第24話 個人情報流出事件の顛末
「保留という事にしておきましょう。しかし、こんな事して、氷裏は一体何がしたいのやら」
「普通じゃないし、まともに考えない方が良いんだろうねー。案外動機は単純かもしれないよー。パーツが壊れたから、とりかえようみたいな」
「まさか、そのためにこんな施設を……。いえ、的外れだと言い切れませんね」
やりかねないが、理解はしかねる。といった様子で、エアロは何気なく啓区が見ていた資料をめくっていく。
「この調子だと、ここは氷裏さん関連の施設だと見ていいんでしょうかね」
だが、偶然開いたそのページの一枚には。また見知った顔があった。
「えっ?」
意表をつかれたといったような彼女の言葉を聞いて、啓区もそのページを覗き込む。
この事実の開示は、タイミングが良すぎる。
今日ここに来ることが仕組まれていたかのような気持ちになってくる。
なぜなら、めくったページのそこにあったのは、エアロの写真だったからだ。
見慣れた顔より少し若いが。亜麻色の髪につき色の瞳。
真面目そうな表情は、まさしくここにいるエアロのもだった。
「どうして私が……」
硬直する彼女の代わりに、啓区が内容を読んでいく。
そこに書いてあった情報は……、非情にあっさりとした文面でつづられた。一つの事実だけだった。
エアロが先代東領統治領主であるシトレの複製だという事。
「……」
自分が誰かのコピーだったという事は、彼女にとって大きな衝撃だっただろう。
「だから、あの時姫様の魔法が使えたんですね」
しかし、彼女は思ったよりも衝撃を受けていないようだった。
エアロは、納得したかのようにつぶやく。
まるで事前にそのことを予期していたかのような。
そんなはずはないだろうけど。
「魔法? その話、聞いていいかなー」
「ええ、それくらいなら別に」
説明されたのはシュナイデル城が襲撃された事件の事だ。
あれは、聖堂教か氷裏か、漆黒の刃か途中参戦の謎の女性が噛んでいる案件とみて現在調査中だが、その前に仲間達からそれぞれの場所で何があったか、話を聞いていたのだ。それはエアロも同じで……。
「前にも話したと思いますが」
エアロの口から語られたのは、中庭での出来事だ。
彼女が、コヨミのためにかけよって、彼女の体を支えた際、枯渇しかけた魔力の肩代わりをこなしていたという。
「なるほどー、エアロがシトレさんの……シトレさんと同じだっていうのなら、納得だよねー」
うっかり複製だと言いそうになったて慌てて口をつぐむ。
だが、彼女はそんなことはどうでも良いとばかりに、すぐに切り替えていた。
思案気な表情で、他のページもめくっている。
「他にもあるみたいですね。これは……、ラルドさん?」
「えー、そんなに驚愕の事実が連続で出てきちゃうー? 物語盛り上げるなら、もっと勿体付けた方がよくないー? いや、僕達的には助かるけどー」
エアロが見つけたページをみて、なんとも言えない心境になる。
もったいつけられたら困るのはこちら。
ただ、不自然な流れを感じとって気にかかるのだ。
それはうまく言葉にできないが……、何か良くない事の前触れのように思える。
「ラルドさんっていうとー。えーっと、未利に魔石を渡した人だっけー」
「はい、城の兵士で特務の人でした。今は一般人ですけど。その人がどうして……」え? 古戸?」
そこに書かれていたのは、古戸零種の記録だった。
ラルドという人物は古戸、フォルトの複製だという事実。
「どうしてこんなに……」
資料を調べてみると、エアロが気付いた。
シュナイデの町でおきた個人情報の流出事件と重なる点があるという。
この記録がされはじめた時期が、ちょうど同じなのだ。
個人情報流出事件の顛末もおまけのようにこの資料につづられていたので、間違いなさそうだ。
「この資料、もっとよく調べてみよっかー。まだほかにも、色々書かれてそうー」
ただ一つだけ明確なのか、思ったよりここでの滞在時間が伸びそうだという事。
隅っこの方で退屈そうにしていたディークさんが目に入る。
壁にもたれて「ふぁ」とあくびしている所だった。
目があったら、気まずそうな顔をした。
「あ、啓区様にエアロ先輩。もう終わりか?」
「もうちょっと調べていかなくちゃいけないかなー」
「ですね。気になる事があるので」
すると、ディークさんは残念そうな顔になる。
頭を使う事が苦手らしいディークさんは、最初に資料の仕分けした後に力尽きてしまったようだ。
難しい事すると頭が痛くなる、とか。
「ディークさんが集めてきてくれた資料を調べ終わったら、今日は切り上げる事にするよー」
「分かりました。じゃあ、ちょっと外の警戒でもしてきます」




