱったりと足取りが途絶えてしまった。
それは……。
「またここに戻ってきちゃうかー」
さきほど訪れた場所だった。
華麗なる二度手間だ。
先ほどの事を思い出しながら姫ちゃんが目の前のさら地を見つめる。
「ここって、さっきアスウェルさんが見てたお店……があった所だよね」
しかし、さら地だ。
僕達の目の前には、建物も何もない。
視線の先にはさびれた人形店があった、はずの場所。
しかし、今そこに店があった痕跡すらない。
護衛組が調べてるけど、何も見つからないようだ。
アスウェルがいた事が気にかかる。
あの時、もっと考えておくべきだった。
ループの知識があるなら、ここで何か起こるという事も知っていただろうに。
何が起こった?
氷裏の罠?
それとも漆黒?
黒髪の少女は?
あの女の子もグルだった?
「してやられたわけだー」
攻めに来たのに、結局は後手後手に回っているこの状況。
僕達は一体どれくらい敵に後れを取っているのだろうか。
途方にくれる僕達。
これからどうすればいい?
とるべき行動に迷った。
護衛組の人達は、何か話し合っているようだけど。
そんな中、なあちゃんに小ぶりな林檎飴……のようなものをさしだされた。
一口で食べちゃえるくらいの大きさだ。
気温でとけた飴のせいだろう。やさしい匂いが鼻孔をくすぐる。
「甘いものを食べると、なんだか心がほわってするの。どうしよーってなってるけど、なあ啓区ちゃまにもうちょっとほわってしてほしいの」
どうやら心配させてしまったようだ。
受け取った林檎飴……のようなものをなめる。
あまい。
確かにちょっと落ち着いたかも。




