第21話 同盟の提案
人のいない区画を探して再び聖堂教内部をうろついていると、聖堂教会で働く者達になりすました漆黒メンバーがいた。
「身内が大変なご迷惑をおかけしました。処罰も与えず生かしておくほどの度量の持ち主ですから、どうか寛容な心で水に流してくださると嬉しいですわ」
捕まったメンバーについて述べながら、出会いがしらに嫌味を言ってきたので、間違いはないだろう。
甘いっていうのは自覚してるけど、生きていないと情報を得られなくなるというのもある。
でも、クルスさんとロザリーの身柄は城が預かっているから、僕達が何か言ったところで、そう簡単に生死を決められるものではないんだけどな。
話しかけてきたのは、見た事のない女の人だ。
「まさか本当に来るとは、思ってもいませんでしたわ」
メガネをかけた濃紫のおかっぱの女性で、年齢は二十代半ば。
化粧とかは全然してない。目鼻立ちも特にこれといた特徴がなくて、すぐに忘れてしまいそうな人だった。
地味な印象をあたえる女性だ。
でも、変装しているかもしれない。
相手はこちらを何度も困らせた組織。
そういう事をしてないと考える方が無理だ。
見た目通りの人間とは思わない方が良いだろう。
僕達は警戒しながら、相手の動向を見守る。
しかし、向こうに敵意はないようだ。
彼女は、自分の名前と所属を名乗ってから、単刀直入に話に入った。
「私の名前は、イア。漆黒の刃の一員であり、頭の補佐をしています。単刀直入に言いましょう。私達と……手を組む気はありませんか?」
「「「え?」」」
ハイネルさんとなあちゃんを除いたみんなが、あっけにとられた。
それは思わぬ一言だった。
予想外すぎる提案だ。
想定していなかった話に、おそらく僕達の誰もが思考停止していただろう。
そんな中、こちらに向かって微笑みかける女性イアは話を続けていく。
一時的でも良い、といった彼女は事の次第について語った。
「私達は、貴方達が想像している通りの組織です。ですが、今は貴方達と敵対する気はありません。雇い主とのちょっとした活動方針の違いで、先行きが怪しくなってきましたので」
そこまで、顔色を全く変えずに話した彼女。
こちらを見まわして、続ける。
「ですので、貴方達がふさわしい力を示したら、手を組みましょう」
そこまで言った彼女は、「しかし考える時間も必要でしょうね」とも告げた。
「じっくり考えてみてください。期限は特に設けていませんが、見込みがないのであればこの話はなかった事に。では」
そういって、彼女はその場から消えてしまった。
協力してほしい、というわりにはちょっと上から目線だ。
敵対していた人間同士だから、思うところがあると言えばそれまでだろうけど、なめられているのかもしれない。
でも見込みがないほど実力が低い、とは思われてはいない。
だから、手を組むだけの価値がある。
そんなところだろうか。
イアが去っていったあと、エアロが憤慨した様子で怒りをあらわにする。
「何なんですか、あの人! 急に現れたと思ったら。そんな勝手な……」
大幅に同意だけれど、憤慨してばかりもいられない。
これに対して、僕達はどう行動すればよいのか、考えなければ。
果たして正しい行動は何なのか。
相手の狙いは?
罠である可能性は?
考え込む一同に、姫ちゃんが己の意見を述べる。
「私達は相手の事何も知らないよね。もしかしたら、今までの行動には何か事情があるのかも。とりあえず、まず事情を話してもらうように頑張ろう。その後の事は、それから頑張るしかないよ」
確かにその通りだよね。
今の段階じゃ、推測材料が少なすぎる。
正しい回答にたどり着けるわけがない。
僕達は、いきなり予想の斜め上から放たれた一手に、頭を悩ませることになった。
これが、中央領滞在2日目の出来事だ。




