第31話 遭遇
幸いにもセルスティーさんや未利、メリルさんとはチャットできた。
無事を確認したことで、少しだけ軽い気持ちで通りを歩く。
しかし、その最中。
思わぬ顔ぶれと遭遇した。
最初のその人物を見つけたのは、姫ちゃんだったのよう。
「アスウェルさん……?」
茶髪でくせ毛の少年。
何かを警戒しているようにピリピリとした雰囲気をまとっている。
彼も中央領に来ていたようだ。
どうやってかは知らないけど、未利がここにいるのだから来る事自体は予想できた。
視線の先のアスウェルは、さびれた人形の店をじっと見つめている。
そんなアスウェルの姿に気づいて、猛烈に嫌そうな声をだすエアロ。
視界にも入れたくないといった様子。
「あの人は……」
嫌そう、というか事実嫌なんだろうけど。
隠さなさすぎる。
エアロは立ち止まった姫ちゃんに声をかけた。
「まさか、声をかけるつもりですか?」
「ダメかな。だって、アスウェルさんは未利を守ろうとしてるんだよね。協力できるなら、そうしたいって思う」
「無理ですよ。あの人は、ちょっと心がアレなんですから、アレは未利さん以外目に入ってないですよ」
「そういう思い込みはやっぱりしたくないよ。とちあえずちゃんと話してみないと……何も話さずに敵だって決めつけちゃうのはやっぱりよくないと思うから」
まあ、分かってた事だけど姫ちゃんだったらそういうよね。
「はぁー……」
深い深いため息をつくエアロ。
一応制止はしないが、警戒はするようだ。
懐に手をのばして、いつでも杖を向けられるようにしている。
そんな成り行きを見ていたなあちゃんは、首をかしげているだけだ。
アスウェルの方をみてつぶやく。
「ふぇ、なんだか変な感じなの。心の中ぐるぐるさん?」
「どうしたのー、なあちゃん。何か不審な……おかしなとことかあったー?」
アスウェルは常に全体的に不審だが、なあちゃんが言っているのはそういう事ではなさそうだ。
気になったので尋ねてみるが、彼女自身にもよくわからないようだ。
「うーん、よく分からないの。でもなんだか心が分からないの。初めてなの」
ある程度人の心の内が見通せるなあちゃんに分からないとは。
アスウェルへの警戒心が一段階ひきあげられた。
もともと最上級だけれど、まだ上がる余地があったらしい。
その間に姫ちゃんはアスウェルさんに話しかけていた。
ただし、ディークさんやハイネルさんには離れていてもらって。
そういうとこ、本当に姫ちゃんらしい姿勢だ。
「アスウェルさん」
「……」
話しかけられたアスウェルは無言。
数秒して、人形店から視線をはずした。
代わりに姫ちゃんに向けるのは、じっと物でも観察するような視線。
さすがの姫ちゃんでもたじろいだ。
が、すぐに言葉をつむぐ。
「あの……私達、いま聖堂教の事を調べているんです。何か知っている事があったら教えてください」
未利達の情報によると、アスウェルは聖堂教の事をよく思っていないらしい。
だから、協力しあえるかもしれないと思っているのだろう。
「お前たちと手は組まない」
けれど、アスウェルはそんなすげない返答。
こっちの事、最初から何も信頼していないみたいだ。
アスウェルはループ能力を行使している疑いがある。
だからもしかしたら、僕達の知らない所で何かがあったのかもしれないけど、そんな事情、こちらには分からない。
だから余計に、彼の態度にイライラしてしまう。
しかしけなげな姫ちゃんは、なおも言葉を紡いでいる。
「どうしてですか。私達の事、どうして信じてもらえないんですか?」
「それを言う必要があるのか」
「私達はアスウェルさんと敵対したくありません」
「味方になってくれなくてもかまわない」
「力になりたいんです」
「……」
必死な様子の姫乃から、アスウェルさんは目をそらした。
もしかして、今のはちょっと聞いたのかな。
しかしアスウェルは一言だけそう言って、その場を去っていってしまった。
背中でかけられる言葉の中身は拒絶一択だ。
「自分達の問題を解決してからにしろ」
姫ちゃんは目に見えてしょんぼり。
「ごめん。うまくいかなかった」
そんな姫ちゃんにとりあえず僕とエアロでフォローの言葉を入れる。
ここに未利が入れれば、もうちょっといじったりして、場をなごませることができるんだけど。こういう時にいじられ役がいなくてどうするんだって気持ち。
「姫ちゃんのせいじゃないと思うよー。あれは誰だってあんな態度だと思うしー」
「そうです。悪いのはすべてあの人のせいです。あの人があんななのが悪いんです」
まあ、エアロほど極端な意見ではないけど、思わせぶりな事ばっかしてるアスウェルには若干いらっとするよねー。
何があったのかは知らないけど、いつまでもうじうじしてないでほしい。
あ、でもそれちょっと僕にブーメランだった。
言葉がないので、落ち込む姫ちゃんの行動はハイネルさんが促す。
「ここで立っていても仕方がありません。当初の予定通り、研究所へ向かいましょう」
「そうですね。早く行って、皆に説明しないと」
ああ、この場合。
へたな慰めより、先の予定の事を言ったほうが効果的だったかもしれない。
姫ちゃんだったら、悪くないって言っても絶対気にしちゃうだろうし。
歩き出した瞬間、横から歩いてきた誰かがぶつかった。
「あ」
すぐに謝ろうとしたけど、その人の姿が見つからなかった。
「気のせいかなー?」
大した事が無いと思って。
だから、今は他に考えるべき事がある、とその出来事はすぐに忘れ去ってしまった。




